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未来思考スイッチ#04 「無くなったもの」と「生まれてくるもの」で整理する

前回の『未来思考スイッチ』では、家族像の変化を考えてみました。今回は、その流れを参考に、家事の変化について見ていきましょう。

無くなっていった家事。

過去を振り返ると、「無くなっていった家事」があることに気づきます。例えば「裁縫」。昔は、着古しの浴衣を子どものおむつに縫い直したり、余った布で雑巾をこしらえたり、着物には「半襟(はんえり)」を縫い付けて長持ちさせるなど、家庭では日常的に「裁縫」が行われていました。「かけつぎ」といって、布目を細くすくい縫うことで、服の穴を目立たないように修繕するハイレベルな裁縫ができる家庭もありました。私には大家族のおばあさん、お母さんのイメージが浮かびます。

そんな「裁縫」。昨今では、ファストファッションの浸透で、服に穴が開けば修繕するより買い替えた方が手軽です。一般の家庭でなされるのは、ボタン付けくらいでしょう。もちろん、趣味で裁縫をされる方もいると思いますが、一般的な家庭からは「無くなっていった家事」と言えるでしょう。

その他、「着物の着付け」、「近所ぐるみの大掃除」、「魚をさばく」、「餅つき」、「風呂焚き、薪割り」も一般家庭では無くなっていったものと言ってもいいでしょう。高度経済成長と共に、社会では分業化が進みましたので、「着付けをする人」、「大掃除をする人」、「魚をさばく人」、「餅をつく人」は家庭から社会へ出て行ってしまいました。更にその人が担っていた機能は、工場のように機械化されていきました。このような振り返りをすると、産業の変化、価値観の変化がわかりやすく理解できると思います。

無くならない家事。

一方、今でも続いている「無くならない家事」もあるはずです。「掃除」、「洗濯」は家電が進化しても、普通に家庭で行われています。中食やお惣菜など、便利な食品は増えても、「調理」はまだ家事の中心です。オンラインショッピングで「買い物」の形は随分変わりましたが、「買い物」そのものは増えている行為です。その他、「育児」、「住宅の保全」、「布団干し」、「ゴミ出し」なども、「無くならない家事」の代表ではないでしょうか。

これらの例は、あくまでも私の見方です。町ぐるみで「大掃除をする」、「餅つきをする」といったコミュニティが残っている地域もきっとあるでしょう。個々人でいろんな解釈があって構わないと思います。ここで注目してほしいのは、未来を考えていくために、「無くなっていった家事」と「無くならない家事」の2軸で整理をしていくと、変化が「見える化」できるという点です。

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それではこの先、どのような変化が生まれてきているのか、一緒に考えていきましょう。

新しい家事 ~クリエイティブワーク~。

新たに「生まれてきた家事」を考えていくと、2つの視点で整理ができそうです。一つ目は、ワクワクしてくる家事、「クリエイティブワーク」です。

例えば、「ガーデニング」や「家庭菜園」。植物に触れ、育てていくことにはセラピー効果があるとされています。自然の緑を見ると脳内にアルファ波が出て、心拍や血圧を安定させるためです。花や葉、土のにおいをは嗅覚を刺激し、精神安定につながります。水やりや剪定は定期的に必要ですが、「ガーデニング」や「家庭菜園」はやりたくない家事ではなく、やりたい家事に位置付けられるのではないでしょうか。

「インテリアコーディネート」もやりたい家事のひとつ。季節を感じる工夫を行うなど、自分らしく空間を飾ることは素敵なことです。在宅勤務や在宅学習が一気に浸透したことで、自分空間を見直し、快適性や働きやすさを高めていくための「インテリアコーディネート」の関心は増々高まっていくでしょう。

男性に増えている「趣味的な調理」。毎日はやらないけれど、週末に集中して楽しむこだわりの調理は義務的な家事ではなく、気分をリフレッシュする家事です。私もスパイスカレーにはこだわりがあり、スパイスの配合を変えながら、毎週末はカレーを作ります。

「フリーマーケットやオークション」も浸透してきました。出品による高揚感、購入者/落札者とのコミュニケーションなど、もったいない精神やリサイクル効果だけでは言い表せない人間味あふれる体験が含まれていますよね。

新しい家事、「クリエイティブワーク」は、やりたい、上達したいという気持ちがベースとなることで、「家事でもあるが趣味でもある」という特長がありそうです。

増えた家事 ~ハイスキルワーク~。

一方、「生まれてきた家事」の中で、やらなければならない家事として位置づけられるものを考えてみましょう。

例えば、「資産運用」。富裕者だけでなく、今ではあらゆる人にとって、将来設計のための「資産運用」は不可欠になっています。「もらえる年金が減りそうだ」、「老後の不足分をまかなう貯蓄を考えるべきだ」、「不労所得を持つべきだ」など、様々な対策が叫ばれるようになり、NISA(少額投資非課税制度)や iDeCo(個人型確定拠出年金)など、優遇制度の誕生も手伝って、運用責任が重く個人にのしかかる時代になったのです。まさに、「資産運用」は新しい家事であり、「ハイスキルワーク」と言ってもいいでしょう。同様に、難しい判断、厳しい判断を求められる「子どもの見守り」や「子どもの教育・進路」も悩みが尽きない「ハイスキルワーク」です。

また、スマートフォンを含むデジタルカメラが浸透したことで、私たちは膨大な写真を撮影するようになり、そのデータの管理も悩ましいものです。カメラがフィルムだった頃、フィルム代、現像代、焼き増し代など、写真を「撮る/プリントする」にはお金がかかりました。たくさん撮れば、その分のプリント代がかさむので、撮影枚数を気にしていたのです。ところが、カメラがデジタルに変わり、メモリーの容量が許す限り、何枚撮影しても無料になったことが、写真データの膨大化に拍車をかけました。皆さんはこれからも溜まり続ける家族写真、個人写真をどのように管理していくのでしょうか。

その他、家族別の健康管理、食事管理、医療、介護など、悩みの種はまだまだありそうです。「専門的で難しい」、「できれば誰かに任せたい」、「一人では無理だから助けてほしい」という気持ちにさせてしまう「ハイスキルワーク」は、今後の新たな家事サービスの潮流になるかもしれません。

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このように、「無くなってきた家事」の流れの先にある2つの「生まれてきた家事」を見てきました。次は、もう一方の「無くならない家事」のその先に視点を変えていきましょう。

家事の価値見直し ~ヒューマンワーク~。

「無くならない家事」も「やりたい」と「やりたくない」の2つで整理を試みます。まずは「無くならないけど、やりたいものに変化した家事」です。

「洗濯」や「掃除」を義務ではなく、気分転換に役立てることをイメージしてみてください。ストレスが溜まっている時や嫌なことが続いた時に、「洗濯」や「掃除」をすることで、スッキリした気分になったことはありませんか。これは、身の回りを整理することで、抱えている悩みまで片づけているような気持になったり、片付いた衣類や部屋を見ることで達成感を感じたりするためです。それに、「洗濯」や「掃除」の時間は無心になりやすく、瞑想に近い状態となり、頭の中までスッキリした状態になれることも効能と言えるでしょう。それに、「洗濯」や「掃除」は適度な運動にもなりますよね。

今では定期的に身の周りを「断捨離」する方も増えたと思います。余分なものを捨て、必要なものだけを残し、ミニマルな暮らしを行うと、心に余裕が生まれます。豊かな時間や空間を感じることができる生活の知恵と言ってもいいでしょう。

「ペットの世話と散歩」も同様です。米国疾病管理予防センター(CDC)によると、動物を飼うことは、「運動や外出して社会交流を行う機会が増える」などの健康以上の効果があるそうです。米国では約68%の家庭で1匹以上のペットを飼っているというから驚きです。健康、癒し、気分転換、社会活動の促進といったメリットを「ペットの世話と散歩」という家事は持っているという見方ができそうですね。

スーパーマーケットやショッピングセンターでの買い物も、自ら積極的に情報探索を行い、新しい発見や出会いを求めていくようであれば、これは「やりたい家事」と言ってもいいでしょう。また、一つのモノを大切に長く愛着を持って使い続けることや環境に優しいと感じることを意識していくことも、家事を楽しむ、暮らしを楽しむ、「ヒューマンワーク」としての家事と捉えていいでしょう。

簡易化したい家事 ~ベーシックワーク~。

もちろん、「無くならない家事」で今後も「あまりやりたくない」、「できれば簡単にしたい」といった家事はたくさんあります。この分野は、技術の進展とともに、家電製品が様々なソリューションを提供してきた領域で、人間が行う労働を機械が代わりにやってきたと言っても過言ではありません。

「毎日の洗濯・掃除」では、効率性や使いやすさの向上、省エネ効果が進んできました。「毎日の買い物」の負担を減らすために、まとめ買いした食材をしっかり保存する技術(冷蔵庫)、あらかじめ食材を下準備し、忙しい平日にさっと調理できる技術(クッカーや電子レンジ)なども充実しています。フィルターを自動で掃除するエアコンや庫内をクリーンに保つ電子レンジなども登場していますし、ネットワークに接続することで、家電のアプリが自動でアップデートし、常に最新の状態になる「機器・設備のメンテナンス技術」も進化しています。

家族の健康を考えた「個人ごとの調理」、自治体のルールに則った「ゴミの分別」なども無くならない「ベーシックワーク」と言えそうです。今後も簡易化したいというニーズがありそうなテーマですね。

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「家の事」を「くらし経営」と呼んでみよう。

「無くなっていったもの」と「生まれてきたもの」の視点で、これまでの家事を見てきましたが、皆さんの家事に対するイメージと比べてみて、何か発見はありましたか。

私が、「資産運用」を家事に位置付けたり、「断捨離」を家事として定義し直したりしたのは、時代とともに家事が複雑化し、判断に迷うことも多く、個人ではまかなえないテーマが増えてきているためでした。「家の事」だけど、それはまるで「くらしそのものを経営している」ような気がしてくるのです。

「くらし経営」と言うと、ちょっと大げさな気がするかもしれませんね。でも、「一人ひとりがくらしのコンセプトを決め、自ら体制を整えながら、目的(生きがい)を達成するよう継続的に行動する」ことこそがこれからの「家の事」であり、その支援のために家電や社会サービスは、課題解決の有効な手段となるよう進化していくと思うのです。

未来思考にスイッチを入れるために、皆さんなりに「家事」の定義を考えてみてください。

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