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おてんば娘ドロシーのはじめてのお使い

ある小さな小さな村に二人の姉妹が住んでいました。

村の名前はランベリー、都会から離れた自然豊かな村でした。

姉妹には両親がいなかったので幼い頃から協力して生活していました。

姉のナンシーはアクセサリー職人で毎日忙しく働いて他の町にもたびたび
アクセサリーを売りに行っていました。

妹のドロシーは料理や掃除が得意だったので、家事をしたり村で買い物をしたり、ナンシーが仕事に集中できるようにしていました。

ナンシーはいつも完璧主義な性格で、ナンシーの作品は村の外から注文が入るほど素晴らしいものでしたが、頑張りすぎてときどきドロシーから心配されました。

ドロシーは活発で明るい性格で、村中の人から好かれていましたが、おてんばでときどき早とちりしたり、おっちょこちょいな面があったので、ナンシーから心配されました。

ドロシーはお姉ちゃんのナンシーを尊敬していました。

自分もナンシーみたいな才能がほしいなと思いつつも、自分のできることでナンシーを支えていました。

ある日のことです。

ドロシーがキッチンで夕ご飯の支度をしていると、姉のナンシーの大声が聞こえました。

「ああ!なんてことなの!」

「どうしたの?お姉ちゃん」

「どうしよう!ドロシー。わたしったら、明日の予定をすっかり忘れていたわ。明日はお得意様のサニースプリングおばあさんのお孫さんの8歳の誕生日なの。毎年年の数だけアクセサリーを注文されるのよ。なのに、わたしったら明日がランベリー村のアクセサリー商工会に出席してスピーチをしないといけないのよ。それをすっかり忘れていたわ。どうしましょう」

「とりあえず落ち着いてお姉ちゃん。支離滅裂で何言っているのか、わからないよ。つまりどういうことなの?」

「サニースプリングおばあさんが住む都会のミッドタウンに明日アクセサリーを配達できないってことよ!」

「わかったから、そんな大声出さないでお姉ちゃん。誰かに頼めないの?」

「高価なアクセサリーだから信頼できる人以外に預けたくないわ。なくされたり、盗まれたくないもの」

「だったら私が配達しようか」

「え?本当に?」

「お姉ちゃんが私を信頼してくれてないなら別だけど」

「ドロシーはたった一人の家族よ。信頼しているに決まっているわ。でも、あの、大丈夫?信頼していないとかそういうのじゃないのよ。ドロシーは生まれてから今まで一度も村を出たことがなかったじゃない?だから、その道に迷ったりしないか不安なの」

「大丈夫よ、私を信じて!もう十八歳の大人だもん。配達くらいできるわ。なによりも、いつも忙しいお姉ちゃんの助けを心の底からしたいと思っているの」

「ありがとうドロシー。なら任せようかしら」

「やったー!ありがとうお姉ちゃん!」

ドロシーはナンシーのお手伝いができることに心底嬉しくなり、ナンシーに抱きつきました。

かくして、ドロシーは次の日の早朝からミッドタウンへサニースプリングおばあさんの家に8つのアクセサリーを配達することになりました。

ランベリー村から汽車でミッドタウンまで行く簡単な道のりでした。

ミッドタウンに着いたらナンシーが書いた地図のとおりにサニースプリングおばあさんの家に向かえば配達は完了です。

「いいドロシー。サニースプリングおばあさんのお孫さんの誕生日パーティーが夜の6時から始まるの。それまでに絶対に届けてね」

とナンシーが何度も何度もドロシーが準備している間も、寝る前も、寝ている間も念押ししました。

ドロシーはそのたびに「大丈夫、大丈夫、わたしに任せて」と言っていましたが内心では別のことを考えていました。

はじめて村を出て都会へ行けることに胸を高鳴らせていたのです。

都会に言ったら、おしゃれなお店や美味しいお店、ランベリー村でも話題になっているオシャレ激盛りパフェも食べれるかもしれない。

そして、なによりも新たな出会いがあるかもしれないと期待してました。

ドロシーは十八年間、ランベリー村で生活し、毎日忙しいナンシーを支えるためだけに生きてきました。ナンシーといるのは楽しいし幸せでした。

しかし代わり映えしない毎日に退屈していたのです。

だからドロシーはワクワクしてあまり眠れませんでした。

明日はきっと素敵な日になるに違いないと思いました。

次の日の朝になりました。

ドロシーの部屋のドアをノックする音がトン、トン、トンとなりました。

「おはようドロシー。起きてるー?」

「ふわあ、起きてるよーお姉ちゃん。むにゃむにゃ」

「良かったわ、もうすぐ出発の時間だけど準備は大丈夫かしら」

「出発?、、、そうだわ!今日はミッドタウンに配達に行く日だわ!」

ドロシーはベットから飛び起きて、急いで身支度をし、旅行かばんを持って部屋からスキップしてナンシーのもとに行きました。

「お姉ちゃん!行ってくるわね!」

「ちょっと待ってナンシー!配達の荷物を忘れているわよ!」

「あ、そうだそうだ。ごめんなさいお姉ちゃん。うっかり、いえ、ちゃんと覚えていたわよ。大丈夫だから、そんな心配そうな顔をしないで。しっかり配達してくるわ」

ドロシーは胸を張って言いました。

ナンシーはドロシーにいってらっしゃいのハグをして「しっかりお願いね」と言いました。

ぽっぽっぽっぽー!汽車の汽笛が鳴り出発の合図がしました。

ガタンゴトンガタンゴトンと汽車が進み始めます。

見なられたランベリー村の景色がだんだん小さくなりました。

ドロシーは汽車の窓から身を乗り出して景色を眺めました。

「いよいよだわ。生まれてはじめて村から出られる!」

「ちょっとお客さん!そんなに窓から乗り出すと落ちてしまいますよ!」

「おっと、ごめんなさい」

ドロシーは顔を赤くして恥ずかしそうに席に座り直しました。

「失礼ですが、きっぷを拝見してもよろしいですか?」

「きっぷ!きっぷね、わかりました。えっと、このかばんに入れあったと思うのよね。たしかここかな、あれ、ここだっけ、あれ〜」

ドロシーはかばんの中身を全部広げて探しましたがありません。

「お客様、きっぷがなければ購入していただかないといけません」

「少し待っててください、絶対に持ってきてるはずです。昨日姉が渡してくれて、それでかばんに入れたはず。あ、そうだわポケット!」

ポケットの中身を探るときっぷがありました。

「たしかに確認しました。ミッドタウンまでですね。それではここからガタガタ山に入ります。激しく揺れたり、急カーブがありますので、お荷物や貴重品から手を離さないようにお願いいたします。なくされても自己責任になります」

「え、揺れるってどういう」

ドロシーが言い終わる前に車両がガタガタガタガタと激しく揺れ始めました。

広げていた旅行かばんの荷物がバラバラに飛んではねました。

しかもその中にはサニースプリングおばあさんの荷物も入っていました。

8つのアクセサリーが車両の中を転がります。

「ダメダメダメダメ」

ドロシーは慌ててアクセサリーを捕まえます。

1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ

「あれもう一つはどこ?」

コンコンコーンと8つ目のアクセサリーが車両の奥に転がる音が聞こえました。

ドロシーは走って捕まえようとしたそのとき身体が急に横へと崩れました。

急カーブです。

左に曲がって、右に曲がって、また左。

ドロシーは目が回りそうでした。

8つ目のアクセサリーも同じように左、右、左と転がります。

それでもなんとか這いつくばりながら8つ目のアクセサリーを捕まえました。

「はあ、はあ、はあ。まったくなんて線路なの。こんなに揺れたり、曲がったりするなんて」

サニースプリングおばあさんに配達する8つのアクセサリーは回収できました。

しかしそれ以外の旅行かばんに入っていた荷物は散らばってしまいました。

「汽車の旅ってもっと優雅なものだと思っていたわ」

「まもなくミッドタウン、ミッドタウン。お降りの方はお荷物の準備お願いいたします」

「え!ミッドタウン!もうすぐ着くの!大変、荷物を片付けなきゃ!」

ドロシーが慌てて荷物を旅行かばんにしまった頃、汽車はミッドタウン駅に着きました。

ミッドタウン駅はとても大きな駅で、たくさんの人がいました。

ドロシーはこれほど人々が集まるところを今まで一度も見たことがなかったので、お祭りでもあるのかと思いました。

キョロキョロと駅のホームを歩いているとワンワンワンと犬の鳴き声が聞こえました。

鳴き声が聞こえる方を見てみると、なんと子犬が線路の上に落ちてしまって出られなくなっていました。

「ちょっと誰か!子犬が線路にいるの!ねえ助けないと!ねえ!」

ドロシーが大声をあげて人々に声をかけても誰も相手にしてくれず無視されました。

そうしていると次の汽車がやっくるのが見えました。

「もういいわ、誰も助けに行かないなら、私が行くわ!」

ドロシーは線路に勢いよく飛び降りました。

「子犬ちゃん、しっかり捕まっててね」

汽車のブーーーーーというクラクションが大きく響きました。

ドロシーは必死にホームに上がり、間一髪で子犬を助け出せました。

子犬は嬉しそうにドロシーの顔をなめました。

「ふふふ、よかった。きみもう線路に落ちちゃだめだからね。それじゃ私はもう行くから」

ドロシーが子犬を置いて行こうとすると目の前に怒った顔をした駅員さんがいました。

「線路に飛び出すなんて何を考えている!あれを見ろ!急に君が飛び出すものだから汽車が緊急停止してしまったじゃないか!時刻表が遅れてしまう。たくさんの人に迷惑をかけたんだぞ!」

「だって、子犬が線路にいたんですよ!誰も助けないし、あのままだったら死んでしまったかもしれしれない!」

「うるさい!そんなことどうでもいい!時刻表が遅れたら私の責任問題になるのだ!」

「はあ、わかりました。ごめんなさい。でもわたし行かなきゃいけないから」

そう言ってドロシーはその場から走り出しました。

駅員さんの怒声を無視して、ドロシーは駅を出て街に出ました。

ミッドタウンはランベリー村と比べられないくらい大きな街でした。

まるで遊園地のようにいろいろな建物やお店が立ち並び、たくさんの人々が集まっていました。

ドロシーは目を輝かせてフラフラ歩いていると、足をつまずかせてしまいました。

「おっと、いけないいけない。仕事に来てるのよわたし。早くサニースプリングおばあさんの家に配達に行かないと。ええっと、地図、地図」

ドロシーは旅行かばんから地図を取り出して目的地を確認しました。

地図によると駅から目的地まで徒歩で三十分くらい。

ショッピングストリートを抜けて橋を渡ったところにある大きな桜の木が目印でした。

地図には午後6時までに届けること!とナンシーのメモが書いてありました。

時計を見ると今は午後1時。まだ時間まで余裕があることを確認すると安心したのかお腹が空いてきました。

「そういえば朝ごはん食べてなかったわ。そうだ!ミッドタウン名物の限定パフェの店に行こうっと!たしかショッピングストリートにあるって聞いたわ」

ドロシーはウキウキしながらショッピングストリートに向かいました。

空の綿あめ、巨大チュロス、十二種類のチョコを使ったドーナツ、いろいろなお菓子のお店が並んでいました。

巨大な看板にきれいな女の人が写っていて流行りの化粧品にも目が惹かれ、ガラス張りのお店の向こうには見たこともないドレスやかわいいスカート、ワンピースが飾られていました。

どこのお店もおいしそうで、面白そうで好奇心旺盛なドロシーは寄り道を楽しみました。

もうすっかり配達のことなんてドロシーの頭の中にはありませんでした。

だから他のことに注意が向かず、ドロシーは大柄な男にぶつかってしまいました。

「おい嬢ちゃん。いてえな」

「ごめんなさい。前を見てなかったの。大丈夫ですか?」

「大丈夫かって、へへへ大丈夫じゃねえよ。あー、すごくいてー、これは骨折しちゃってるな。嬢ちゃん慰謝料くれよ、そうだな百万円今すぐよこせ」

「そんな強くぶつかってないと思うけど。それに百万円なんてそんな大金持ってないわ。ぶつかったことは悪かったと思いますけど、あなた横暴よ」

「あ?横暴だって!こっちは骨折してんだ!カネがないならその持ってるカバンをよこしな!」

「いやよ!これには大事なアクセサリーが入っているの!絶対に渡すもんですか!」

「ほお、アクセサリー。へへへ高価なもん持ってるじゃなねえか。よこせ、よこせ、よこせ!」

大柄な男がドロシーのカバンを取り上げようとしました。

ドロシーはすぐにカバンを大事に抱えて走り出しました。

ショッピングストリートにいる人々をかき分けて、必死に逃げます。

後ろを振り返ると、大柄な男もドロシーの方へと人々を無理やりどかしながら追ってきました。

「なんなのよー、わたしが何したっていうのよ!」

ドロシーはわけもわからないまま知らない道をがむしゃらに進みました。

もう一度後ろを見ると大柄な男はいませんでした。

「はあ、はあ、はあ。今日何回全力で走っているのかしら。そうだわ、もう配達に行かなきゃ。都会はもうこりごり、早く家に帰ろう」

時計を見るともう午後5時でした。タイムリミットまで残り一時間です。

ドロシーは旅行かばんを広げてアクセサリーを確認しました。

「ちゃんと全部あるか確認しないと。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、あれ?一個足りない。いいえ、そんなはずない。数え間違いだわ。もう一度数えましょう。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ、ななつ、あれ?」

その後なんど数えても一個足りませんでした。

「どうしよう!一個足りないわ!サニースプリングおばあさんのお孫さんの8歳の誕生日プレゼントに年の数だけアクセサリーをお願いされていたのに。これじゃダメじゃない!せっかくお姉ちゃんから任されたのに!いいえ落ち込んでいる暇はないわよわたし!早く探さないと!きっと走り回ってて落としたんだわ!」

ドロシーはショッピングストリートをくまなく探しました。

逃げてきた道も覚えている限り探しました。

駅の方も探しました。

いろんな人に声をかけて見かけなかったか聞きました。

でも見つかりませんでした。

タイムリミットの午後6時までもうすぐです。

もう目的地に向かわないと間に合いません。

「きっとあの大柄な男が拾って持っていってしまったんだわ。わたしが寄り道せずにまっすぐサニースプリングおばあさんの家に向かっていればこんなことは起きなかったのに」

ドロシーは自分の軽率な行動を深く後悔しました。

「泣いている暇はないわ。正直に言うしかない。サニースプリングおばあさんにも、お孫さんにも、お姉ちゃんにも謝るしかない。とりあえず残りの7つのアクセサリーを渡さなきゃ」

ドロシーはとぼとぼとした足取りでサニースプリングおばあさんの家に向かいました。

さっきまでの楽しい気分はなくなりショッピングストリートを歩いても少しもワクワクした気持ちはなくなりました。

大きな橋を渡り、住宅街を抜けて、大きな桜の木がある家に着きました。

「よし、時間には間に合ってる。アクセサリーの数が足りないから意味ないけどね」

ドロシーがサニースプリングおばあさんに入ろうとしたときです。

ワンワンワンと犬の鳴き声がしました。

家の庭から子犬がドロシーのもとに走ってきました。

「あ!きみは駅の線路にいた子犬ちゃん。なんでこんなところにいるの?」

子犬がドロシーにすり寄っていると「ラッキー!」とよぶ少女の声が聞こえました。

庭の方から8歳くらいの少女がやってきました。

「ラッキー!そこにいた!ダメじゃないラッキー。また迷子になっちゃうでしょ!お姉さんありがとう!そういえばお姉さんだあれ?」

「わたしは配達に来たドロシーよ。姉のナンシーの代わりにお荷物をお届けに来ました。おばあちゃんを読んできてもらっていい?」

「うんわかった」と少女は笑顔でうなずいて家の中に入りました。

しばらくすると玄関のドアが開きました。

優しそうなおばあさんが出てきました。

「あらまあ、遠いところわざわざありがとうねえ」

「はじめまして、ナンシーの妹のドロシーです。お荷物をお届けに来ました。そして申し訳ありません、お孫さんのアクセサリーをひとつなくしてしまいました、本当本当にすみませんでした!」

ドロシーは必死に頭を下げました。

サニースプリングおばあさんは少し困ったようでした。

「うーんと、それなんだけど。大丈夫よ、ほら」

サニースプリングおばあさんが手の中から8つ目のアクセサリーを見せました。

「いったいそれをどこで見つけたんですか!?」

「孫のペットのラッキーが持ってきたのよ。昨日まで迷子だったのに、今日家に帰ってきてこれを口にくわえていたわ。このアクセサリーはナンシーさんのものに違いないとひと目見たときにそう思ったの。もしかしたらラッキーがナンシーさんの物を取ってきちゃったかもと心配したわ」

ドロシーはサニースプリングおばあさんの話を聞きながら心の底から良かったと思いました。

ドロシーの初仕事はラッキーによってなんとか成し遂げることができました。

ドロシーはサニースプリングおばあさんとお孫さん、ラッキーに別れを告げてランベリー村に帰りました。

たった一日の仕事だったのにとても長く感じました。

「ドロシー!おかえりなさい」

家に帰るとナンシーがハグをして出迎えてくれました。

「ただいまお姉ちゃん。もうお腹ペコペコだよ」

「どうもありがとうドロシー。今日はどうだった?」

「そうね、今日は本当に、、、、」

さてドロシーはなんと答えたでしょうか。


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