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墨の音

この町に古くから息づく墨の工房を訪ねたとき
それまでに知っていたことは
知ってるつもりなだけだった、と知りました

丁寧な手作業で集められた煤(すす)と
温められた膠(にかわ)が練られてできた
まだカタチのとどまらない黒の塊を
やわらかく手のうえに乗せられて
そのなま温かいのを感じながら
いきもののような墨をにぎりました

黒くて固い墨が
硯の上で音をたて
水のなかにその姿をあらわし
紙に放たれるとき

静かでもそこにある墨の音を
見とどけたいと思う

書いても
描いても
愛おしい、
墨の音

二〇二三年 五月     奥 田 美 穂

***


奈良での個展、初日を無事に迎えることができました。

どきどきで迎えた初日のどの時もが、これからの糧にさせていただける、私にはもったいないお言葉やお気持ちにあふれていました。
今月はいつもの句会に参加できなかったのですが、観に来てくださった方が「墨の音」をお題に庭で俳句をひとひねり、筆で書いてくださるひと幕もありました。

好きな言葉を書いたものを
私の想いが通じて、というよりも
その方々の想いでその言葉を感じてくださり
私の手元をはなれた後でも
その言葉やイメージをご一緒できることは
本当にしあわせなことです


最近描いた蓮の花にいただいた言葉は
自分でも気がついていないことで
まだまだなのだけれど
やってきてよかったと心からやっと思えました

初日は母と一緒に花を生けました
最終日まで楽しみながら進みたいです


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