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1. おっさんの留学意義ってなんだろう?(1)留学でおっさんが失うもの:アラフォーから始める留学(仮)

 

さて、最初に留学を決める前の話として、40過ぎの留学で得られるもの、失うものについてお話しします。正直、まだ学位終了してないので具体的に得たものは無いのですが、当初思い描いていて実際そうだった、もしくはそれ以上、それ以下だったものについて、現状から分析してみます。まずは敢えてネガティブから。何を失うのかについてお話ししましょう。

留学でおっさんが失うもの

これは、間違いなく直近の地位です。ここが若い時に留学する人との決定的な違いです。もちろん、自分の中に積み上げたこれまでの専門性やネットワークは無くなりませんが、会社内でのポジションや社会的立場は一旦保留されます。基本的にゼロ回帰すると言っていいでしょう。何人かの知人は「会社と交渉してポジション待遇維持して貰えばいいじゃん。大企業の社費留学はある種の出世コースなんだし。キャリア捨てるのは勿体無い」と助言してくれましたが、そんな甘いもんじゃないと僕は考えます。少なくとも、僕の所属するデジタルマーケティング業界は、3年もすれば趨勢がひっくり返ります。大学院だと2年(欧州だと1年ですが)、現場を離れるわけですから、たとえあなたの会社がどんなにあなたを愛していても、ポジションの留保など物理的に不可能です。ビジネスドメインが変わっている可能性すらあります。また、仮に自分の専門外を学ぶ場合は、新しい専門領域と引き換えに、もともと持っていた人脈や知見は確実に使い物にならなくなるでしょう。たとえMBAでマネジメントキャリアにシフトしたい、と考えても、プレイヤーとしてのあなたの力は確実に浦島太郎になります。なので、留学して海外に行くということは、直近の地位を捨てることと100%セットだと思って下さい。

次に、あなた自身の貴重な資産を失います。率直に言うと時間と金です。先ほど述べたように、短期留学なら半年、学位をとるなら1、2年の時間を費やします。この間ほとんどの人は学生ビザですから就労しません(米国は少なくとも1年働いてはいけない)。いくら将来の為の時間投資と言っても、非生産者です。これは結構焦ります。ハードワークに身を置いてきた人なら尚更です。僕も終電当たり前、土日も家で仕事という仕事のペースでここまで来ていたし、自分が必要と思えば強要されなくてもやってしまう、ワーカホリックなところがありました。20時より前に平日フリーになると何をしていいかわからない(笑)。これが突然、9:00-16:00という生活に変わります。お金を稼ぐやり取りは発生せず、いくらいい成績を取っても給料はもらえないし、世の中に貢献する具体的なアクションは募金とボランティア以外何も出来ません。とにかく社会人残り時間と貯金だけが減っていきます。さらに、このことは精神もすり減らします。20年近く社会人として生きてきたおっさんにとって、非生産者に転じることは想像以上に恐ろしい。ミッドターム・ブレイク(中間試験の後に1週間ぐらい休みになる)で何もすることがなくて起きて食って寝るを繰り返すと、プロとして前に進んでいる実感がないどころか、今の自分は消費だけしている、ただのウ○コ製造機なんじゃないかと思い始めたりします(汚くてすいません)。そして、どう繕おうがそれは事実でして、留学している今この瞬間、プロのキャリアは1ミリも進んでいません。もちろん、新たな知見の積み上げは始まっていますがそれは未来の別の話。本来この2年の間に積み上げられたであろう日本でのキャリアと、稼げたであろうお金がすっ飛びます。ましてや、海外留学はかなりのお金がかかります。国や期間にもよりますが、最低1,000万円は自分の脳内に消えて無くなると思ってください。人生の折り返し地点で、残り限られた稼働時間の中での数年と、回収予定のない負債はかなり大きいことは明白です。

最後に、大事な人との快適な環境を失います。綺麗事を言ってるんじゃなくて、本当に切実です。奥さんや子供と数年離れることは、思っている以上にしんどい。幸か不幸か、我が家には子供がいませんが、奥さんがそばにいないことは寂しいものです。いやノロけじゃなくて本当に。僕も渡米後最初の1、2週間は開放感に浸って自由を謳歌していましたが、1ヶ月もすれば孤独を感じ始めます。独身の方でも、親や友人、行きつけの店と離れることは結構なダメージです。僕は地方出身者なので、大学入学時に今回と似たような孤独の経験をしていますが、その時以上の寂しさを感じます。実際、クラスメイトの半分以上が自分より年下です。アメリカは、友人付き合いに関して日本より遥かに年齢差を意識しなくていい国ですが、それでも寂しさが紛れるほどの友達付き合いはそう簡単に出来ません。何より、20代のイケイケな連中と同じテンションで生活する体力が残ってません(笑)。奥さんやパートナー、友人が如何に大事な存在であるか、心の底からわかります。さらに母国語でコミュニケーションができないことが孤独に拍車をかけます。どんなに英語を勉強しても、ネイティブではない以上、心の奥底を表現することは難しいですし、ニュアンスを相手にわかってもらうことは尚更です。逆に、母国で、母国語で暮らすことがどんなに楽なことか、身に浸みて感じます。また、親の状況も気になります。母国にいるときは、たとえ実家が遠方であっても、日本にいる限りは何かあればすぐに帰れるという物理的な好条件が安心につながっています。この歳になると少なくとも親は60歳以上。多くの場合リタイヤしていて、寄る年波に勝てず何らかの不具合を患っているでしょう。またお子さんがいらっしゃる場合は基本20歳以下でしょうから、小さい子の場合は顔を忘れられる不安、思春期の場合は帰国後ディスられる不安(人によるか(笑))が付き纏うでしょう。自己の孤独に加え、この手の心配事は日本にいるときより確実に色濃く、本当に毎日、頭の片隅にあることになります。もちろん、海外滞在中の一時的なロストなのですが、地位と同じで、帰国したから回復できるという保証はどこにもありません。仮に現地で就職機会を得た場合、大切な人との何かを無期限に失うかもしれません。残念ながら、渡米中に親御さんが亡くなったとか、離婚したという人も結構いるのです。実際、今のクラスメイトのイタリア人は、留学を理由に渡米後1ヶ月で奥さんと別れたそうです。みんなで慰めのワインを奢ってあげました(悲)。

事前に見えているリスクは、リスクではない。

いきなりネガティブ要素を並べ立ててすいません(苦笑)。こんだけ脅しといて、なんじゃい、という感じですが、それでも僕はおっさんの海外留学を薦めます。失うものよりも得るものの方が大きいと僕は確信しています。一方で、実際のところ、MBAとったら箔がつくとか、海外在住経験履歴書に書けるとか、ミーハーな気持ちで行けるのは30代前半まででしょう。勉強が終わってからキャリアピークに向かう年齢と、一山超えたあととではかなり状況が違います。ですから、アラフォーの皆さんには失うものをはっきり自覚した上で得るものを考えて欲しいと思っています。予め分かっていれば、手は打てますからね。いい大人だし。勉強の対象や留学先、期間を選ぶのも、これらのことと無関係ではありませんし、事前にリスクを再確認することは、飛び立つ前に大切な人たちとやっておくべきことのヒントになると思っています。


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