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栗本和紀│日本酒作家
2015年11月24日 07:06
風香が家を出て行ったのは、昨日のこと。いまさら気付いたのだけれど、昨日は彼女の30回目の誕生日だった。 朝まで飲んで帰ってきた二人の部屋には、「さようなら」とだけ書かれた置き手紙と、すっかり酔いの覚めた僕だけが残された。 悲しみに暮れ、街をさまよっていると、やわらかな香りとすれ違う。 あわてて振り返ると、風になびく長い髪。後ろ姿。たしかに、風香だった。 やわらかな香りは、風に乗っ