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Doors

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短編小説「Doors」
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2021年1月の記事一覧

Doors 第8章 〜 ハコの中

Doors 第8章 〜 ハコの中

 そのハコは輝きを放っていたからすぐに見つけられた.いや,別に探していた訳ではなくて,自然と目に飛び込んできた.小さめのハコで子供でも持ち運べるくらいのサイズだった.僕はそのハコの何かに惹かれた.よく見てみると側面に穴が空いていた.持ち運ぶ時に指を入れる穴だった.
 僕はその穴の中から中を覗いた.そこにはずっと欲しがっていた理想の世界が広がっていた.出会うはずのない世界が,行ってはいけない世界が.

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Doors 第7章 〜 音楽

Doors 第7章 〜 音楽

 中学生時代は楽器演奏にハマった.それまでは扉の外から見るだけの世界だった.それが,演奏するということは,実際にその世界を自分自身で自由に歩くということに他ならない.
 扉を開ければ見たことない美しい景色と常識.新鮮そのものだった.近づくと消えてなくなる木,かと思えば自分の背後に突然現れたり.時には腹立たしくも思うことはあるが,その鬼ごっこは本当に楽しくて気がつくと夢中になっていった.全ての存在が

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Doors 第6章 〜 カマキリ

Doors 第6章 〜 カマキリ

 毎日毎日"渦"に悩まされていた僕の一番の友達はカマキリだった.人から出る渦の情報に溺れていたので,物静かな昆虫と触れ合うのはとても楽だった.何匹も飼ったけど,忘れられないヤツが一匹いる.仮に名前をKとしよう.
Kとの出会いは特別なものではなかった.ただ,Kは他のどのカマキリにもなかった特徴があった.それは,信頼という概念を持っていたことだ.普通のカマキリは虫カゴに入れると脱走しようと必死に

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Doors 第5章 〜 いじめ

Doors 第5章 〜 いじめ

 それはある日突然始まった.内容自体はつまらないものだった.無視や仲間はずれ,鬼ごっこでの集中攻撃などその程度のことで,直接危害を加えられたりとかはされた覚えがない.辛くもあったがどこか他人事のようにも思え,その非日常感を楽しむ自分もまた存在していた.
 連中同士は決められた合図を送っていたが,合図とともに"渦"が出ていたのですぐに分かった.その度に合図を変えていたけどその都度見抜いていた.気づい

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Doors 第4章 〜 Joker

Doors 第4章 〜 Joker

 何故みんなと少しだけ違っているだけなのにこんなに邪険にされるんだろう.それがババ抜きを嫌いな理由の一つだ.ただのカード揃えなのにjokerを避けるのにとても興奮している.僕はその光景がいじめのそれのようでとても異様に感じたし,悲しく苦くもあった.
 勝利のために平然と嘘をつき子供を騙して精神的にズタボロに殴りつける.勝利とは人を蹴落として掴むものではなく,自らの脚力で飛び上がるものだと考えていた

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Doors 第3章 〜 心の扉2

Doors 第3章 〜 心の扉2

 ある日,その扉の横にまた別の扉があることに気づいた.もちろん僕は迷わずその扉を開けた.中は倉庫のようで,荷物が散乱していた.そのほとんどが見たこともないよく分からないものだった.それが部屋中にゴミのように詰め込まれていた.でも僕はそのゴミが宝物のように思えた.それから僕は毎日のように倉庫に来ては埃に塗れたゴミを漁っていた.
 漁っていて気づいたことがある.そのゴミたちはこの世界の真理であると.何

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Doors 第2章 〜 心の扉1

Doors 第2章 〜 心の扉1

 心の中の奥の方にその扉はある.自分だけが知っている,自分だけが開けることのできる扉が.その扉の存在は記憶の前から知っていた.
 扉の向こうには一人の少女が座っている.ブロンズの長い髪は少し癖がついていて,白いドレスを身に纏った少女が小さな薄汚れた窓もない部屋で一人体育座りをしている.少女はいつもどこか寂しげで何も話さない.名前を聞いても俯いたまま.ほとんど動くこともない.ただ時折り顔を上げるだけ

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Doors 第1章 〜 懐疑

Doors 第1章 〜 懐疑

 この世界は不思議で溢れかえっている.だからこそ飽きないでいられるのだろう.神のように全てのことが思い通りになる世界なんて1日と持たずに興味がなくなるものなのかもしれない.そういう意味では全知全能とは拷問のようなものなのかも.
 僕らは毎日毎日色々な扉を開けて進んでいる.頑丈で重い鉄の扉を.もちろんその扉を開けるまで先のことは分からない.その鉄の扉がガラスのようなものでできていて,開ける前から先が

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