リーキ、ポロネギ、ポワロネギ
どれも同じ野菜を指す名前である。なお私が買ったものには「ポアロネギ」と書かれていた。正解なんてないのかもしれない。
そんな「ポアロネギ」、ある日街の百貨店の隅に整列しているのを見つけてしまった。値段はやや張るものの、近所のスーパーにはまず並ばないし、何よりも絶対においしい。この欲望が脳内会議の決め手となった。
「ネギ」と名前が付くだけあって、ポアロネギはありふれた長ネギと見た目―というより大まかな形の構成が良く似ている。長いフォルム、わさわさと整列する葉っぱ、濃い緑色と白のツートンカラー(2色の境目はざっくりとしたグラデーションで区切られている)。外見だけの違いを挙げるとするならば、ポアロネギの方は葉っぱが平べったくて固そうなことと、ちょっと太っちょなことぐらいだろうか。ここまで書くと、ポアロネギと長ネギにはそこまで大きな違いが無いように思える。
買った日の晩、さっそくポアロネギを食卓に出すことにした。まず手にとってびっくり。茎はすべすべで葉っぱはパリパリ、そして1本1本がずっしりと重い。「特別野菜コーナー」出身なのもあるだろうが、明らかに普段安売りで買っている長ネギとは違う(こっちもおいしいが)。
丁寧に洗い、包丁を入れて、そこでもびっくり。葉っぱがぎっしりと詰まっていて、じゅわりと野菜汁(果汁の野菜版、呼び方合っているのだろうか)がしたたった。切ったときの手ごたえもずっしりしていて、感触としては葉っぱ付きの新玉ねぎに近いだろうか。そしてネギ特有の目に染みる香りがほぼ無い!その代わり、ネギというよりどちらかというとニラに近いような、ほのかな滋養がありそうな香りがした。そういえばポアロネギには「韮葱」という別名もあるらしい。葉っぱの繊維質な固さも相まって、なるほど言い得て妙な名前だなぁと思いながら、ざくざくと切り進めた。
大き目に切ったポアロネギはにんじん、キャベツ、しめじ、ソーセージと合わせて鍋に入れて、ポトフにした。厚めに切ったポアロネギはそれはそれはジューシー・トロトロ・甘々の三拍子で大変おいしく、他の野菜、いや下手すればウィンナーにも負けないほどの食べ応えがあった。何より良い出汁が出る!ほぼコンソメなしでもじんわりと優しい香りがする、幸せ度満点のポトフになった。なお夢中で食べてしまったため、写真はない。
このポアロネギ、しっかり煮込むとホロホロに柔らかくなる。それならば…ということで、翌日朝には白い部分を中心に使ってポタージュを作ってみた。これが大成功で、ほんのり甘く、それでいてネギ系の滋養味の風味もしっかりある超絶おいしいポタージュになった。色も高級な磁器のような薄緑になり、作ってお皿に盛っただけでもテンションが上がったが、やはりこちらも夢中で食べてしまったため写真はない。
というわけで、2本あった太っちょポアロネギは1.5日で残り2/3本になってしまった。すぐ無くなるのは寂しいが、逆においしいうちに―農家さんから手渡されてすぐに食べきる、という精神も大事だと思うことにする。
年が明けて仕事がどかどかと押し寄せてきたかと思いきや、遅れてとんでもなく強い寒波もやってきた。頭も体もフル稼働しているというのに、体温を維持するエネルギーも火力を上げないといけない。なかなかにしんどい毎日だが、だからこそ日々の食事を大切にしたい。一度心身を壊しかけたから分かるが、忙しいときこそ食べないといけない。毎日作らなくても良いけど、ちょっと心に余裕ができたら季節の地物をこれでもかと調理して、たっぷり体に入れる。30年ちょい生きてきて編み出した私の生存戦略である。
ポアロネギの旬は冬とのこと。寒く厳しい環境の中でここまでぎゅっと旨味と栄養分を作り出せるとは、いやはや驚きである。
思えば冬に旬を迎える野菜(大根、カブ、白菜、ほうれん草などなど…)はそのまま食べてもおいしいけど、たいていじっくり時間をかけて調理した方がグッとおいしくなる。「我々を煮込みながら気持でも落ち着かせなさいな」という、野菜たちからのメッセージなのかもしれない。
冬の底はまだ続いている。ポアロネギをはじめ、冬野菜と鍋を通じておしゃべりでもしながら、春を待つことにする。
ポアロネギは五島列島の「椿やさい」さん作でした。他の野菜もおいしそう! 芳田
椿やさい (ikiiki-goto.jp)