兄の決断
小学校3年生の時に1つ下の弟と野球を始めた。
野球はチームスポーツで、協調性がとっても重要だ。
初めての練習に参加した時から、団体スポーツならではの決まり、ルールに染まっていく。
アップのランニングではかけ声を出しながら、スピードを合わせてきれいな2列で走る。
一番後ろをついていく僕らが遅れると、見ているコーチからちゃんとついていけよ!という声が飛ぶ。
ベースランニングも等間隔にスタートするし、ノックを受ける時にはみんなお願いします!と大きな声で呼ぶ。
練習の準備やグラウンド整備もみんなで一緒にやるのが決まりだ。
最初はいろんなことを覚えないといけなくて大変だったけど、何より野球自体が楽しかったから、チームのルールもそんなものだと思って楽しく通っていた。
そして、初めての試合の日を迎えた。
僕たちは試合用のユニフォームもまだもらっていないので、練習着のまま端っこで応援しつつ、ファールボールが飛んだら拾いに行く係。
試合の日はめちゃくちゃ退屈だった。
更にはこのチーム特有のルールが、唯一の楽しみも奪っていた。
前日の練習後に、コーチから「弁当はおにぎりだけね。」と言われていたのだ。
午前中の試合が終わってグラウンド整備をしたら昼ご飯の時間だ。
僕らは端っこの方で、どうせおにぎりしか入っていない弁当箱を開いた。
先に気づいたのは弟だった。
「ねーつくね入っとる!」(小声)
弟が不安そうな顔でこちらを見ながら続ける。
「バレたら怒られるよう」
「どうしよう?」
周りの先輩たちの弁当をこっそり見ると、やっぱりおにぎりしかない。
一番最近入った一番年下の兄弟二人が誰よりも豪華な弁当を持っているわけだ…!
とは言っても、おにぎり2個につくねが2本刺さった串が1本あるだけなのだが。。
そんなことを言っている場合ではない。
コーチのところへ行って、素直にルールを破ったことを謝るか。
僕は決断を迫られる。
「すぐ、食べろ!」(小声)
そういうと同時に、弁当箱の片隅にあったつくねを口の中に放り込んで、一気に証拠の隠滅を図った。
弟も続いて小さな口いっぱいに頬張る…!
美味しかった。
焼鳥屋に行くと必ずつくねを頼むが、この時以上に美味しいつくねには未だ出会っていない。
怪我をしていた時期が長かった弟とは野球の話をすることがほとんどない。
でもこの思い出は二人とも明確に覚えていて、去年か一昨年の年末に帰省した時、お父さんの弁当用につくね串があったのを見た瞬間、二人で盛り上がった。
お母さんは全く覚えてなかったけれど。
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