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Dead Head #63_160

 古びた石柱が並んだ、その地面の下に。石柱にたむけられた新しい花束の横。そこに摘んできた花を供える。俺は膝を曲げ、心の中で唱える。
 目を閉じる。あの時の情景が浮かんでくる。曲がったホームに滑り込んでいく列車。ホームの先頭にまばらな人影。あの少年の姿が次第に大ききなっていく。サングラス、野球のユニフォーム、そして白い杖。木がなぎ倒されるように少年がホームに倒れ込む。俺はブレーキを踏む。車輪とレールの金属音。何かを踏み越えるような軽い振動。列車は定位置に止まる。線路脇に目が移る。流転禁止の標示。俺はブレーキを確かめる。隣のホーム。列車が動きだしている。DEADHEADの標識灯。それが小さくなるのを目で追う。車掌室からのブザー。我に戻る。窓を叩く音。駅務員が何かを叫んでいる。窓から首を伸ばしホームの後ろを見る。ホームの客達は、車両の下を恐々覗き込んでいる。


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