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 外国語の学習とランニングは、よく似ています。

 どちらも、能力に関係なく誰でも、努力さえすれば(トップレベルになれるかは別として)、できるようになります。

 そしてどちらも、努力を止めた途端に、あっと言う間に能力が落ちてしまうのです。

 近所に住むママ友の英語通訳者は、平日は週5日、会議の同時通訳の仕事をしているそうです。「そんなふうに毎日仕事ができたらさぞかし上達するだろうなぁ」と、心から羨ましく思います。

 それに比べてロシア語通訳者が同時通訳する機会は、多くて月に2、3回、少ないとゼロだからです。逐次通訳や翻訳の仕事量も、はるかに少ないです。英語は通訳者数も多く、ロシア語は少ないのも事実ですが。

 みなさんは、通訳者というのは辞書内蔵ロボットで、どんな難しい表現でもその場で自動的に訳すことができる、と勘違いしていませんか?

 それは大きな間違いで、仕事がなくて通訳訓練をしないと、語彙は減り、瞬発力は落ち、滑舌は悪くなります。走らないランナーの筋肉が減り、体重が増え、瞬発力が落ちるのと全く同じです。何より困るのは、外国語を使わないでいると(走り続けていないと)、通訳(ランニング)をするための“心理的な壁”がどんどん高くなってしまうことです。

 だから、どんなに経験を積んだ通訳者もランナーも、毎日コツコツ努力し続けなければなりません。

 いったいどんな努力をしているのかと言えば、まず、家事をしている時は大体、スマホのYouTube でロシア語の音声を聴いています。ニュースやインタビュー番組、討論番組などが多いですね。聴いていて、知らない単語や覚えておくべき表現が出てくると、スマホの辞書やネットで調べて、やはりスマホにメモします。

 それから、ジョギング後のストレッチをしながらとか、入浴中などのすきま時間に、“シャドーイング”と呼ばれる訓練もします。これは、日本語やロシア語のニュースや討論番組を聴きながら、ほんの少し遅れて同じことを繰り返す訓練です。

 「聴く」ことと「話す」ことを同時にやらなければならないので、短期記憶力や集中力、瞬発力を鍛えることができます。ロシア語のニュースは、キャスターによっては読み上げ速度が速過ぎて追いつけないので、速度を0,75倍に下げたりします。

 それから、ロシア人の先生に、週一回、オンラインでロシア語を習っています。内容は、先生が読み上げる様々なテーマのネット記事を、なるべく情報を落とさずにロシア語で再現する訓練がメインです。数字や地名、組織名、固有名詞などがたくさん出てくる記事を、メモをとりながら一度だけ聴いて再現します。

 これは何度やっても緊張するし、メモをとることと記事全体の内容を理解することの両立が難しくて、上手くいきません。細かいメモを取っていると、全体として何を言っているのかが理解できず、ではメモの量を減らして聴く方に集中すると、いざ再現するときに「あれ、何言ったんだっけ?」となってしまうのです。

 また、やはり週一回、ロシア語通訳協会の仲間とオンラインで、“通訳自主練”なるものをやっています。チューター役の人が、ネット上の動画を文字起こしして、20-30秒くらいにブロック分けした教材を準備しておき動画を再生します。それを、参加者が順番に逐次通訳し、訳語をめぐって議論したり、最後にシャドーイングや同通訓練をします。

 これは3年前、コロナで仕事が激減した時に私が言い出しっぺになって始めました。事前にチューター役を決めずに、毎週同じ曜日の同じ時間に、オンラインの場に2人以上集まれば実施しているのですが、3年間なんと一度も休むことなく続いています。ロシア語通訳協会とオンライン会議システムのおかげで、全国の通訳仲間と一緒に切磋琢磨や情報交換、何気ないおしゃべりができるって、本当にありがたいな、と思います。

 ランニングも通訳訓練も、基本は1人でコツコツやるもの。特に足が速くもないし、ロシア語が上手いわけでもない私ですが、この「コツコツ続ける」才能は、割とあるのかも。

 そして、ランニングも通訳訓練も、時々仲間と一緒にやると、とても楽しくて、新たな発見があったり、刺激をもらえたり、「また頑張ろう」とモチベーションが上がるところも似ています。

(写真は、通訳翻訳者愛用の、かなり年季が入ったスマホとイヤホン)

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