超主観的ボカロ史 電脳世界を彩る音楽たち 2011年編

 こんがお!

 どうも、苗輪和音です!


 さて、今回もここで話す文字数が惜しいくらいに量が多いので早速本題に入らせていただこうと思います。

いくぞ!!!




超主観的ボカロ史 2011年編


腐れ外道とチョコレゐト / 初音ミク


2011/1/10

 現在も第一線で活躍するボカロP・キノピオピー氏の名をそれまで以上に広めた作品。
 ここ数年の作品から氏を知ったという人はそのロックでブラックな内容に少々驚くかもしれないが、逆に言うと氏の知らなかった面を知る事が出来るので聴いてみるのもいいのではないだろうか。
 この作品の大ヒットを以て激動の2011年は幕を開けた。




【GUMI】十面相【オリジナル曲】


2011/1/14

 YM氏による作品。
 楽曲が進むにつれてテンポが速くなっていくという展開で主人公である多重人格の少女の「早まる鼓動」や加速する思考を表現しているという内容の本作は、2010年のボカロのロックを想起させる。
 しかしそこから更に洗練されたものになっており、メインリスナー層である学生層があまり聴き馴染みのないものになっている事などが大ヒットに繋がったのではないだろうか。




【鏡音リン┗|∵|┓】 スキキライ 【鏡音レンAppend・オリジナルPV】


2011/1/21

 タイトルにある埴輪を模した顔文字から分かる通り、現在も10代を中心に若い世代に人気のユニット・HoneyWorksの初期作品。
 鏡音リン・レンのデュエット曲である本作は中学生同士の恋愛を歌ったもので、内容の通りボカロのメインリスナー層である学生の中でも特に中学生に大きく響き、HoneyWorksのメインリスナー層、言い換えれば顧客を獲得する事に成功したのである。
 2010年頃より流行の兆しを見せていたガーリッシュな作品の流れを汲む作品であり、ここをきっかけとして更に飛躍していく事になる。
 またよりマクロな視点から見ると、現在のボカロやアニソンを支えるHoneyWorksがそうなっていける地盤を築くきっかけともなった作品であり、この作品が無ければボカロ・アニソンの発展は少し遅れていたかもしれない。




【オリジナル曲PV】 パンダヒーロー 【GUMI】


2011/1/23

 ハチ氏による作品。ここまでそこそこの数の氏の作品について書いている気がするが、そのほとんどがボカロの発展に欠かせないものなので仕方ないのである。
 前年の『マトリョシカ』で培ったノリの良いハイテンポ感とそれまでの作品で培っていた独特の言語センスと退廃的で示唆に富んだ歌詞、そしてロック。それら全てをフルで使ったボカロ作品がこの『パンダヒーロー』である。
 この作品が後続に与えた影響は計り知れず、恐らく一時期はボカロPやリスナーの殆どが嫌でも本作の事が意識の中にあったのではないだろうか。
 だが、ハチ氏はこれ以降別名義である『米津玄師』の活動を活発化させていく為、ここから『ドーナツホール』が投稿される約2年半後までの間、氏のボカロ作品の供給は一時的にストップする事となる。




【鏡音リンレン】リモコン【オリジナル/ワンオポ】


2011/2/16

 じーざすP氏、また氏の所属する音楽サークル『ワンダフル☆オポチュニティ!』の作品。
 ダンサブルでポップなメロディーと韻を踏んでいる歌詞が特徴的な本作は、これ以降のボカロのクラブミュージックの基準の一つになったのではないだろうか。
 またここから様々なヒット作を生み出す事になるじーざすP氏が一躍注目を浴びる事となったきっかけの一つでもあるのではないだろうか。




【初音ミク】人造エネミー【オリジナル曲】


2011/2/17

 じん(自然の敵P)氏の初ボカロ作品
 デジタルなドラムンベースの本作は、初のボカロ作品だとは到底思えない完成度とややブラックな世界観により一気に人気が爆発する事となる。
 ここで一気に支持を集めた氏はこの年、ボカロ界隈に一大ムーブメントを巻き起こす作品を投稿する事になる。




【ニコニコラボ】 Mr.Music 【ボーカロイドオリジナル】


2011/3/4

 れるりり氏、ロンチーノ・ペペ氏、かごめP氏、喜兵衛氏、baker氏、ライブP氏、オワタP氏、Nem氏、とくP氏、友達募集P氏、こみね氏、that氏、mallory氏という凄まじく豪華なメンバーがコラボして制作された作品。
 ファンキーポップな曲調と参加したクリエイターたち各々に調教されたボーカロイドたちの個性溢れる歌声を一気に楽しめる本作は、各々のネームバリューだけでなく純粋に音楽としての評価も高く、投稿から10年が経った現在でも愛されている。
 本作の投稿者であり参加クリエイターの一人でもあるれるりり氏は、ここをきっかけに更に人気が高まっていく事になる。




初音ミク オリジナル曲 「アンハッピーリフレイン」


2011/5/2

 wowaka氏の作品。
 氏のボカロ作品として約1年ぶりとなる本作は、投稿後1日と経たずに殿堂入りを果たした。
 前作『ワールズエンド・ダンスホール』から更に進化したソリッドなロックナンバーとして当時から不動の人気であり、現在でもその人気は揺るがない。
 氏がここまでに制作したボーカロイド作品のエッセンスが曲中に散りばめられており、ある意味ではwowakaのボカロの集大成とも言えるだろう。
 彼がボカロ文化に与えた影響の大きさは計り知れない。




【初音ミク】バビロン【オリジナル曲】


2011/5/2

 トーマ氏の作品。
 本人が描いたイラストや凄まじいまでに転調するメロディーに乗せられた退廃的な歌詞などその圧倒的な世界観を以てボカロP・トーマの名を広く轟かせた作品であり、氏の代表作品の一つである。
 この作品単体が後続に与えた影響もそうだが、この作品をきっかけにトーマというクリエイターが数多くの人の目に留まるようになったというのはボカロ文化の発展の中で特に欠かせないキーなのではないだろうか。




【鏡音リン】アブストラクト・ナンセンス【オリジナル曲】


2011/5/6

 Neru氏の作品。
 氏が一気に注目を集める事になったきっかけであり、「Neruと言えばロック」という曲調の路線が決定された作品でもある。
 口語的で攻撃的ながらも自虐的な歌詞が学生を中心とした層に熱烈な支持を受け、Neru氏の「学生たちの不平不満を代弁する者」というような側面が強く打ち出されている作品群の中の始まりでもある。




【初音ミク】戯言スピーカー【オリジナル曲】


2011/5/7

 現在、シンガー・サウンドコンポーザーとして活躍するササノマリイことねこぼーろ氏の作品。
 悲しさや辛さが満ちた歌詞を優しく儚いメロディーで包んだ本作は、氏の初殿堂入り作品としても知られている。
 その内容や投稿時期などを考えると、何かに縋るような想いでこの楽曲を聴いていた人もいたのかもしれない。暗く重い気持ちを抱えている時には明るい場所より自分と同じような場所を眺めていたくなる人もいるのだ。




天ノ弱/164 feat.GUMI


2011/5/28

 164氏の作品。
 2011年のボカロ作品、ひいてはボカロ作品全体を代表する作品の一つである。
 弱虫で天邪鬼な主人公の恋愛模様を描いたロックナンバーで、DECO*27氏やトーマ氏らの作品と同様にこれ以降のボーカロイドのロック作品におけるスタンダードとなっている。




【GUMI】クワガタにチョップしたらタイムスリップした【オリジナル曲】


2011/7/11

 家の裏でマンボウが死んでるP氏の作品。
 タイトルを一目見るだけで誰の作品か分かるのが氏の作品の大きな特徴である。
 そして以前から活動していた氏の名を更に多くの人に知らしめる事になった作品でもある。
 人類誕生以降絶対に結びつかなかったであろう単語同士が結びついた結果生まれたタイトルの通りのシチュエーションから始まる本作の物語は、ギャグやコメディー要素の強い内容なのかかと思いきや徐々に明かされる真実により急展開を迎え最後にはまとまる。たった5分ほどの作品の中でしっかりとしたSFが完成されているのである。凄まじい手腕だと思う。1行目の歌詞と最終行の歌詞の対比もしっかりと効いていて、とにかく凄い。また音楽自体もとても素晴らしく、ギターとドラムが前面にあるポップスとしてしっかり成立しているため、究極的にはインストver.だけでもしっかり聴けるのである。
 余談ではあるが、この記事を書いているタイミングでこの作品はちょうど10周年を迎えた。おめでとうございます!




【初音ミク(40㍍)】 からくりピエロ 【オリジナルPV】


2011/7/15

 40mP氏の作品。
 投稿から10年が経った現在でもカラオケのボカロランキングの上位に入っている事や「歌ってみた」作品の投稿も絶えない事などからもその人気の高さが伺える。
 ジャズテイストなピアノと落ち着いたバンドサウンドの調和が本作の歌詞が持つ切なさや苦しさと見事にマッチしており、より情景が浮かび上がってくるようになっている。
 落ち着いた静かな曲調で普遍性の高い所から一歩踏み込んだ内容の歌詞は聴いた人の心の奥深くに響く。そういう作品だからこそ、この2011年という迷いや不安が色濃く出た時代に流行したのではないだろうか。




【VOCALOIDミュージカル】Alice in Musicland【オリジナル曲】


2011/7/24

 OSTER project氏の作品。
 ボカロ作品としてはかなり珍しい「ミュージカル」作品であり10分を超える超大作である。
 また初音ミク鏡音リン鏡音レン巡音ルカKAITOMEIKO計6人のボーカロイドが使用されておりそれぞれがミュージカル俳優としてセリフ調の歌詞を見事に歌い上げる。
 ボカロを見事に使いこなす手腕と氏の得意分野でもあるブラスバンドを使用したジャジーでキュートな音楽も相まって10分超という時間を忘れてしまうほどその世界観に魅了されてしまうのだ。
 そして何と言っても「ボカロとミュージカル」の親和性を世の中に示す事が出来たのはとても大きい事だと個人的に思う。「ボーカロイド」というものは息継ぎなしでブレなく高音域て低音域を表現できる上、しっかりと調教しれば滑らかに文章を読み上げる事も可能である。歌う為に生まれた存在がミュージカルと相性が悪い訳がないのである。
 ボカロの可能性を広げた作品としてこの作品は非常に重要であると考える。




【鏡音リン・レンpower】ジャバヲッキー・ジャバヲッカ【オリジナル】


2011/7/29

 今のアニソンを語る上で欠かせない存在となったカラスヤサボウ氏の作品。
 小説や映画、童話など様々な創作物を下敷きとした上にスタイリッシュなギターロックで世界観を創る事を得意としている氏の作品でも特に人気の高いものの一つとして広く認知されている。
 この作品も例に漏れず『鏡の国のアリス』に登場する『ジャバウォックの詩』を下敷きとして、氏独自の世界観を構築している。
 この作品単体が与えた影響もさることながら、カラスヤサボウというクリエイターがボカロ文化に与えた影響というものも計り知れないのである。




【調教すげぇ】初音ミク『FREELY TOMORROW』(完成)【オリジナル】


2011/7/31

 Mitchie M氏によるボカロに対する世間の認識を一変させた伝説の作品。
 この作品の一体何がそんなに凄いのか。それはその歌声である。
 タイトルにもあるようにとにかく調教が凄いのである。「人間が歌っているのでは?」と錯覚しそうになるほど滑らかな発声とブレス、息の抜き方などなどとにかく今までのボカロ作品と一線を画すほどの調教が成されたものが本作である。
 また楽曲自体も1990年代後半から2000年頃にかけて流行したオシャレなダンスポップである事も相まって、世間に受け入れられやすいものであった事もかなり重要だ。もしこれが世間で受け入れられにくいテイストの楽曲だったなら反応は悪かっただろう。
 氏の凄まじいまでの根性と調教技術、その絶妙な音楽センスと言語センスがあったからこそ伝説の作品なのである。




【鏡音リン】東京テディベア【オリジナル曲PV付】


2011/8/14

 Neru氏の代表的な作品の一つ。
 鬱屈として自虐的な歌詞と重々しい中に解放感の残るロックサウンドが特徴的な本作は、メインリスナー層である学生、特に中高生に熱烈な支持を受けている。
 上述した『アブストラクト・ナンセンス』と同じくNeru氏のこの時期のサウンドを象徴する作品であり、2011年以降のボカロ作品の流行の土台を作った作品の一つでもある。




【VY1】サイバーサンダーサイダー【オリジナル曲】


2011/8/28

 以前よりゲーム音楽のアレンジなどの活動を行っていたEZFG氏の初ボーカロイド作品。
 ハイテンポでクールな楽曲に乗せられたタイトルにもある「サイバー」、「サンダー」、「サイダー」という単語を連続させる特徴的で示唆に富んだ歌詞が有名な本作。動画を観た事がなくてもタイトルは知っているという人も多いのではないだろうか。
 『FREELY TOMORROW』や『からくりピエロ』など人間でも普通に歌えるボカロ作品が多くなっていた時代だからこそ、本作のようなボーカロイド然としたものが広く支持を集めたのかもしれない。
 初投稿作品でリスナーに強烈なインパクトを与えたEZFG氏はこれ以降も活躍を重ねていく事になる。




『初音ミク』千本桜『オリジナル曲PV』


2011/9/17

 黒うさP氏によるボカロ史上空前絶後の伝説的作品。
 元から人気の高い黒うさP氏の作品である事も相まってボカロリスナーの間では投稿当初から注目度は高かったが、凄まじくキャッチーでノリの良い和風テイストの楽曲意味が分かるような分からないような歌詞和洋折衷のハイカラな雰囲気を醸し出すイラストなど様々な要素の融合により視聴者層は更に拡大。普段はあまりボカロを聴かない人々にも聴かれ、カラオケでも長く歌われ続け、遂に再生回数は1000万回を突破。そしてその凄まじい人気に目を付けた様々な自治体や企業とのコラボ、この作品を基にした『小説千本桜』の刊行やミュージカル『音楽劇「千本桜」』などの上演も行われた。そして遂には大物演歌歌手である小林幸子氏による第66回NHK紅白歌合戦での歌唱も行われ、名実共に「ボーカロイド」という存在とそれに付随する文化の代名詞となった。
 また、この作品の人気は日本国内だけに留まらず諸外国のボカロ好きからも絶大な人気を誇っており、今もなお沢山の人々を魅了し続けている。
 ここまで様々なボカロ作品が登場してきたが、この作品はボカロ史を見ていく上で絶対に欠かす事の出来ないマスターピースである。




【初音ミク】カゲロウデイズ【オリジナルPV】


2011/9/30

 じん(自然の敵P)氏の人気を決定づけ、後に様々なメディア展開がなされるプロジェクト『カゲロウプロジェクト』の根幹を成す始まりの作品である。
 電子音を前面に押し出していた前作『人造エネミー』とは打って変わったバンドサウンド全開の楽曲であり、そのキャッチーさと聴き心地の良いカッコ良さが感受性豊かな学生のリスナー層から熱烈な支持を受け、ボカロ文化の発展に欠かせない作品となった。
 2011年及びそれ以降数年間ボカロ文化のメインストリームとなるサウンドの源流であると言える。




ゆるふわ樹海ガール/歌、初音ミク


2011/10/14

 現在、ロックバンド・ネクライトーキーにてギターと作詞作曲を担当している朝日こと石風呂氏の作品。
 爽やかなポップロックに乗せてネガティブ&ひねくれた歌詞を歌うこの作品は高校生や大学生を中心とした若い世代から人気を集めた。
 この作品をよく観ていた当時は今よりも音楽に詳しくなかったので気付かなかったが、今改めて聴くとめちゃくちゃ邦ロックなのである。いわゆる「ロキノン系」バンドの中でも特に2000年代に大きく活躍したバンドたちのサウンドに近しいものがある作品だと思う。
 ボカロをメインに聴いていたリスナー層に新しい音楽を提示したという意味でもこれ以降のボカロ文化の多様性を広げるきっかけを作った作品だとも思う。





【初音ミク】エンヴィキャットウォーク【オリジナル曲】


2011/10/22

 トーマ氏の作品。
 氏の得意とする変拍子がふんだんに使われている作品であり、一番のAメロ→Bメロ→サビのセクションでそれぞれテンポがハッキリ分かるほど変化しており、二番では更に凄まじい展開が存在している。
 また歌声のキーが高めに設定されていたりリズムに対して歌詞量が多いなど、ある意味「ボカロらしい」作品であるという見方も出来る。
 また氏の『バビロン』や本作のイントロやアウトロのセンスの高さから分かる通り、作曲だけでなく編曲も完璧に出来ている。トーマという才能は間違いなくボカロ文化の一時代を築いた。




【GUMI】 人生リセットボタン 【オリジナル曲・PV付】


2011/11/7

 現在、ロックバンド『PENGUIN RESEARCH』にてベースとメインの作詞作曲を担当している堀江晶太ことkemu氏の初ボカロ作品である。
 BPM200という高速リズムハードロックを思わせるギターやベース、そこに良いアクセントとなるキーボード大サビ前のメロディアスな間奏などから繰り出される「人生を任意のタイミングでリセット出来るボタン」というアイテムを中心に据えたSFチックな世界観は当時のラノベブームと相まって中高生を中心に大ヒットを記録した。
 この作品の爆発的人気をきっかけとしてkemu氏はボカロ界隈に新風を巻き起こす事になる。





【鏡音リン】深海シティアンダーグラウンド【オリジナルPV】


2011/11/22

 田中B氏の作品。
 示唆に富んだやや難解な歌詞とキャッチーでダークな楽曲が特徴的な作品であり、氏の名を広く知らしめた作品でもある。
 2010年までのボカロ作品を感じさせつつもしっかりと2011年にアップデートされている曲調は、ボカロを聴く世代全体に受け入れられ、確固たる地位を築くに至った。
 2010年までと2011年以降のボカロ作品になんとなく、だが確実に存在する違いを理解するのに非常に役立つ作品なのではないだろうかと個人的に思う。




【GUMI・鏡音リン】 インビジブル 【オリジナル曲・PV付】


2011/12/20

 前作『人生リセットボタン』で一躍人気ボカロPとなったkemu氏の地位を確かなものとした作品。
 前作と同じく高速BPMに乗せた歪んだギターとドラムが中心のロックサウンドと「透明人間」を主人公に据えたSFチックな世界観は、氏の作品の方向性を決定づけたと共に『人生リセットボタン』を思わせるフレーズなどが意図的に仕込まれているという、明言しないながらも作品同士の繋がりを匂わせる手法によって中高生を中心とした固定ファン層の獲得を成した。
 またkemu氏はこの作品投稿から約半月後の2012年1月7日に『人生リセットボタン』、『インビジブル』の両作品でイラスト、動画、OSなどをそれぞれ担当したハツ子氏、ke-sanβ氏、スズム氏らと共にサークル『KEMU VOXX』を結成した。以降、kemu氏の投稿する作品は『KEMU VOXX』という名義の下、ひと纏まりの作品群としてボカロ文化に多大な影響を与える事になる。




【初音ミク、巡音ルカ】リンちゃんなう!【ガルナ/オワタP】


2011/12/27

 ガルナ(オワタP)氏の作品。厳密に言うと、作詞を担当したsezu(杉の人)氏がTwitterに投稿していた鏡音リンへの愛が溢れるツイート(リン廃ツイート)が本作のイラストと動画を担当した田村ヒロ氏の萌え心に直撃した事がきっかけで執筆されたショート漫画『リンちゃんなう』ガルナ(オワタP)氏が曲にした。という経緯により世に放たれた作品である。
 元々オタク文化に存在する「萌え」という概念にはどんなジャンルでもほぼ必ずこういった特定キャラや人物への深い愛情が極まる事で生成される『怪文書』というものが存在するのだが、この作品もその系譜に存在する作品だろうと考察する。
 ボカロ文化でも黎明期には『恋スルVOC@LOID』や『えれくとりっく・えんじぇう』など「初音ミクへの愛を歌という形にした」作品はあったが、そういった文化も徐々に消えていった中、2011年末に登場したこの作品はまさに「オタク文化の王政復古」と言っても過言ではないだろう。
 現在ニコニコ動画で活発な動きを見せる『アイドルマスター』シリーズや『ウマ娘』関連の怪文書やMAD動画の大本と言っても差し支えないのかも……しれない。異論は認める。





【2011年評】

 2010年に引き続き、現在に至るまで活躍を続けるクリエイターたちが続々と登場したこの2011年。

 その中でも、じん(自然の敵P)氏やトーマ氏、Neru氏、石風呂氏、kemu氏の登場、『千本桜』や『スキキライ』などの作品たちは明らかにボカロ文化を発展させたクリエイターたちである。

 しかし、彼らの台頭は同時にインターネットに疎い上に他人の作品を貶めるような言動を繰り返したり常に喧嘩腰でマトモに聞く耳を持たない上にそれに無自覚な人々、俗に言う「キッズ」たちをボカロ文化に招きいれる事にも繋がってしまった。

 もちろん上記の例に出したクリエイターたちの作品を純粋に楽しんでいる新規リスナーも大勢いたし、クリエイター側もそういう人に対しては色々対策を行っていた。しかし白い紙に付いたゴミが目立つように「キッズ」たちの言動はそうではない多くの人々の目に余る事となり、両者間での争いや関係ない動画で特定作品について言及するなどの荒らし行為もしばしば見受けられるようになった。

 これにより、2010年を通して起きたリスナー層の入れ替わりが加速したと共に2010年以前の一定のリスナー層と2011年以降の一定のリスナー層との間には壁が隔てられる事となる。まあ本当に一部だけだが。

 また、ストーリー性を持つ作品に対する「考察」が盛んに行われはじめたのもこの時代辺りである。このボカロ文化内に存在する「考察」という文化は別に悪いとは思わない。が、持っている情報量が大人たちに比べ圧倒的に少ない学生が中心となって「考察」が盛り上がりを見せていた為に、あまりにも突飛な考察やかなり強引な考察を展開する人が増えただけに留まらず自身の考えを他人にも強要するなどの行為も見られた。

 「基となるものに沿って理論的に前後で整合性がしっかり取れる範囲で考え察する事」「考察」の醍醐味であり、「かなり突飛なもの」などはそこまで行くともうただの「妄想」なのである。チラシの裏に書くに留め、他人に強要するのは止めた方がいい。あまつさえそれを作者に押し付けるなど言語道断である。

 改めてもう一度言うが「考察」は悪い文化ではない。「妄想」を強要する事が悪なのだ。

 主題から脱線したので話を戻す。

 それまでの「一枚絵+歌詞字幕」が主流だったMVから徐々にリリックビデオが増えていき、この2011年には『カゲロウデイズ』や『人生リセットボタン』などに代表されるような手法が主流となっていった。

 高品質なMVが増えたという事は、つまりそれだけの技術を持ったクリエイターたちが本格的に流入し始めたという事なのではないだろうか。

 そのような2011年頃に登場したクリエイターたちの輝かしい功績により「ボカロ」はより注目の的となっていく。

 「ボカロ作品」で一定以上の評価を得る事で音楽業界に鳴り物入りで進出する事が可能だという道が出来上がったのだ。

 以前にも書いたが、売れるのは別に悪い事ではない。むしろ界隈が活発化するなら良い事だ。しかしそうやって商業的な売り方をしていくなら「ボーカロイド」に対する敬意は持っておかねばならない。たまにその部分が欠如している人を見かけるが、そこはしっかり大事にしてほしいものである。先人が築き上げてきたものは例え古くとも無意味だった訳ではないのだ。

 この2011年は様々な面で変革期に入った年であったと思う。それはボカロ文化も例外でない。

 そして来る2012年へとその変革と高度成長は続いていくのである。




 あとがき的に一応言っておくが、筆者はこの時代のボカロ作品めちゃくちゃ好きだしなんなら世代的にもこの時代である。だからこそこの時代に起きていた色々な事も知っているし、結果として「キッズ」たちの言動にも辟易しているので少々乱暴な書き方になってしまった事は謝罪したい

 それでは、次回『超主観的ボカロ史 2012年編』でお会いしましょう。


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