収入減での生活と手放せなかった香り
今の私はいつも以上に節約をしなければならない。
詳しい事情は書けないが、自分の過去の選択が招いた結果だ。
選択により大変な思いが続いているが、後悔はしていない。
私は季節労働者として働きながら、月に1本だけWebライターとして記事を書いている。
この働き方を選んでいるのにも色々理由があるが、それは今回の話とあまり関係がないので割愛する。
私の在籍する職場は農作業をメインとしているため、繁忙期は春から秋にかけての半年間。
冬はだいたい工場作業になるのだけれど、今年は仕事量がとても少ない。
正確にいうと一日の労働時間が2.5時間も短縮され、さらに週6日勤務だったのが週5日勤務になってしまった。
繁忙期についている熟練手当も冬は対象外のため、給料から保険や寮費などが引かれると手元に残るのは約6万円もない計算になる。
執筆にも時間がかかるのでライターの仕事を増やすより、普通に高時給のアルバイトをした方が安全なのである。
(まだライターとして確実な収入もないのに会社を辞め、家賃が払えなくなったこともある。)
そんなわけで最近の私は、工場で働きながら大事にしているライターとしての仕事の執筆を進め、アルバイトを探しては問い合わせるという作業を繰り返している。
それと同時にいつも以上に節約も意識している。
節約というのは物を買うこと自体を控える方法もあるが、普段使っている日用品や食品のこだわりを捨て、少し安価なものに変えるという方法もある。
肌が荒れたり体の調子が悪くなったりするようなものは変えずに、それ以外の「自分のテンションを上げるため」に買っていたものは苦しい間だけでも控えることも必要だ。
そこで候補のひとつになったのが洗濯洗剤と柔軟剤である。
きっかけは、残量がわずかになったこと。
もう数年ほどリピートしているもので、香りがとても気に入っている。
それぞれ単体での香りも好きだけれど柔軟剤の香りが特に好きで、ふたつが合わさった時の香りも大好きなのだ。
この洗濯洗剤と柔軟剤で洗った衣類を室内で干していると、帰宅して部屋のドアを開けた時にこの香りに包まれるようでたまらない。
毎日かいでいても幸せな匂いだなぁと思う。
そして人からも、
「いつもいい匂いするね。」
と言われるのがたまらなく嬉しいし、自分のテンションが上がるのだ。
なのでこの洗濯洗剤と柔軟剤を変えるという考えは起こらなかったけれど、さっきも話したように残量がわずかになった時、少し考えるタイミングが訪れた。
それは同じ寮内で生活していた仲間が退寮する時のこと。
みんな荷物を少しでも減らすため、必要のないものを処分したり今後も滞在する仲間に譲ったりしていた。
食材に続いて譲り受けられるのが多いのは洗剤だと思う。
手放したい人達は、
「洗濯洗剤にこだわりありますか?」
「もらった洗剤が余ってるんだけど、使う?」
とちゃんと気遣って聞いてくる。
選択は私に委ねられた。
いつもならこだわりもあり大好きな洗剤を変えたくはないので断っていただろう。
だけどこの苦しい時期に自分のテンションが上がることやこだわりに縛られすぎると、何も変わらないのではと思った。
優先すべきことは生活。
たまには崩してみるのもいいかもしれない。
「洗剤こだわりないよ!」
「行き先に困ってるなら、使いたい!」
そう答えて普段使わない洗濯洗剤をいただいた。
柔軟剤はなくなってしまったので、買わずに洗濯洗剤のみで洗濯を済ませるようになった。
意外と問題ないな!と思ったのも束の間、使用して3日ほど過ぎた時に異変を感じた。
ふとした瞬間に、部屋の中にいても自分の部屋じゃない感覚。
「この匂いは何だろう?」
と、洗濯洗剤の香りだと気付くまでに時間がかかる。
いつもと違う匂いが充満する部屋にいると少し気分が悪くなり、廊下に出たい衝動に駆られた。
洗剤の香り自体が悪いわけでは決してない。
ただいつもの私の好きな匂いではないこと、私に合う香りではなかったということだ。
一目惚れならぬ、一鼻惚れという言葉を使いたくなるくらい惚れた香り。
数年もの間ずっとかいでいるのに、いつも「大好きだな」「いい匂いだな」と幸せを感じた香りは、私にはなくてはならないものだった。
私が幸せでいられるアイテムのひとつだったのだ。
節約=こだわりを捨てることも必要だと思っていたし、何かを妥協しないと節約なんてできないと思っていた。
だけど節約は楽しむことも大事。
せめて自分を好きな香りの空間に置いておきたい。
そんな甘いとも言われそうな言い訳をしながら、私は再びネットで大好きな洗剤と柔軟剤を購入するのだ。