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Dual Residence:サくら&りんゴ #19

That's Canada!

ようやく一回目のワクチン接種である。
いくつかの接種会場の中で一番近い、リクリエーションセンターに来るのを待ってパソコンで予約した。ご近所の知り合いたちはもう二回目のショットを済ませているので、私はかなり出遅れている。
10:55というカナダにしては(失礼!)細かい区切りの予約時間。
10分前には到着の事とある。少し早めに出ることにする。

予約の返信メールで、時間と場所を再確認。ヘルスカード、マスク。
しっかり確認してきたつもりが、リクリエーションセンターの駐車場に着いたとたん、スマホがないことに気づく。きっとパソコンのそばに置いたままだ。
一瞬ヘルスカードだけで大丈夫かも?と頭をよぎるが、いや、予約のQRコードが来ていたからやっぱり必要だと、車のエンジンをかけなおす。気持ちが少し慌てる。
先日もスーパーのレジに並んでから財布を忘れたことに気づいたり、最近(以前から?)かなりぼけてきている。ヤバイ

ビーチロードは工事中で, (ずっと前からではあるが。1年で10m進んだ感じ?)とろとろ運転。気持ちは焦るが慌てると余計面倒な事が起きかねないので、ゆっくり行こうと思う。
とにかく、日本ではないのだから多少の遅れは大丈夫。10分前は無理でも予約時間の10:55にはギリギリつきそうだ。
早めに家を出て良かった。

家に戻ると予想通りの場所で無事スマホをつかみ、車に飛び乗り、そして再びリクリエーションセンターの駐車場。
ちょうど出てきた人が、入り口は反対側だと教えてくれる。
カナダの人は親切である。
急ぎ足で建物をぐるりと回ると、
は?
そこは長蛇の列ではないか。
どゆこと?

時間より遅れているの、最後尾はここよ。
防疫の上っ張りにフェースガードを付けた女性に告げられる。

やれやれ、間に合ったというかなんというか。こりゃ外で30分は待ちそうである。
10:55という予約時間はいったい・・・。
ようやく建物の中に入り、名前と予約時間を告げる。
さらに列。
かつて救急で行った病院で7時間待った経験から言えば、ワクチンのための30分なんてたかが知れている。
接種のブースは8つ。
問診があるのでひとりひとりに時間がかかっている。
さらに待つ。
ようやく呼ばれて消毒されたパイプ椅子に座る。
担当はレジスタードナースのサラだと紹介される。

パソコンで私の名前を探しているのでスマホを開けてQRコードを見せると

それは必要ないわ。スキャナーがないの。

は?読み取り機がないって、どゆこと?である。せっかく取りに戻ったというのに!

人数が多いから見つけるのに苦労するわ!

とパソコンの画面をスクロールしているサラ。
やれやれ、長蛇の原因はこれもあったに違いない。

アメリカに34歳までいた夫はしょっちゅう
That’s Canada
と言っていた。夫だけかと思っていたら、フロリダ生まれのWendieも同じフレーズを言うのに出くわした。そのフレーズが出てくる具体例を覚えていないのだが、なにか少し、ぼんやりしているというか、抜けているというか、それって理論的におかしくない?っというか、そんな状況のときである。

ぼんやりしている私は 最初は今ひとつピンと来ていなかったが、病院関係などで、どーゆーことー?!!を経験するうち、このフレーズの意味がだんだん見えてきた。どーゆーことー!が来るたび頭に来て大変だった時期もあったが、最近は、そゆことね、といたって余裕である。

なにはともあれ、接種を終え15分の経過観察の間も特に問題はなく家に戻る。眠いような頭がふらつくような気もしたが、それは昨夜東京の教室で問題が勃発し真夜中に起きて保護者とスカイプでやり取りをしたせいだろう。

ゆっくり昼寝をして、あとで野菜畑の手入れをしよう。

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キュウリの苗が育ってきている
まだ小さな苗たちには湖の水をくんでペットボトルで水やりをする。
ビーチを何度か行き来する
夕方遅いこの時間帯のビーチは水鳥たちの憩いの場である。
この季節、たいてい子連れの大家族でやってくる。

グースは用心深く、子供たちが餌をついばんでいる間、親は監視をしている。ビーチ側のガラスドアを開けただけでとシャキっと首がのび、こちらを警戒して見ている。

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一方ダックはのんびりしている。 
ちっちゃなダックリンたちは水汲みをする私に向かって歩いて来る。親は後ろから見守っているだけだ。
私が泳いでいる前を平気で横切って行くのも彼らである。

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こんな風に水鳥たちを見ていると、
かつてのせわしい東京での生活が嘘のようである。
すぐ背後にあった、ここカナダでの生死を分ける怒涛の日々さえも、
静かに遠のきつつあった。
今日の湖面はあくまでも穏やかで、
時折の微風が水の香りを連れてくる。

遠くで仲間を呼ぶグースの声がする。

もちろん、東京の教室での問題など、やらなければならない事はたくさんある。こちらカナダでも解決しなければならないことは今も変わらずある。
それに加えて、車を借りたらエアコンが効かないし、冷蔵庫があまり冷えなくなった。地下の内装の見積もりを頼んだら、あり得ない値段が返って来た、そんなことも次々起こる。

でも湖を見ていたら、
それらは何の問題でもないように思えてくる。
日々の生活の中で当たり前のように起こる
シンプルなひとつひとつ。

かつては先の事がきちんと計画されていなければ、落ち着かなかったし、 
予定通りにいかないと慌てた。

でももうゆっくり行こう
そこにある流れにのって
無理に自分の支流を作ろうと考えることもない
ありのままに
自然に
なんせ私は、
この小さい湖でさえコントロールすることができないほど
無力なのだ

荒れた日は窓辺に立って白い波を眺め、
穏やかな日にはボートを出す
水温が上がれば泳ぎに出て、
子どもたちはフロートの上から飛び込み合戦。
氷が張ればリンクを作って
スケートにホッケー
そして深く凍るころには車を出してアイスフィッシング。
こんな風に、
人々は自分たちの好きなように湖で遊んでいるつもりであっても
実際のところは湖の言いなりである


水平線から昇る太陽を眺め
月が天空に弧を描くのを見届け
メープルの葉の間を通り抜ける風を頬に感じ
グースたちの着水音を聞く
そして今年も裏庭にキュウリの種を植えて
花が咲くのを待っている
私は今
自然の中の一員として
そんな風に生きることができるのは
カナダのおかげであると思っている
私にとってはそれがまさに
That's Canada

花も草木も動物と同じように命がある
それは自然を故郷とし
ハンターであった夫の言葉である。

夫が亡くなって
True Northを失ったボートの上で
noteを書き始めて1年。

これが100回目の投稿となりました。

マガジン
キュウリの花
https://note.com/kazunagatsuki/m/mf11651072e7f



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