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わたしが神楽坂に住む理由。

イタリアとベルギーでの修士生活から、都内の神楽坂に惹かれて。個人的にとても気になったこの町に、今年の初めから住み始めました。

神楽坂とはどんな場所か

日仏学院があるためか、どことなくフランスの空気感があります。本国で老舗のPAULをはじめとしたベーカリーが並び、カフェやレストランも。

巷では「小さなパリ」とも謳われますが、イタリア風土な香りも。北東部・フリウリ州の伝統料理店や、生ハムやカルボナーラの専門店、チーズのセレクトショップなど、バラエティに富んでいます。

たまたまフランス語圏とイタリア語圏の両方に過ごして、この地を日本の拠点とすることに、何かの縁を感じて。神社や花街といった「和」の風情も混じる不思議な感覚です(最近はインバウンドの観光客も多く、モダンと伝統が適度に織り混ざったこの地区に、個人的にポテンシャルを強く感じています)。

パリのマレ地区やミラノのナポレオーネ通りといった「ザ・ファッショナブル」で、ハイエンドな店の棲み分けが明確な、ヨーロッパの都会的な景色と違い。神楽坂には高級っぽさの中にも、コンビニやスーパーが軒を連ねるといった、良い意味での大衆っぽさが許容されているようで。色んな国々の都市を巡った中でも、特にユニークに感じます。

出版の街

もうひとつ、神楽坂に惹かれたのは「出版文化」です。

よく見ると、新潮社や旺文社、大日本印刷(DNP)など、出版業界に携わる会社が神楽坂に多く。ボールペンで有名な、ゼブラの本社もありますね。

本の倉庫を改修し、衣食住知の発信スペースにした「la kagu」だったり、印刷文化を学べる博物館もあったり。大変おもしろいです。

ヨーロッパの国々で、メディア学を専攻して感じたこと。中世から出版(=言論の追求)で栄えた街は、開明的な精神が宿っている

イタリアでは、ヴェネツィアのアルド印刷所。文庫本を初めて作って流通させた出版人がいましたが、宗教的に厳しいローマ教皇との対立も、ときには辞さずに表現の自由を追求しました。「表現」を尊ぶ伝統は、今も120年以上続くビエンナーレ国際美術展や、世界で最も古いとされるヴェネツィア国際映画祭にも、引き継がれています。

ベルギーでは、アントワープのプランタン・モレトゥスの印刷工房。知識の普及を求めた科学者たちがこぞっと集い、果ては芸術家や政治家も連ねたサロンとなり、近代を作り上げていきます。

オランダのロッテルダムに次ぐ、欧州第二の規模を誇る港湾都市として、また首都ブリュッセルに次ぐ経済規模の大都市として、今もアントワープは栄えています。

街とともに生きる

神楽坂でもそんな「出版文化」が栄えたためか、諸外国言語を吸収する意欲も培われているようです。IELTSを実施するブリティッシュ・カウンシルや、英検の協会もある。なんなら、フランス語の日仏学院だけでなく、イタリア語のイタリア文化会館も近いです。

文学の地としても、有名なようです。日本の文学者が数多く住んでいて、夏目漱石が晩年を過ごした自宅や、尾崎紅葉の旧居、江戸川乱歩が住んでいた通りなど。とにかく私の好奇心を刺激するものが多すぎて、キリがありません…!

日本の文学者と神楽坂の関係を記した地図(一部分)。
現地の雑貨屋さんで購入しました。

そんな神楽坂エリアに新しく住みつつ、本づくりを学び始めました。大学院では「デジタル・メディア」(という修士号)をやっていながら、なぜアナログな製本を…と自分でも思いますが。街が抱えてきたローカルな文脈や、有機的なつながり(伝統)に根ざして、生きてみたい。欧州諸国を周りながら夢想していたことが、ようやくこの地で実現できそうな気がします。


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