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パラレルワールドのようなもの

「私がオバさんになっても
 ドライブしてくれる?」

ブラウン管の向こうで、森高千里は歌った。

「オープンカーの屋根はずして
 かっこよく走ってね」

僕は無理して、マニュアルの免許を取った。

「私がオバさんになったら
 あなたはオジさんよ」

……それから十数年。

平成から令和に年号が変わって。
ブラウン管も液晶になったけど。


画面の向こうの森高千里は、
オバさんにはなっていない。

変わったことは、ひとつだけだ。

僕がオジさんになっていた。

いつの間にすれ違ったんだろう?
大人になった覚えすらないのに。

「かっこいいことばかり言っても
 お腹が出てくるのよ」

ただお腹だけが出てきてしまった。

かっこよくオープンカーなんて、
乗ったこともないのに。

「パラレルワールドのようなものだ」

IOCの誰かが言った。その通りかもしれない。

2021年の東京の画面の向こうは、
平和で問題のないTOKYO2020。

分断された平行世界が交わるトウキョウで、
もう自分がどこにいるのかもわからなくて。

私がオジさんになったら。

……まさかこんなに、生きづらいとはなぁ。