吉澤和子 Kazuko Yoshizawa

研究者/コンサルタント。元ハーバード大学客員研究員(食事調査メソッド/FFQ開発)、ハ…

吉澤和子 Kazuko Yoshizawa

研究者/コンサルタント。元ハーバード大学客員研究員(食事調査メソッド/FFQ開発)、ハーバード大学栄養学博士。元国連コンサルタント:スーダン保健省栄養アドバイザー他。日本の大学院での教職経験:栄養疫学、統計学、グローバルヘルス。水銀‐心疾患関係の検証の研究は『NEJM』に掲載。

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アントロポセンの人類の食

はじめに 地球は新たな地質時代である「人新世」または「アントロポセン」として知られる時代に突入しました。2019年1月、世界有数の医学雑誌であるThe Lancet(ランセット)に、「アントロポセンにおける健康な食事と持続可能な食料生産についての報告」と題された論文が掲載されました。この論文は、持続可能で健康的な食事についての情報を提供しています。この記事では、新しい地質時代に人類の食事はどの様に変化しなければならないか、について触れてみます。 アントロポセンの意味

    • ビタミンD不足と認知症患者の増加: 適切な日光浴と食事習慣の重要性

      世界に広がるビタミンD不足と認知症患者の増加 世界的にビタミンD不足が拡大しているとされています。その主な原因は、メラノーマリスクの回避を目的とした紫外線への露出不足にあります。このような行動パターンがビタミンD欠乏と関連していると考えられ、それが認知症、特にアルツハイマー病との関連性を考える学者がいます。最近の研究によれば、体内のビタミンD濃度が増加することで、認知症のリスクを軽減できる可能性が示されています。本記事では、ビタミンDと認知症の関連性について解説します。

      • なぜ日本ではトランス脂肪酸の食品への使用が禁止されていないのか

        日本の現状多くの国ではトランス脂肪酸の使用が規制されていますが、2023年12月現在、日本ではまだそのような規制がありません。これは、日本人のトランス脂肪酸の摂取量が米国やWHOが推奨する基準よりも低いと見なされ、安全性が確保されているとされています。しかし、この理由が摂取量の平均値に基づくものであることには問題があり、この記事ではその点に焦点を当て、規制の根拠を考察します。 写真:Image by Dawid Cedler from Pixabay 平均値は個人差を表さ

        • パレスチナ・ガザ地区の飢餓:世界と日本に求められる援助は?

          パレスチナ・ガザ地区の国内避難民の現状中東のパレスチナ・ガザ地区の紛争状態が日々メディアで報道されています。この地域で繰り広げられている紛争に巻き込まれた国内避難民の画像を見ると、戦争や紛争が続く中、被害を受けた人々は日々の暮らしに困難を強いられていることが理解できます。しかしそれがどれほどひどいものかは、日本にいる私たちにはなかなか理解し難い側面もあります。そこで、数日前に国連がガザ地区の現状を伝える報告書を発表しましたので、その内容について解説します。 Photo by

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          ビッグデータの活用事例:インフルエンザの流行を予測する

          ビッグデータの活用方法が注目を浴びています。ビッグデータは社会・経済の問題解決などに応用できると言われています。特にビッグデータの公衆衛生分野での利用可能性については、2014年に韓国の大学で行った公演を契機に、最新の情報を追加・更新しています。この記事では2つの具体的な活用事例を挙げ、ビッグデータの可能性について解説します。 Google検索クエリのデータを使用しインフルエンザ流行ピークを予測 近年、仕事や勉強で調査をする際、検索エンジンを利用する機会はよくあります。検

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          吉澤和子 Kazuko Yoshizawa

          自己紹介研究者・コンサルタント 元ハーバード大学客員研究員(栄養疫学のための食事調査メソッド)ハーバード大学栄養学博士 元国連職員・コンサルタント: スーダン保健省栄養アドバイザー他 博士研究は米国コホート研究グループに参加し水銀と心疾患との関係を検証『NEJN』に発表 教職経験:栄養疫学 統計学 グローバルヘルス

          吉澤和子 Kazuko Yoshizawa

          栄養学と健康研究におけるエビデンスの信頼性について

          エビデンスの多様性と信頼性について 栄養と健康の関係には、肯定的な結びつきと否定的な結びつきが存在します。同じ研究テーマに関しても、異なる結果が得られることがあります。例えば、油を摂取すると体重が増加するという研究結果がある一方で、油を摂取しても体重に変化がないという別の結果もあります。これらの違いから、一般の読者は栄養学が信頼性に欠ける学問であると感じるかもしれません。 エビデンスの判断は国際的に合意された基準に合わせる 栄養学の専門家は、同じテーマなのに異なる結果が

          栄養学と健康研究におけるエビデンスの信頼性について

          自己紹介

          私は食事、栄養、そして生活習慣病の予防、若さの維持に関する情報を情報を発信しています。現代社会では、私たちの生活がますます忙しく、情報が溢れています。健康に関する選択をする際、正しい情報が非常に重要です。 私の目標は、科学的なエビデンスを元に、これらの情報をわかりやすく提供し、あなたが健康的な食事やライフスタイルの選択をより簡単に理解できるようお手伝いすることです。 生活習慣病の予防や若さを保つためには、適切な食事と栄養が欠かせません。私の情報は、あなたがこれらの重要な要

          貧困の経済学者アマルティア・セン(Amartya Sen)の「ケイパビリティ・アプローチ」とSDGs

          はじめに 多くの日本人、特に若い世代の多くの方々は、アマルティア・センが誰であるかを知らないかもしれません。しかし、開発の分野に関わる人たちにとって、彼は記憶に残る名前です。この記事では、アマルティア・センが誰であるか、そして彼の研究がSDGs(持続可能な開発目標)の構築にどのように貢献しているかを解説します。 アマルティア・セン(Amartya Sen)は経済学者・哲学者 アマルティア・セン(Amartya Sen)は、現代の世界で最も尊敬され、影響力のある経済学者

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          日本食は健康に寄与するか?

          日本食の健康効果:科学的根拠を問う 和食は、多くの点で健康的であり、その中には米、魚、野菜、豆腐、海藻などが含まれ、これらの食品は栄養価が高く、健康に寄与する言われています。また、日本の低肉食文化が病気の予防に良い影響を及ぼす可能性があるとされています。しかしながら、一方で、私が懸念しているのは、和食が健康に良いという主張の科学的根拠の不足です。日本の食事習慣、通称「和食」について考察してみましょう。 因果関係のエビデンスは限られている 多くの日本の研究者が、和食が健

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          完全母乳育児、乳幼児の生存率向上の鍵:SDGs戦略

          6か月完全母乳育児の割合 1985年から1995年の10年間では、世界全体で6か月完全母乳育児の割合が年平均2.4%ずつ増加し、14%から38%に上昇しました。しかし、その後はほとんどの地域で割合が減少しました。ただし、1995年以降、25カ国は6か月完全母乳育児の割合を20ポイント以上増やしました。既に50%以上の割合で6か月完全母乳育児を実施している国もありますが、健康と経済的な利益を考えれば、さらなる改善が必要です。 6か月完全母乳育児の割合向上のための鍵:病院と

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          国連のF-75、F-100:重度栄養失調治療ミルク

          はじめに栄養失調とは、何らかの原因により体が必要とする栄養素を適切に摂取できず、栄養不足が生じる状態を指します。この問題は、特に発展途上国や緊急事態下の地域において深刻な課題であり、未成年者や高齢者など、脆弱な人々に影響を及ぼしています。幸いなことに、栄養失調の治療において、患者の健康改善に特に効果的な栄養補給食品が存在します。具体的には、F-75とF-100と呼ばれる特別な栄養食品がその一例です。これらの栄養強化ミルクは主に国連のユニセフなどによって、フィールドの小児科病

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          国連コンサルタントの戦略的アプローチ:TOR(Terms of Reference)の解説

          はじめに TOR(Terms of Reference, 業務委任書)は国連(英語United Nations, 略称UN)でのプロジェクトや仕事における大切なガイドラインです。役割、目的、スケジュールを理解することが重要です。国連の仕事は、世界中で平和、発展、人権などの重要な課題に取り組むものです。これらの課題を円滑に進めるために、TORは不可欠なツールとなります。この記事では、TORの役割と重要性について国連の仕事に焦点を当てて解説します。 TORとは何か? 国連

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          国連プロジェクト計画のたて方:東ティモールでのWHOコンサルタントからの教訓

          はじめに2016年の春、私はWHOの東南アジア局本部からコンサルタントとしての依頼を受け、東ティモールの保健省における重要なプロジェクトに参加する機会を得ました。このプロジェクトは、東ティモールが直面していた栄養改善と保健省のキャパシティ・ビルディングを推進する計画であり、私はその一環として計画策定に関わりました。この記事の内容は、開発関係者、将来のUNなどで専門家を目指す学生など、幅広い読者の皆様に向けて、私の経験を共有したいと思います。以下では、国連が策定するプロジェクト

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