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空想短編小説:真夜中の温泉

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人生に疲れたぼくは、ひなびた温泉宿でおかしな男と出会う。男は、大草原にアルマジロがたむろする光景を想像してほしいとぼくに頼むのだった。スランプの作家と青年が、閉じ込められた露天風…
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2023年5月の記事一覧

空想短編小説:真夜中の温泉5

「あれ……お、おい、君。ちょっと……」
タオルを腰に巻いたまま、男は何度も開閉式のドアを開こうとしてバタバタともがいた。
「おい、なんだこれ、開かないぞ」
「開かない?」
ぼくは、風呂からあがると、男のいる露天風呂の出入り口に向かった。
「なんだ、なんだ……やっとサウナに行こうというときに」
男は眉間にしわを寄せ、まるで青汁を何杯も飲んだみたいな苦い表情をしてうめいた。
「旅館の人が来てくれるまで

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