見出し画像

【ショートショート】二重人格メガネ

自宅のリビングで、僕はそのメガネをかけようとしていた。


手が震える・・果たして何が見えるのだろうか。


リビングから見えるキッチンでは、妻が夕飯の準備をしていた。


以前から、気づいていた。


妻が時々、フッと暗い表情になり、自分の世界に入りんでしまうこと。


もう1人の妻がいることを、僕は感じ取っていた。


カラダはただの入れ物にすぎず、オモテに出てこないもう1人の自分がいるという。


そのもう1人を見ることができるメガネ。


僕は妻に気付かれないように、メガネをかけた。


レンズ越しの妻は、子どもの姿だった。泣いていた。


「お願い・・怒鳴らないで、ぶたないで・・。いい子にするから・・」


僕はハッと気付いた。亡くなった妻の父は、すごく厳しくて時には手を上げられたと聞いていたから。


本当は、ずっと苦しめられてたんだ・・。


僕は、キッチンにいる妻を後ろからそっと抱きしめた。


気付かなくてごめん・・。


これからは僕が、君をずっと大切にしていくから。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?