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見えないということ

本人がこのトップの写真を知ったら怒っちゃうかもしれない。
だから、こっそり、ここだけの秘密。

ここカナダではレイバーデイというホリデーを含めたロングウィークエンド。ビーチクラブでもフードトラックとミュージックバンドのパーティが催される。
それに合わせて、友人の娘がやって来た。
視覚にチャレンジング、つまり生まれつきほどんど視力がない。

医師からは手術などで治る見込みはないと言われているらしい。
何も見えていないはずだ、とも。
でもうっすらと見えているのだと彼女と接しているとわかる。
6歳。
レイバーデイが終わったら、グレイド1。つまり小学一年生だ。

視覚にチャレンジングだからかもしれないが、知能的にも少しゆっくり目である。そしてなかなかに頑固。
やりたくないことは絶対やらない。

この日、
ズッキーニマフィンを作ろうと思うのだけれど、手伝ってくれる?
そう聞くと即座に

No

(え~即答ですかあ~💦)
(笑)じゃあもう少し後でね。

私はひとりで材料をそろえ始める。
ちょっと大げさに音を立てて。

ガラス製ファイヤーキングのボールを取り出す音
コツンコツン
マフィン用のパンを取り出す音
バンバン
計量スプーンたちが触れ合う音
カタカタカタ

What are you doing?

聞きなれない音がしたのだろう。女の子が聞いてくる。

ズッキーニマフィンを作るの。
手伝ってくれる?

Nyon

あら?ちょっと今度はあいまいな返事(笑)

私は材料を低いテーブルに準備する。

さあ、手を洗って、なんて言うとパパに連れられて手を洗いに行っている。

うふふ、しめしめ。

まずは小麦粉
計量カップですくって分量をボールに入れてもらう。
砂糖はどこかしら?
これ?
匂いを嗅いでそうだという。
シナモンとナツメグ
どっちがどっち?
クンクンとパッケージを開けて匂いを確かめている。

卵も割ってもらった。
勢いよく黄みが飛び出して女の子の膝の上に落ちてしまう。

スライミーな卵の中身を触って、もう嫌だと言い出すかと思ったら
笑っている。

触って匂って確かめる

ミルクにバニラエッセンス。
ひとつずつ匂いを確かめる。

細くしたズッキーニも加えて、サラサラだった小麦粉がモチモチそしてねばねばに。

マフィンパンに生地を分け入れてオーブンで20分。

じゃじゃーん!

シナモンとバニラエッセンスの香りがあたりに広がる。
待ちきれなくてまだ熱いうちにひとくち。
熱いと言って女の子はお皿にもどす。

ひょっとして口に合わない?
どうかなあなんて思って見ていると丸ごと完食。

ほっとして私は嬉しくなった。

そしてその後がトップ写真のミュージックライブ

ビーチに行く?
No
バンドの近くに行って聴く?

白い杖を持ってミュージックバンドの真ん前まで行ってみる。ビーチの砂は杖を持ってはちょっと歩きにくい。
はじめは私と一緒にリズムに合わせて体を動かしていただけだったのが、知らない女性もやってきて手を繋いでくれた。
バンドの前で私たち三人のダンシングタイム。

女の子はうれしくってぴょんぴょん
こんなに飛び跳ねている彼女を私は初めて見た。

一曲終わって女性が聞いてきた
お名前は何?
そして
彼女をハグしても大丈夫?

もちろん
私が言うと女性は女の子をぎゅっと抱きしめそして私に言った。
うちに自閉症の孫がいるの。

ハグしてもいいかと聞いたのはそういうことだったか(触られるのを嫌がる傾向にある)
全く知らない女性だったけれど、そんな心遣いもうれしくて私も女性をありがとうとぎゅっと抱きしめた。

目が見えない

それを不幸だとか、かわいそうだとか
いや、そういうことじゃないんだと
私に気づかせてくれたのはこの女の子だ。

なんてかわいそうなの、だから助けてあげる
いや、そういう思いあがったことじゃないんだと。


女の子は自分で作ったマフィンがとても気に入って

シュガーと?
と材料をおさらいのように話す。

卵も割ったよね、ミルクと・・それから・・

一度おさらいが終わるとマフィンをまた食べるという。

ミュージックライブから戻ってくるとまた

シュガーと・・?
そうね卵も割ったよね。。

そしておさらいが済むとまたマフインを食べるという。

女の子が美味しそうに食べる様子は私をとても幸せにする。


あの時のことを覚えている。
見えないことが、不幸だとかかわいそうだとか、そういうことではないのだと気づいた夜。
それは満月の宵で。
私たちは裏庭にいた。
すると女の子が月だと突然言ったのだ。
パパが見えているわけがないと。またただの空想かと上の空で聞き流していると、また月だと女の子が言う。
じゃあ月はどこにあるの指してみて
パパが言うと女の子はちゃんと天空の白い月を指さしたのである。

私とパパは驚いて顔を見合わせた。
パパはあわてて女の子が月を指す姿を写真に撮る。
そのうれしそうな顔を見て私はふっと涙が出そうになった。

自分でも知らないうちに女の子は
私を幸せにしてくれている。

子どもたちが思い思いに遊んでいる

レイバーデイを境に湖畔は秋へと加速度を増してゆく。


日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。