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なぜ英語が聞き取れないのか。リスニングのメカニズムと効果的な学習法

英語を学習する日本人にとって、リスニングは最も大きな壁の一つです。英語力と言うと英会話やスピーキング能力のことを思い浮かべる方が多いですが、スピーキング以前に、相手の話が聞き取れなければそもそも会話は成り立ちません。

10年近くたくさんの受講生の方に接してきましたが、経験上、リスニングでつまづく学習者が最も多いです。

しかし、一口に「リスニングが苦手」と言っても、その具体的な原因は様々です。聞き取りのメカニズムや個別の課題を把握しないまま闇雲にリスニング学習に取り組んでもなかなか効果は上がりません。

この記事では、
「人は言語を聞くときにどのようにして理解しているのか」
というメカニズムを紹介した上で、リスニングで理解できない理由を3つのパターンに分けてお伝えします。

自分がどのパターンに当てはまるのかを知れば、課題に対して最も効果的な学習をすることができます。みなさんがより効率的に英語学習を進める助けになれば幸いです。
では早速説明していきましょう。

リスニングのメカニズム

人は言葉を理解するときに、さまざまな種類の情報処理をこなしており、それぞれの処理に認知キャパシティが割かれています。

リスニングの理解の大まかなメカニズム

ボトムアップ処理とトップダウン処理

「ボトムアップ処理」とは、語彙や文法の知識を活用して下から積み上げていくように意味を構成していく処理です。

「トップダウン処理」は、持っている知識や文脈から「おそらくこういう話だろう」というふうに、上から仮説や予測を立てて理解していこうとする処理です。

おそらく多くの方は、「英文解釈」と聞くと、ボトムアップ処理=語彙と文法から意味を組み上げる能力の話だと無意識に思っているのではないでしょうか。しかし、トップダウン処理がうまくできなかったとき、人はほとんど情報を理解したり記憶したりすることができません。

人の理解は、①まずトップダウン的に「こういう話だろうな」と予測を立て、②予測が正しいかどうかをボトムアップで検証する、という順序で行われています。闇雲に単語や文法を憶えたところで、トップダウン処理ができなければスムーズに理解することはできないのです。つまり、いかに文法知識や語彙やリスニング力があっても、トップダウン処理をうまく使うための背景知識や推論能力なければ理解できないのです。

実際に、成績の良い人ほどトップダウン処理をうまく使っているという調査結果があります。

ボトムアップ処理の中身

次にボトムアップ処理の中身を詳しく見ていきましょう。

リスニング理解のメカニズム(再掲)

ボトムアップ処理は大まかに
①音声認識
②意味処理
③文脈把握
の処理を順々にこなしています。*

①音声認識は、聞こえた音を捉えて単語や表現を識別する作用です。
たとえば、[ɪ́ŋɡlɪʃ]という音を聞いて「あ、Englishという単語だ」と認識したり、「のらろー」という音を聞いて「not at allって言った」と判別するような作業です。

②意味処理は、①音声認識で拾った表現の意味を記憶のデータベースから引き出したり、文章単位で「こういう文構造にこの単語が組み込まれているのでこういう意味だ」と処理する作業です。

③文脈把握は、前後の話の内容や論の展開を記憶して、主張の全体像を捉えたり、話の内容を記憶に留めたりする作業です。この作業に十分な力を割けないと「結局なにを言ってるのか分からない」「何の話をしているのか忘れてしまった」ということになってしまいます。

これらの処理が、みなさんの脳内の限られた認知能力のキャパシティをめぐって競合しています。

なぜ聞き取れないのか

ここまでの内容を軽くおさらいします。

  • リスニングの理解は「ボトムアップ処理」と「トップダウン処理」の両方を使っており、トップダウン処理で話の展開を予測した上で、ボトムアップ処理で予測が正しいかどうかを検証しながら理解している。

  • ボトムアップ処理では「音声認識」で音を単語・表現として捉え、「意味処理」で捉えた表現を意味に変換し、「文脈把握」で論全体の主張内容を把握して記憶している。

これを踏まえた上で、リスニングの理解に失敗するパターンを3つ紹介します。「自分がどのパターンに当てはまるか」を考えながら読んでいただければ幸いです。

①音声認識に失敗するパターン

1つ目は、音声認識の処理に問題があるパターンです。日本人はここでつまづく人が最も多いです。

正しい発音を知らなければ、次の意味処理に進むことができません。聞こえた単語をもとに内容を予測(トップダウン処理)することもできません。入り口でつまづいてしまってどうにもならないパターンです。
たとえば"theory"という単語は「すぃぁり[θíːəri]」と発音されますが、「せおりー」という発音だと思っている人にはなかなか聞き取れません。

また、仮に聞き取れたとしても、音声認識に時間がかかりすぎてしまい、意味処理や文脈把握が十分にできないまま次の単語や文章が来てしまう、という場合もあります。

「"すぃぁり”? んん? なんの単語だ??? あ、"theory"か」

という作業をやっている間に次の単語が押し寄せてきてしまうイメージです。"すぃぁり"と聞いて一瞬で"theory"だと認識できなければスピードに追い付いていけません。

「刹那刹那で単語は聞こえてるんだけど、ぜんぜん意味が浮かんでこない」
「聞き取れているはずなんだけど、蓋を開けてみたら何も憶えてない」
という経験をした方は多いのではないでしょうか。
おそらく、音声認識にキャパや時間を奪われてしまい、意味を理解し記憶するための処理が十分に行えていないことが原因と思われます。

音声認識が認知キャパシティを圧迫し、意味処理や文脈把握に割く余力や時間がない

対処法としては、単語や表現の正しい発音を耳や脳に焼き付けることです。
音を聞いて自動的に一瞬で単語を識別できるようになるまで、何度も反復してリスニング練習や音読練習をこなしていきましょう。
自分の発音の思い込みを捨てて「実際にどう発音されているのか」に細心の注意を払いながら真似して音読練習していきましょう。

②意味処理に失敗するパターン

2つ目の可能性は、意味処理に失敗しているパターンです。

音のキャッチは楽にこなせて単語の認識はできるけど、その単語の意味を記憶から引き出したり、文章単位で意味を構成することに難儀しているケースです。

私の指導経験上の体感としては、このパターンの日本人学習者はあまり多くはありません。

聞こえても脳内で意味が浮かんでこないパターン

対処法としては、リーディングのインプット学習を繰り返すのが効果的です。意味を十分に理解できる難易度のパッセージを繰り返し黙読していくことで、
「この単語はこういう意味」
「この文構造はこういう意味」
というパターン認識を記憶に焼き付けていきましょう。

③トップダウン処理に失敗するパターン

3つ目のパターンは、トップダウン処理での論展開の予測に失敗するケースです。

繰り返しになりますが、①まずトップダウン的に「こういう話だろうな」と予測を立て、②予測が正しいかどうかをボトムアップで検証する、という順序で理解を進めています。

「こういう話をしているんだろうな」
という予測が立てられない、あるいは予測が間違っていると、そもそも検証すべき仮説が間違っているのでいくら英語力が高くてもどうしようもありません。

語彙力や文法知識以前に、テーマについての背景知識や推論能力がないと理解できない

対処法としては、日本語・英語を問わず、たくさん本を読んだりして知識や考え方の幅を拡げるしかありません。

私は高校の理科で物理と化学を選択したので、生物学の基礎知識がなかったため、進化生物学や遺伝子編集技術の話を英語で聞いてもほとんど理解できませんでした。
しかし、日本語でその分野の本を読み漁って基礎知識をつけてから遺伝子工学についてのTEDなどを聞くと、不思議なくらいに理解できるようになっていました。背景知識が「ああ、こういう話をするんだろうな」という予測を助けてくれているからです。
皮肉ですが、語彙力や文法知識があるだけでは英語を理解することはできません。普段から習慣的に教養を深めておく必要があります。

まとめ

ということで、
・リスニングの理解のメカニズム
・理解できないときの3つのパターン
・3パターンそれぞれに対処する学習法
をお伝えしてきました。

理解のメカニズム(再々掲)

闇雲にリスニング教材を聴き漁ったりしてもなかなか効果は上がりません。どのパターンでつまづいているのかを正しく把握して、
「この課題を解決するためにやってるんだ!」
という意識を持ちながら学習に臨むことで、時間もエネルギーも最も効率的に英語を上達させることができます。

貴重な時間を割いて最後まで読んでくださりありがとうございました。
みなさんの英語学習の成功を心から祈っています。

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