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よあけ

久ぶりに朝の入浴。
体がほぐれて気持ちいい。

コーヒー用のケトルのスイッチを入れて
リビングのキルトシェイドを巻き上げる。

ひんやりとしたガラスドア
夜明け前の湖。

昨夜ライブラリーのファイルを整理していたら
するりとジップロックが落ちた。
見ると中に古い写真が入っている。

何枚かの一枚に白黒写真。

40代くらいの女性が
胸元から上に切り取られて写っている。
白いワンピースだろうか。
首から下がる長いチェーンの先のペンダントはヘッドが見えない。
パーティか何かだったのだろうか。
花束らしき稜線が写真の隅っこに残っている。

ふっと見覚えのある気がして
女性の顔をじっと見る。

誰だろう?

もう一度女性の顔を見る
眉毛と目元。

わかった、と思った。
亡くなった夫ジェイの生みの母だ。


ジェイはその母について話してくれたことがふたつあった。

ひとつは
アメリカで結婚したもののジェイを生んですぐ孤児院に預け自分は母国のイギリスに戻ってしまったこと。


ジェイはその後1歳半で育ての両親の養子に引き取られている。
そこがジェイの故郷となったアメリカのバモント州。

もう一度女性の顔を見る。
目元が夫ジェイに似ている。

写真を裏返してみる。
すると
Love from Nora
さらさらとした手書きで記されていた。

Nora・・・


その下の方に別人が書いたのであろうごつごつした字があった。
夫の字でもない。
そしてジェイの名前がそこにあった。

J  CXXXX Mother

やはり
ジェイの実の母だ。

胸がズキンと鳴った。

アルバムに入らなかったその写真。
ジップロックとそぐわないくらいに時が経っている。


詳しくはわからない。
でも
その母についてジェイから聞いたもうひとつのこと。

母を見つけ出して電話をしたら
もう連絡をしてくるなと。

それはいったいジェイが何歳の時だったのだろう。

ジップロックの中には色が分からなくなったカラー写真もあった。
その女性が赤ちゃんを抱いている。
そばに端正な顔つきの男性。

そう言えば母方で血のつながった弟がいる。
ジェイが言っていたのを思い出した。

その弟を探している、と。

でも見つからなかったのだ。



こんなことがあって昨夜は
色々な思いを抱えてベッドに入った。

目が覚めても胸のズキンの名残があって。
だからお風呂に入ってこころの痛みをほぐしたのだ。

コーヒーフィルターに挽いた粉を二杯。
沸いたお湯を回し入れる。
コーヒーが落ちる音を聞きながら
ガラスドアを開けた。
湖は夜明けを待っていた。

太陽が近づいている

冷気が洗い髪を冷やす。

それでも私は太陽を待った。

親に捨てられた。

ジェイはそれをどんな風に消化して生きてきたのだろう。


太陽がのぼり
ギースの声が騒がしくなって

そして一斉に飛び立ってゆく。

どんな合図があるのだろうか
彼らはいつだって同時に
ばたばたと音を立て水面から一直線に空中へ

そして舞い上がっていく
高く高く
朝の空に吸い込まれるように


That's life
多分ジェイはそういうだろう。

人生、そんなもんさ。


半分血のつながる弟であろうこの赤ちゃんに心当たりある方。。ないっか‥💦

血のつながった母はジェイが私と知り合って間もなくの頃に亡くなっている。








日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。