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短編『Beside to you』の解説というか徒然雑記(ネタバレあり)

 2024年3月に発表の短編『Beside to you』は、長編ファンタジー小説『風は遠き地に』の番外編としては8作目に当たる、約25000文字の物語です。
 これまでの短編は、全部『風は遠き〜』よりも時間軸が過去のもの(『星夜の語り』のみ謎)でしたが、今作は初の"未来軸"になっています。
 そして、物語の主軸となるのは、『風は遠き〜』では主人公・啼義(ナギ)の宿敵であったダリュスカインと、第二章で彼を助けた結迦(ユイカ)の恋愛話です。

 というわけでここから先は、書きながら思っていたことなどを綴りつつ、お話の流れに沿った内容も出てきますので、未読で知りたくない方はここで折り返し、既読&気にしない方はこのまま読み進めてくださいませ。

『Beside to you』掲載URL
📚カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16818093072930229160 
📚小説家になろう https://ncode.syosetu.com/n9201iq/ 
📚pixiv https://www.pixiv.net/novel/series/11666639 


物語の舞台は、冬の雪景色から

 季節は冬。
 浮かんだ内容から考えて、時系列的にもちょうどそうなるんですが、私の書くお話は、わりと“書き始めた時のリアル季節”が反映されることが多いです。これは、季節描写がしやすいからなのか、はたまた、ちょうどその季節に相応しいお話が降りてくるのか…私にも謎です(笑)。

 冒頭部分は、こうです。

 ダリュスカインは、白い息を吐いて空を見上げた。
 彼の、豊かに波打つ金の髪は高く結い上げられ、細身の体を包む濃い赤の外套が雪景色の中に映える。その背丈がなければ女性かと見間違いそうな秀麗な顔立ち、雪を溶かしそうな炎にも似た紅い瞳。しかし、眼差しに宿る光は意外にも静かだ。そして──彼の右腕は、肘から下が存在していない。彼が<それ>を失ったのは、ほんの半年にも満たない最近のことだ。

『Beside to you』序章 より

 情景は美しく、穏やかです。
『風は遠き地に』(以下、本編)では、心を闇に喰われて自我を見失い、凄み全開だったダリュスカインが、本来の静かで理智的な自分を取り戻し、今ある状況に身を任せて日々を過ごしています。けれどその心には、未だ拭えぬ迷いと、戸惑いがある。
 彼は本編で自分が重ねた罪に対し、死をもって償う覚悟で胸を貫いた剣を引き抜いたのに、どういうわけか一命を取り留め、結迦(ユイカ)の元に戻ってきた。
 それ自体は喜ばしいことだけど、ともすれば罪に意識に苛まれ、胸の貫通痕も痛む。本文には書いてませんが、度々、夜もうなされたりと、なかなか苦しい気持ちを抱えています。
 それでも、結迦が傍にいることは彼の癒しになり、ひとまず出来ることを手伝いながら、今はこのまま、穏やかに過ごして行けたならいいと思いながら、結迦と、彼女を娘のように思っている老爺・宗埜(ソウヤ)と共に暮らしています。

 片や結迦は、ダリュスカインが戻って来た導きに感謝し、大怪我を負っていたダリュスカインに献身的に尽くして、彼が日常生活を送れるまでに回復した今の幸せを噛み締めている。隻腕になったダリュスカインの長い髪を結い上げるのも、彼女の役目です。

 そんな、平和だけどどこか中途半端な2人の関係がきちんと整うまでが、今作の大きな流れです。

 ここでちょっと、ダリュスカインが如何にして結迦の元に戻ったのか、お話ししましょう。
 一度は絶命したかと思われた彼を、結迦の元へ運んだのは、啼義(ナギ)の意思を受けた蒼空の竜の加護です。
 蒼空の竜の力の一つには治癒力があり、それは、現在の継承者の啼義に色濃く出ていますが、本来は継承者自身の回復力が格段に上がる形で反映されているだけで、継承者から人に治癒を施すことは出来ません。
 なのでこの時は、蒼空の竜自体が、啼義の強い思いを受け、ダリュスカインの離れかけた魂をギリギリで繋ぎ止めて、肉体と魂の融合が奇跡的に上手くいったという、非常にラッキーなパターンだったわけです。
 最悪、遺体であっても、ダリュスカインは結迦の元へは帰れたのでしょうが、一応私、ハピエン創作者のつもりなので、ここは一応、それじゃアカンだろうということで(笑)。

 ところで、蒼空の竜は本編でも、ドラグ・デルタの大噴火の際に、啼義の父・ディアードの意思を受けて、赤ん坊だった啼義を安全な場所へ運んでます。
 あの世界、蒼空の竜は伝説であり、それが存在していたと思えるものは、今は啼義に受け継がれている“竜の加護”という見えない力のみですが、人を運ぶ力が作動する場合は、あるいは空に竜が舞うのを見たことがある人も、いるのかも知れません。

ライバル登場で気づく「自分は、相手の何なのか?」

 さて、『Beside to you』に戻りましょう。
 そんなわけで二人は、どこかで互いの気持ちが通じ合っているような気がしているわけですが、それは互いが心の中で思っているだけで、その関係が確固たる何かとまでは確かめていなかったという事実が、二人が作物などを届けに向かう集落で浮き彫りになります。

 集落に辿り着くと、28歳のダリュスカインと20歳の結迦(ユイカ)の間に入るライバル…というか、結迦に想いを寄せる好青年が登場します。
 その彼、隼斗(ハヤト)は、結迦と同じ20歳。
 寡黙なダリュスカインとは真逆で、朗らかでよく喋るし、彼のような影を背負ってもいない。
 ダリュスカインは、それまで集落に品物を運んでいた老齢の宗埜(ソウヤ)に代わって結迦に同行するのは2回目ですが、結迦は、ダリュスカインが本編で離れている間に、もう少し前から集落に訪れるようになっていて、同い年の隼斗とはすっかり打ち解けていました。
 隼斗は、今まで結迦と一緒に来ていた宗埜(ソウヤ)と、ダリュスカインの立場をどうやら同じ護衛的役割と捉えていて、意気揚々と、結迦を雑貨屋に連れて行ってもいいかと打診。ダリュスカインはなんだかモヤモヤしつつ、ひとまず付き添って行ったところで、隼斗の、結迦に対する気持ちに気づきます。
 さらに、そこで初めてダリュスカインは、自分の立ち位置が、まだ結迦の何でもないどころか、もしかして釣り合い悪いんじゃないかと思い当たり、狼狽えるのです。
 この下りでの彼の行動というか心理状態は、本編での威厳はどこへ行った状態ですが、彼は、年齢のわりにその辺の経験が浅いんですね。
 若い頃から魔術に入れ込んで熱心に精進し、故郷が魔物の襲撃に遭って家族を亡くしてからは、羅沙(ラージャ)の社(やしろ)で頭領の靂(レキ)に拾われて側近にまで上り詰め、脇目も振らず生きて来た。
 真面目ゆえ"真っ直ぐしか見えない"性格の彼は、恋愛感情に関してはほぼまっさらです。それどころか、眉目秀麗が仇となって嫌な思いはしてるので、どっちかというと嫌悪感の方があったかも知れない。
 だから結迦に対し、妹のようとか、世話をしてくれることへの感謝以上の気持ちがあると自覚しても、どうしていいか分からないわけです。
 ましてや、本編中の(自我を封じられていたので、おぼろげではあれど)自分の重ねた殺戮の記憶が蘇ったところで、隼斗と朗らかに笑い合う結迦を見てしまって、気持ちはどんどん塞がっていく。
 結迦には、自分なんかより、隼斗のような爽やかな青年の方がずっと似合うに違いないし、隼斗といる方が幸せなのではないか。
 そう思えてしまったら、結迦の傍に当たり前のようにいた自分が急に惨めにすら感じ、彼の心は転がり落ちていきます。

穏やかだった2人の間に流れる、はじめての不穏な空気

 そんなこともあって、なんだか張り詰めた空気を感じる帰り道。
 ダリュスカインの様子がおかしいと気づいた結迦は、どうしたのかと尋ねます。
 ダリュスカインはもう、自分が何に苛立っているのか分かっているんですね。だけど、それを口にするなんてプライドが許さない。
 結果、「隼斗と付き合えばいい」などと乱暴な言葉を投げつけ、結迦の傷ついた顔を見てますます急降下する。28歳らしからぬどころか、小学生みたいなひねくれ野郎と化してしまう、しょうもない展開です。彼自身はプライドを保とうとしているけれど、もうガタガタです。

 一方の結迦も、心の中ではダリュスカインと添うのだとかなり前から思っているのですが、隼斗に対しては何も思っていないがゆえに、天然で思わせぶりとも言える態度をとっていたことに、ダリュスカインの言葉でやっと気づきます。
 隼斗とそういうつもりはないと否定するも、彼女も、ダリュスカインと共に生きるのだという決意はあくまで自分が思っていることで、考えたら口にしたわけではないし、彼から言われてもいないことに思い当たって、愕然とする。
 しかも今、他ならぬダリュスカインから、「隼斗と付き合ったらいい」などと言われ、自分はそういう対象に見られていなかったんだと、深く傷くのです。

 同じことを思っているのに、見事にすれ違う2人。
 ああもう焦ったい。俺ちょっといやらしい雰囲気に……と草むらからモブが出てくるはずもなく、2人はすっかり拗れたまま、小屋に帰ってきます。
 でもそこで、ちょっといい感じにテコ入れをしてくれるのが、人生経験の長い宗埜(ソウヤ)爺さん。
 彼はやんわりと、ダリュスカインに釘を刺します。
「逝くべきはずが繋がった命と思うなら、腰を据えて、一人ぐらい幸せにせえ」と。
 宗埜は、本編既読の方はご存知のように、ダリュスカインの存在には否定的でした。でも、結迦が凄惨な経験で失っていた声を取り戻した理由がダリュスカインであること、そして彼女の彼に対しての献身的な態度だけでなく、戻ってきてからのダリュスカインの根の部分にある謙虚さと真面目さも見てきたことで、これはもう許してやるしかあるまいと腹を括ったのです。
 自分も歳をとり、いつまで生きられるか分からない中、結迦にはなんとか幸せになってもらいたい。ダリュスカインは隻腕の不自由な体で、心に咎を背負い、決して明るい相手ではないにしろ、他ならぬ結迦が彼の傍にいて幸せそうなら、しっかり一緒になってくれれば、それが一番だろう。でもどうやら、もう一押ししないとまとまらんぞと、宗埜爺さんなりに心を砕いて、ダリュスカインの背中を押すのです。

 実は、宗埜にも家族がいたことがありますが、本編で啼義(ナギ)が拾われた時のドラグ・デルタの大噴火で亡くしています。彼にとっては、2人は実の子供のような感覚もあるわけです。なんだかんだ、可愛くて仕方がないんですね。この時の宗埜の気持ちとしては、もういっそ孫まで見せてくれなんですよ(笑)。

お約束な展開と、派手な魔術が炸裂のバトルシーン

 後半の見せ場のひとつ、バトルシーン。
 宗埜(ソウヤ)に背中を押してもらっても、モヤモヤと二の足を踏んでいるダリュスカインですが、結迦(ユイカ)もモヤモヤしたまま一人で薬草摘みに出て、お約束のように道に迷います。
 で、迷子になって安全圏を出てしまった結迦は、これまたお約束のように魔物に襲われる。
 ここにダリュスカインが瞬間移動で飛び込んで、バトルシーンに入ります。

 飛び込んだものの、思った以上の魔物の数を見て一気にケリをつけようとした彼は、右手がないことを失念してうっかり両手で紋を切ろうとし、失敗して右頭部から肩まで斬りつけられます。
 さして屈強でもない彼にとって、これは相当痛かったと思いますが、それでも怯むことなく結迦を背に隠して護り、次にはしっかりと片手で素早く紋を切って半径5メートル級の範囲を一気に焼き払う場面は、イメージ的にかなり派手で、綺麗です。彼らしいというか何というか。これが彼の戦い方なんですよ。
 傷を負っても、想い人を背中に庇いながら、強烈すぎるほどの攻撃を繰り出して敵を撃退する展開はある意味王道ですが、王道の盛り上がりゆえの熱量が伝わればいいなと思いながら、推敲を重ねました。

 魔術のお話をすると、彼らの世界では、魔術師のレベルによって、イメージだけで繰り出せる小さな魔術から、紋を切る、詠唱するなどがあります。
 ダリュスカインは上級魔術師なので、小さな魔撃は何もなくともサッと出せます。つまり彼レベルで紋と詠唱を加えると、かなりの威力の魔撃ができるんですね。右前腕をなくして両手での紋は切れなくなったとはいえ、彼の魔力は大陸内の魔術師の中でも、相当上位に入ります。
 しかし、ダリュスカイン自身はもともとそんなにタフではありません。さらに、本編での死闘の名残りの傷痕が追い打ちをかけ、自身でわかるほど、以前よりも肉体は弱っている。
 そんな状況で、自分こそ大怪我しているのに、「怪我はないか」って、結迦への心配が先に来るんですわ。自分のことなんかどうでもいい、とにかく結迦が大事なんだと、プライドも何も取っ払って、彼は再確認します。
 本編では敵役だったダリュスカインが、この辺に来る頃にはもうすっかり、読者の皆様には愛おしい存在となっていることと思いますが…んん〜、どうでした?

雪をも溶かすほど熱い恋愛パート

 そうしてなんとか安全な場所まで戻ってきた2人ですが、ここもまたお約束のように…いえ、倒れるのはヒロインではなく、ダリュスカインの方。
 彼は結迦(ユイカ)を探すのに風属性の術も使っていますし、片腕ではありえない範囲で炎を繰り出して魔力も限界、そして右頭部から右肩にかけての怪我と、体力もギリギリすぎて、安全圏に入ったと分かった途端、気力が途切れたんですね。
 もはや虚勢も張れずに、木にもたれて座り、息をするだけでも辛いところに、冬の寒さが容赦なく体温を奪い始める。
 結迦はこの状況をなんとかしなければと考えますが、朦朧とするダリュスカインを置いて小屋まで宗埜(ソウヤ)を呼びに行くには、まだ距離があって不安すぎます。でも、ダリュスカインの顔色はどんどん悪くなるし、身体は冷え切ってしまっている。
 そこで、半ば追い詰められた結迦は、本能的にダリュスカインの唇に自身の唇を重ねるわけです。これ、彼女にとってはファーストキスです。
 ダリュスカインとて、いくら朦朧としていても、そんなあたたかな感触が唇に触れたら、そりゃあ驚いて目覚めます。と同時に、男としてのスイッチが入り、身体が勝手に動いて、彼から結迦の唇と塞ぐのです。それも、けっこう勢いづいて、彼女が呼吸できない程度にはガッツリ返してます。結局、結迦を押し倒すまでにいたり、接吻の回復力たるや。てか、彼女にとっては初めてなのに、どこまで攻めてるんですかと(爆)。
 ここはもう、「怪我は大丈夫なのかよっ!」と突っ込みつつ、「うん、そうね。そりゃあ、ずっと想っていた相手とのキスって夢中になるよね」と、草むらのモブにでもなったような気分で読んで頂ければ嬉しいです。
 そしてこのへん書きながらの私の感想としては、ダリュスカインには、接吻くらいは経験があるんじゃなかろかと思ったんですが…真相は作者にも分かりませんね。

ダリュスカインが遺したものと、その後に繋がる壮大な巡り合わせ

 そうしてやっと、ダリュスカインと結迦(ユイカ)は確固たる想いを確かめ合うのですが、物語はもう少し続きます。
 終章までの間に7年の歳月が流れ、2人は夫婦となって子供も授かりますが、ダリュスカインは本編での怪我の影響もあって、本人が予感している通り、残りの寿命はそう長くはなく、35歳でこの世を去ります。
 しかし、彼は力の限り、結迦が暮らす生活圏内、行き来している集落とその周囲に、上級魔術師ならではの堅固な結界を築き上げました。
 それまで集落では、いちいち少し遠い場所から魔術師を呼んで結界を張ってもらっていたんですが、そんなに腕のある魔術師は多くなく、大体半年もすると弱まって、次に来てもらうまで緊迫状態が続いていました。でも、これで向こう5年くらいは、その心配がなくなったのです。
 ダリュスカインは同時に、魔術が使えない者が持ち歩いて使える結界石の形成にも力を入れ、近隣の集落などにも重宝される逸品を遺します。
 大陸の、魔物のいる場所との境界線は、本編で述べられているように、啼義(ナギ)の父であり、前の竜の加護の継承者であったディアードが、イリユスの神殿から駆け落ちてその座が不在になって以来、20年近くに渡り緩み続けてえらいこっちゃになっており、啼義が戻ってからやっと修復され始めるものの、もちろん、そうすぐに大陸全土に波及はしません。殊に結迦たちの暮らす場所と、啼義が長として治めるイリユスの神殿の間には、大きな山脈が立ちはだかって壁となっている。
 図らずも、ダリュスカインの尽力により、山脈の北側の一部に堅固な結界が築かれ、境界線の回復までの時間稼ぎにつながったことは、啼義の使命の一端を助けた形となります。
 彼自身は、啼義を助けようというより、自分亡き後、結迦たちが困窮しないよう必死で道を拓いた結果だとは思いますが、一度は果てたはずの命が繋がったのは、啼義の力あってのことだと、どこかで察知していたに違いありません。ゆえに頭の片隅では、ここは少しどうにかしてやるから、早く大陸を安定させろという思いもあったのではないでしょうか。
 果たしてその噂は啼義の耳にも届き、やがて結迦を筆頭に再建された星莱(せいらい)の社(やしろ)とイリユスの神殿は手を取り合い、山脈を隔てたあちらとこちらの護りの双璧となります。
 さらに、ダリュスカインと結迦の間に生まれた双子の弟・柊(シュウ)は、父をも凌ぐほどの魔術師に成長し、かつてダリュスカインが取り込まれかけた慈源(じげん)の祠と闇の魔力の癒着を完全に切り離すことに成功し、ある程度の魔力を持つ者が、山脈の南の慈禊(じけい)の祠まで通れるように拓きます。この頃には、本編から20年とか経ってますね。これは思った以上に壮大なことになったなと、書き終えた今、作者は頭を抱えています(汗)。

愛も死も絶望も希望も乗せて、日々は続く

 世界は良い方へ向かい、一応はハッピーエンドと思っていますが、ダリュスカインが35歳の若さで幼い子供たちと結迦を残して逝ったことを思うと、どうしても、ちょっと寂しい気持ちは残る結末となりました。
 でも、ダリュスカイン本人は、短くともガッツリ駆け抜け切った感があって、わりと満足だったんじゃないかなとは感じています。
 というのも、ダリュスカインという人物は、本編の時から思っていたんだけど、美学の塊なんですよね。見た目の美しさの話ではなくて(いやまあ、見た目も秀麗だけれども)、精神的な部分で、拙宅のキャラの中でもトップクラスに芯の通った美学がある。だから、己の背負った咎と役目にカタをつけたら、もう生き恥を晒したくない。
 だけど、ちょっと切なくなることを言えば、結迦と夫婦になり、可愛い双子に恵まれてからは、肉体の衰えを激しく認識して覚悟を決めていても、やっぱり本心は、子供達の成長も、結迦との将来も、もっと見たくなっていたに違いないでしょう。そこはきっと結迦が痛いほど分かっていて、だから彼女は、落ち込むよりも、彼の見られなかった未来をとことんまで見るのだと、物語の最後ではもう、前を向いている。実は、一番タフなのは、彼女かも知れません。

 恋愛物語として書き始めたけど、フタを開けたらわりと重めの人生物語になるのは、もはや私の作風と思っています(笑)。
 でも恋愛って、人生と根深く結びついてないですかね? 特に本気で惚れた相手との出来事は、価値観がひっくり返ったり、小さな影響では済まなくて、その後の人生を大きく変えることもある。
 そして今作は、まあ…ちょうどいろんな訃報があったり、昨年の同時期に、余命いくばくもないもないと宣言された人のラストステージを撮ることになったりと、限りある命に向き合う出来事が貯まったというのもあり、そういうのが全部乗せになった気がします。
 人間、いつかは死ぬと分かっているけど、それがすぐに来るなんて、私も含め、大抵の人は思ってない。でも、もうそんなに時間がないかも知れないと突きつけられた時、自分だったら何を思い、どう行動するだろう。そんなことを、ずっと考えていました。その答えが、今作でのダリュスカインの描写を経て、少し見えた気がします。
 死は重く悲しく、怖い。周りの人の心も一気に叩き落とします。でも、残ったこっちは生きなきゃいけない。泣いても笑っても時間は止まらないし、塞ぎこんだところで、悪くはなっても良くはならない。開き直って、タフに行くしかないのよ。

 さて。
 27歳で未亡人となった結迦は、数年後に隼斗青年と再婚します。
 それはネガティブな理由からではなく、能動的に人生を歩いていくための結果としての選択であり、とても前向きな行動なんですね。双子を抱えているし、宗埜(ソウヤ)もずっとはいませんから。
 そんな結迦の行動は一見、隼斗を利用しているんじゃないかと捉えられなくもないけれど、ごく自然の流れであり、隼斗はそうは思っていません。
 彼はね、底抜けに前向きなんですよ。とはいえ初登場時の20歳の彼はただの能天気な次男坊だけど、最後に出てくる彼は、天性の明るさはそのままながら、いろんな経験を重ねてか、ダリュスカインと添い切って見送った結迦のことをも、受け止める度量ができてきている。だからこそ、一緒に歩けるようになるんです。
 結迦は、隼斗と、ダリュスカインといた時間より、うんと長く人生を共にすることになります。それでも、あれほど恋焦がれ、記憶に刻まれた気高い魔術師の存在を、生涯忘れることはないでしょう。若いからこそ迸る激情を、それを抱いて駆け抜けた至極の恋を。
 もしあなたにもそういう恋があったなら、ぜひ思い出してみてください。例え、はるかに昔のことだったとしても、きっとまだ、胸を熱くするはずです。

 …というわけで。だいぶ長くなりましたが、今宵はこれにて。
 最後までお読み下さり、ありがとうございました!

『Beside to you』掲載URL
📚カクヨム https://kakuyomu.jp/works/16818093072930229160 
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📚pixiv https://www.pixiv.net/novel/series/11666639 

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