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1. おっさんの留学意義ってなんだろう?(2)留学でおっさんが得るもの:アラフォーから始める留学(仮)

前回はネガティブな話を書き連ねて、恐縮でございます。気持ちを切り替えて、今回は希望に満ちたポジティブなお話です。すなわち、留学によって何を得られるか、です。

勉強した証の紙

いきなりゲスい感じもしますが、一番確かな「得られるもの」です。もちろん、サボって単位落としたとかドロップ・アウトしたとかは基本的に論外です。経歴詐称はいけません。帰国後のあだ名がホラッチョになるようでは色々失ってまで留学した意味がありません。(あ、失うから取り返すために詐称するのかも。)これらには幾つかのバリエーションがありますので、下記に列記します。ここでは、大学院レベルのお話にして、語学留学のケースは割愛します。

【修了書 (Certification)】

学位とは認められないが、特定の専門コースを履修した証をCertificationと言い、これを発行しくれるプログラムをNoncredit Certificate Programと言います。

米国に限らず、世界各国の各大学、特に私立にはこういう制度が非常にいっぱいあります。彼らもお金稼いでます(笑)。僕の通うニューヨーク大学(以降NYU)のプロフェッショナル大学院(以降SPS)ではこういうプログラムをいっぱい持っていて、終了するとDigital Badgeという認定ID入りの怪しい画像がもらえます。要はLinkedinのプロファイルや、自分のバイオグラフィー(自己紹介書)に使ったりするためだそうです。ハーバードもスタンフォードもこういうのいっぱい持ってます。

http://www.scps.nyu.edu/academics/noncredit-offerings/badges.html

また、ESL(大学付属の語学学校)の卒業も一種のCeriticationです。この証を以って大学入学の際にTOEFL免除(TOEFL waiverという)になったりします。1年以上英語で大学クラスの授業を受けるとTOEFLスコア提出免除にしてくれる大学もあるのです。実際、英語学校に入ってグレードをもらってからアプライ(出願)する人も結構いるみたいです(南米の人が結構そんな感じ)。ちなみに、大学院だとLevel 7, 学部でLevel 5が必要です。最大値はLevel 8(ほとんどネイティブ並みにアカデミックな英語しゃべれます証明)なので、大学院目指す場合、TOEFL獲るのとどっちがきついかというと微妙です。(苦笑)

【学位記(Diploma)】

大学院の修士、博士課程を修めた証です。卒業証書のことをdiplomaと言います。

ちなみに大卒学士のことをBachelor, 大学院卒修士のことをMaster, 博士をDoctorと言います。また、4年生大学のプログラムをUnder Graduate Program, 院卒のことをGraduate Programと言って明確に区別しています。ここに隠されたニュアンスは、特に欧米社会においての学部は、知識人として最低限やっとくべき学校を卒業した、という意味合いがあるようです。つまり、アカデミックな世界での専門性とは大学院レベルを修了しているということと同義な感じで、博士課程卒業でその分野を極めたというニュアンスみたいです。なので、Doctorという肩書きは、日本人が思うより重く、敬意の対象になります。一説によると、博士を取った途端、入国審査が楽になるとか(要調査)。

物理的にもらえるのはこんなもんでして、あとは経験という名の可視化できない資産になります。

下記に6つの獲得資産をまとめてみました。

専門性の深化及び拡大 

当然、専門分野を学びに行くのですから、これを持ち帰らないと話になりません。選ぶ内容で量と質は変わりますが、どちらにせよ知見は深化拡大します。僕が学んでいるコースは、デジタル・マス双方のブランディングとデータ分析を総合的に学ぶIntegrated Marketingという分野で、自己領域であるデジタルの深化と隣接領域であるマスマーケティングやブランディングに知見拡大を求めています。一方で、専門性特化よりもキャリアアップのためのギアチェンジを狙い、MBAなどの包括的な経営学領域に進む人や、まったく違うキャリア形成のためにセカンドメジャー(今持っている学位と別の学位をとること)を取りに行くケースもあるでしょう。どちらにせよ、留学の本質的な目的であり、程度の差はあれど、確実に手に入る新しい無形資産です。

プチ就労経験

また、米国大学院の場合、OPT(Optional Practical Training)というものが必修単位に組み込まれている場合があります(省略している所もあります)。CPTは在学中の就労許可のことを言って、フルタイム学生として2学期以上(要は1年)学業に専念すれば許可が下ります。逆にそれまではバイトも出来ません。ただ、あくまで勉強が本業ということで、学期中は週20時間労働まで(バケーションの時は制限がない)の制限があります。OPTが出来る期間は12か月ですが、工学系などの一部特殊分野は29か月まで行けるそうです。生活費としても非常にありがたいシステムですが、有給インターンとして使えば、就職機会としても非常に重要な仕組みです。実際、多くの学生が卒業後OPT受け入れ先に就労ビザを発行してもらい、就職するようです。またNYU-SPSではOPTは単位認定されますので、学校が「OPTやれ」と言ってるに等しいですね。ただ1単位しかもらえないので、学位認定に関しては屁のツッパリにもなりませんが。何にせよ、帰国するにしても米国でのプチ就労経験は非常に大きな体験となるでしょう。

語学力

きれいな発音かカタカナ・イングリッシュかは本人次第ですが、英語での交渉力は嫌でも身につきます。私生活はもちろん、少なくともアメリカの大学ではPerticipation Score(授業に積極的に参加していたかどうかを示すスコア)というものを最も重要視します。NYUでは、教授にもよりますが、グレード評価の採点配分はPerticipation 60%, Exam 20%, Homework 20%という感じでしょうか。つまり、発言や意見交換、リーダーシップを発揮していたか、存在感があるか、というもので、この辺が日本的教育との最大の違いです。デジタルな評価ではなく、先生の受け止め方による定性的な評価です。つまり、教師に存在を認められ、一目置かれる生徒として振る舞えよ、ということです。なので、下手くそだろうがなんだろうが、発言して何かアピールしないと十中八九単位を落としますから、家で「明日のクラスでどうコメントしようか」を考えて作文して練習したりします。
また、自分のヒアリング力の低さに最初はビビると思います。「やばい。ついていけないかもしれん…」と思うこと請け合いです。当然早いし、ノンネイティブに気を使って講義なんてしません。宿題が何なのか、そもそも何に解答せよと言ってるのかも解らなかったりします。単位落とさないためには、先生やクラスメイトに聞くしかないのです。恥ずかしがってる余裕なんぞありません。

こうやって四苦八苦しているうちに、ボキキャブラリーが増え、英語耳も英語脳も鍛えられていきます。読み書きの方も、先生によっては吐き気がするぐらいの量を読まされますし、毎週何らかのレポートの宿題があります。レポートのセオリーを守れていない文章(アカデミック・ライティングと言われる基本構成を守らず、論理的にスムーズに流れてない、要は稚拙な英語文章)は、どんなにテーマが良くても減点かアウトですから、これも日々勉強せねばなりません。

というわけで、少なくとも卒業できた人には、アカデミック・レベルな英語力は最低限身につくでしょう。いわゆる英会話やビジネス会話とは全然違うレベルで、知性が感じられる言い回しや単語の使い分けが出来るようになるはずです。

異文化理解力とコミュニケーション・タフネス

海外で暮らしていて一番鍛えられるのは、異文化を許容する寛容さと、それに伴うコミュニケーションの力でしょう。

我が家の近所でも様々な出自の様々な人種がそれぞれに暮らしていています。各国の文化に敬意を払い、それを取り込んで、アレンジして新しいものを生み出すという素敵なループがあります。一方で、毎日のように何らかの事件が起こります。夜中に大音量パーティ始めるプエルトリカン。地下鉄車両内で踊りだし、チップをせがむヒップホップ・ガイ。通りすがりに突然「あのベーグル買って」という婆さん。郵便局は小包が重いと二階まで持ってきてくれない。ホームレスがゴミを荒らしても、お前の管理が悪いと清掃局から罰金請求される。(正確には大家さんが罰金払わされるので、ある日突然住人にキレまくる。)言えばきりがないのですが、本当にしょっちゅう、小さな異常事態が起こります。クレームをつけるにせよ無視するにせよ、日本にいるときは考えられない面倒なコミュニケーションが常態化します。そして、黙っていても問題解決しないので、自分で何らかの解決方法を探し、実行せねばなりません。これらは、アメリカが顕著なのかもしれませんが、他国在住者に聞く限り、他の国でもかなり起こりうることのようです。つまり、日本人が故に異国にいるからこそ感じるストレスであるとも言えます。

「アメリカは日本に比べて本当に雑だ。やっぱ日本すごい。」で片付けてしまうことも出来ますが、あなたが異国に異国の人としている場合、そうはいきません。皆まで言わずとも思いやれ、という日本に対し、何かして欲しかったら主張せよ、のアメリカの価値観。この異なる文化の優劣ではなく、今所属する社会の良さも悪さも受け入れて、そこでどう快適に生きるかを模索するタフネスを会得するには最高の機会です。視点を変えると、Diversityという耳障りの良い言葉の裏にある複雑なストレスへの対処方法を鍛錬していると言えるかもしれません。これは、ビジネスに戻っても確実に活きて来るでしょう。異文化の融合から生まれる素晴らしさを取り出すには、異文化の衝突から生まれるストレスを処理しなければなりません。この陰陽二極を肌で感じながらサバイブしていくことは、海外生活でしか得られないものでしょう。

自己認識、知識整理と再構築

海外で留学する場合、その国のネイティブと他国からの留学生と机を共にするわけですが、そんな中で、あなたが唯一の日本の代表者として、日本のことを話す機会が多くなります。彼らの「なぜなぜ日本?」に答える必要があります。若い頃なら流してた様な質問でも、いい大人が世界各国の若者に質問されるわけですから、「ここはちゃんと答えねば」という気持ちになります。そんな気持ちと裏腹に、確実に「自分は案外自分の国を説明できない。」という現実に直面するでしょう。また、日本国内と海外とでのニュースギャップは確実に存在しますので、その事も説明を難しくします。こういう事が度々起こりますので、「聞かれたらどうやって説明しようか」と考え始め、日本の歴史や習慣、ビジネスの特徴なんかを客観的に分析する様になります。もちろん、国のことだけではなく、あなたの専門職業についての質問も同じことです。若いクラスメイト達は興味津々です。GDP世界3位、奇跡の国日本のビジネスマンが目の前にいるのですから、彼らにとってこんないいケースはありません。僕も本当によく質問されます。日本の歴史、文化、習慣、アニメ、マーケティングの話など多岐にわたります。そして、英語力の問題もありますが、残念なくらいちゃんと答えられません。「そんなの知らない、でスルーしちゃえばいいじゃん。」そう思うかもしれませんが、先生が見逃してくれません。ESL(大学付属の英語学校)は確実に自国や自分の専門性を説明するお題を出してきますし(自分の国の良い点と悪い点をレポートせよ、自分の専門性をプレゼンせよなど)、本科の授業でも「このケース、日本だとどんな感じ?」という感じでいきなりぶっ込んできます。そして、フリーズすること請け合いです。成績に影響しますので、あなたは自国も自己も分析して説明できるレベルに整理せねばなりません。この事は、かなり良い知識整理になります。知ってたつもりで知らなかったことや、人に説明できるレベルまで理解していなかった事をはっきり自覚することになります。結果として、自分の欠損知を理解し、自分(自国)の特徴を客観的に再構築するという作業を嫌でも繰り返します。結果、自己紹介が簡潔で分かりやすくなり、初対面の外国人と会った時のスモールトーク(挨拶がてらの小話。イギリス人は天気の話をするのが有名。)が格段に上手くなる事でしょう。

卒業生ネットワーク

MBAホルダーの多くが、実はこれをゲットしに来ていると言われるほどの代物。それが卒業生ネットワークです。特にアメリカでは、学校の同窓生のことをAlumni(アラムナイと発音する)といい、同窓会ネットワークそのもののことだったりもします。ちなみに卒業英のことは単数形でAluminus(女性はAlumna)と言い、単数形の方にsがつき複数形にsがつかないという厄介な代物でです。このAlumniネットワークがメジャースクールのメジャースクールたる所以と言ってもいいでしょう。僕はこの凄さを嫌という程見てきました。日本国内の学閥とはスケール感がぜんぜん違います。HerverdやStanford、 MITクラスになると、大企業の社長はもちろん、政治家や官僚、果ては国王までAlumniになります。だからと言ってどこかの国王に「最近どうよ」って仲になれるわけではありませんが、ビジネスにおいてしばしば強力なアドバンテージを発揮します。商談成立は勿論の事、何らかのトラブルが発生した時、トップが同窓生だったならば、時に劇的な体制をしてくれたりします(外資系企業が日本のいち取引先のためにフォーメーション変えるなんてことはかなり稀)。また、同窓生が自国以外でビジネスを展開したい時などはAlumuniのリストを使って当事国の卒業生に相談が来たりしますし、逆に自分がビジネスを展開したい時は、グローバルな同窓生を持つ学校ほど世界各国に相談相手が出来ることになります。この辺のパワフルさについては、現在の日本の大学は全然及ばないところです。もちろん本人のコミュニケーション力に依存しますが、自分のギアを上げる権利が手に入ることは確かです。先述のように、Alumniのスケールや人材の方向性は行く学校によって大きく変わります。どうせ行くならメジャースクール、というのは見栄や世間体や勉学向上心ではなく、こういうところが実際的に大きいのです。

素敵な友人たち

至極当たり前ですが、最大の無形資産です。先に書いたAlumniは同窓生全般を指し、会ったこともない人達ですから気楽に相談できるわけではありません。礼儀を失えば大変なことになります。やはり、一番頼りになるのはクラスメイトです。プログラム終了後、世界に散らばる彼・彼女らが、友人として今後無償の協力をしてくれるでしょう。特にMBAなどのマネジメント系や社会人を対象とした大学院なら、友情と実益を兼ねた素晴らしい友人たちを得ることができるでしょう。ありがたいことに、海外留学経験のある先輩方からニューヨーク在住の色んな人を紹介してもらっています。彼らは、「あいつの友達だから」という理由だけで、初めて会う僕に無償で色んなことを教えてくれます。留学経験者の学友との絆の深さを本当に感じます。僕はまだESL中で本科にはたまに顔を出す程度ですが、アメリカはもちろん、中国、サウジ、イタリア、ブラジル、ペルー、トルコの仲の良い友人がいます。僕はマーケティング専攻なので本科が違う友人たちも将来の顧客ポテンシャルになり得ますし、各国の事情をリサーチするときは素敵な参謀になってもらえます。彼らもマーケティングと無縁ではいられないので色々質問してきます。友情だけではなく異国人交流ならではのギブ・アンド・テイクの関係が自然に出来あがります。異国で学ぶということは、自分が異国人である段階で既に強みなのです。それを実感させ、最大化してくれるのはクラスメイトたちです。

このように、アラフォー海外留学には失うものを補って余りある恩恵があります。知識追求や専門性の深堀・拡張、就労経験はもとより、語学力、コミュニケーション力と寛容さ、自己分析力と再構築、そして巨大な同窓生ネットワークと素晴らしいクラスメイト。これらの恩恵は、留学後のあなたの人生を大きく変えるでしょう。留学中にロスした自己資産を、新しく得る無形資産で埋めることができるかどうかは、もちろん、本人次第です。

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