短編小説「父を埋める相談」
図書館に行き、川上弘美さんのコーナーの前で、彼女の本をパラパラとめくっていると、母からラインがあった。
「お父さん殺しちゃったの、どうにかして隠したいのだけど、どこに埋めたらいいと思う?」
突然、そんなことをラインされても、息子としては困る。
「本当に?」
ぼくはラインを返した。
すぐさま、母からラインが返ってきた。
「本当よ、お父さん埋めるの手伝ってくれない?」
どうしたものか、ぼくはとりあえず実家に向けて車を走らせた。
関越道は事故の影響で渋滞していて、ちっとも車は進まない。
「ねえ、まだなの?お父さん生き返っちゃうわよ」
母から、ラインがきた。
「ごめん、車で向かっているんだけど、事故があったっぽくって渋滞中」
「そっか、ご飯何がいい?」
「なんでもいい」
相変わらず、渋滞は解消されず、仕方なくぼくはラジオをつけた。
「え〜、現在の関越道の様子ですが、トンネルが崩れた模様でして、数台の車が、閉じ込められてしまっているようです。え〜繰り返します。現在の…」
後ろも、前も、車が詰まって、ぼくは身動きがとれなくなってしまった。
母からラインがきた。
「ねえ、お父さん、生き返りそうよ、多分、あと一時間くらいで生き返りそう。」
「ほんと、こっちは全然動かないよ、ニュースかなんかで、関越道のことやってる?」
「やってたわよ、ミサイルが命中したんだってね、やーねー怖いわね。」
困った、急いで車に乗ったから、飲み物も食べ物もなにもない。
それに、とにかく、オシッコがしたくてしょうがない。でも、サービスエリアはまだまだ先だ。
こうなると、高速道路は不便極まりない。
トントン
窓の外を叩く音がする。
中年の女性が車の外から窓を叩いている。
女性は何かを喋っているが、窓が閉まっているので、何が言いたいのかぼくには聞こえない。
ぼくは窓を開けた。
「どうしました?」
「お水あります?」
「すみません、ぼくも何も持ってないんですよ」
「ちっ、嘘言いやがって」
ドッ
中年女性は、ぼくの車を蹴っ飛ばして、去っていった。そして、同じことを後ろの車に繰り返していた。
「お父さん、生き返った」
母からラインだ。
「どんな感じ?」
「普通にケイタイで麻雀のゲームやるって、部屋に行っちゃったわ。」
「死ぬ前の記憶とかは残ってないの?」
「さあね、お父さん、お酒飲んで寝ると、なんでも忘れちゃう人だからね。死ぬ前のことなんか覚えてないんじゃないの。でも、良かったわ、お母さんも一回お父さん殺せて、せーせーしたわ。」
「じゃ、もう俺行かなくても大丈夫?」
「そうね、あんた来ても何もご飯用意できてないし、お母さん、バレーボール行かないといけないから。」
「まだバレーボールやってるの?」
「そうよ、お父さんにはババさんバレーって馬鹿にされてるわ(笑)」
「そうなんだ、じゃ、まあ気をつけて。俺も家に帰るよ」
「はい、ありがとね♪」
ドン
さっきの女だ。
おいおい、包丁持ってやがるじゃねえか、まったく、こいつといい、両親といい、一体何がやりてえんだ。
せっかく休みで、クーラーのきいた図書館にいたっていうのに。
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