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理学療法士として"チームで働く"ということ

相変わらずの不定期投稿をしております、プロ野球現場で働く理学療法士の渡邉です。
今年もあと数日で終わろうとしておりますが、早いもので私も現在のチームに所属してから早5年が経とうとしています。
今回は、これまでの約5年間を振り返り、「病院で働く理学療法士」から「現場で働く理学療法士」となった私が感じる、病院と現場とのギャップや、『理学療法士としてチームで働く』ことの意義、チームで働くことのメリットと気をつけなければいけないこと、など少しこれまでの経緯等も含めながら書いていこうと思います。
#今回はノウハウというより個人的な日記に近いかもしれません
#あくまで個人的な感想と考えをいうことをご理解ください


①病院の理学療法士から現場へ〜病院と現場とのギャップ〜

私は2016年の3月に大学を卒業し、その年の4月から理学療法士として働き始めました。
卒業後に就職したのは都内にある整形外科クリニックでした。スポーツ整形と謳ってはいたものの、来院されるのはその地域の高齢者の方や会社員、主婦の方々など。スポーツをやっている学生も夕方や休日には来るもののアマチュアレベル、といったよくあるクリニックでした。
そんなクリニックに勤める、いち理学療法士でしたが、ご縁とタイミングが重なり2019年に現在のチームに入団することとなりました。

学生時代からの目標であった環境に入ることとなり、未来へのワクワク感と不安が入り混じる感情を抱きながら仕事を始めるわけですが、そんな私を待っていたのは楽しさ以上に病院時代との働き方の"ギャップ"による大変さでした。

具体的には、、、
・リハビリのスケジュール作成・・・ゲーム復帰日の設定の仕方がわからない
・トレーニング強度の違い・・・病院レベルとははるかに違う負荷設定
・タイムスケジュールの違い・・・同時に複数の選手に指示を出す
・選手とのコミュニケーション・・・病院に来る患者さんとはキャラクターが違いすぎる
・トレーナー間のコミュニケーション・・・知識ベースが違う他業種との会話
・監督・コーチとのコミュニケーション・・・球数、本数、ゲーム出場の相談など
・スタッフとコミュニケーション・・・リハビリで使う用具や場所の確認や連絡
など
挙げ始めればキリがありません。笑
この辺りの内容については、これまでの記事でも触れていたりしますので、過去の記事も見ていただけたらと思います。


②チームでの理学療法士の役割・意義

そんな病院と現場とのギャップを感じながら、はじめのころは「理学療法士として」というよりは、「いちトレーナーとして」の仕事を全うするのに必死でした。
#まずは理学療法士である前にトレーナーであれ

ただ、最近になってようやくチームにおける『理学療法士の役割・意義』みたいなものが少しずつ見えてきたような気がしているので書いてみました。
#まだまだ課題だらけですが

現在、チームでは、
✅年3回のフィジカルチェック
✅若手選手の定期的なモニタリング
✅体幹コンディショニング(今年はマンパワー不足でできなかった)

といった取り組みを理学療法士が中心となり実施しています。

取り組みの詳細については、また別の機会にしますが、
これらの取り組みを定期的に実施してきたことで、初めの頃は気がつくことが出来なかった、ケガをしてしまう選手の身体的特徴や数値の変化の傾向などが見えてきました。

ケガをする前に気がつくことができなかった選手たちには、本当に申し訳ない気持ちはありますが、これから関わる同じような傾向にあるような選手のケガを少しでも防いでいくことがチームまたは野球界への貢献になると考えています。
このような身体機能とケガとの関連性を見出すことは、チームで理学療法士が働くことの意義であると考えています。

また、上記のような定期的なチェックだけではなく、普段の治療やトレーニング場面において選手の動きを評価して、ケガが起きる前に防ぐことができるというのも理学療法士がチームに貢献できる部分であるとも考えています。
上記のようなチェックは、一定の期間で定期的に行うことを目的としているため、多くの選手に対して実施できたり、これまでの選手との比較を行うことには長けていますが、検査項目がある程度決められてしまったり、細かい動作の質的な部分を見ることはしづらいというデメリットもあります。

そのため、本来、理学療法士が得意とする一対一の治療やトレーニング場面においては、より細かい評価と原因の分析、アプローチを行えることは理学療法士としての力を発揮できる部分ではないかと思います。
実際の選手からの声としても、「マッサージだけでは治らない」「痛みのある部位、張りがある部分に対する治療だけでは良くならない」というケースもあります。
そんな時には、患部以外の機能を改善することによって症状が軽減するケースもたくさんあるため、このようなケースは特に理学療法士としての能力が求められる部分ではないでしょうか。
#他職種を否定しているわけではありません
#得意分野の違いということです
#私も自分では解決できない問題には他業種の方の力を借りることは多々あります


③チームで働くことのメリット

チームで働くことのメリットは、何と言っても「自分以外の専門家の力を借りられる」ことであると考えています。
以前の投稿の中でも書いたように、ゲーム復帰に至るプロセスの中には、多くの専門家が関与します。

リハビリを進めていく中で、1人の力だけではうまくいかないことはたくさんあります。
特に現場では、選手と関わる部分は治療だけに限らず、グラウンドレベルでのW-upからランニング、ドリル、キャッチボール相手、バッティングの補助、時にはノック、ウエイトトレーニング、、、など多岐にわたります。
これらを自分1人でこなそうとするとかなり大変です。💦
常にマンツーマンで選手につければ良いですが、担当の選手が複数人いる場合には難しいです。
その場合には、他のトレーナーに依頼したり、時にはコーチに見てもらうこともあります。すると、練習後のフィードバックの中で、自分では見れていなかった動きの部分や技術的な部分を依頼した人から教えてもらえることも多々あります。

これは治療でも同様で、色んな方法を試すがやはり上手くいかない、、、といったケースもあります。
徒手で時間をかけてやったのにあまり効果がない、、、だけど鍼をしたら一発でよくなった、、、みたいなケースもあります。

先ほどもお伝えしたとおり、理学療法士は「一対一のアプローチ」を得意としていて、特に病院で長く経験されているほどその傾向が強いように感じています。
#病院の働き方を否定しているわけではありません
#環境によって求められる働き方が異なるということです
#自分自身もその傾向がありました

このことは、理学療法士の強みでありますが、一方でそこに固執しすぎると「全て自分がやらなくては」と思ってしまい、他の人に依頼をするということが遅れてしまうことがあります。
プライドと責任感を持つことは大事ですが、本当に選手のことを考えるのであれば、他の人の力を借りてでも『選手にとって最適な方法を見出す』ことが優先されるべきです。
#個人的にはとても悔しいですが
#今の自分には技術が足りないということを受け入れる

現場で働く中で、理学療法士が得意な部分、他の職種の人が得意な部分があります。チームで働くことのメリットは、そのような各々の得意・不得意を理解した上で選手にとって最適な方法を見つけることができる、共に学ぶことができるというのがメリットではないかなと感じています。


④チームとして働くための「人」としての立ち振る舞い

これまでも理学療法士の強みは「一対一のアプローチ」を得意としている、と話してきました。
しかしながら、チームで働く上では常に選手とマンツーマンで対応できるとは限りません。なので、自分ができないことは他のトレーナーにサポートしてもらうことも必要になってきます。
先ほどの例のように、自分で行なっている治療がうまくいかないのなら、早い段階で他の治療の選択肢を考えて他のトレーナーの得意とする治療をお願いする、グラウンドレベルでのトレーニング指導が苦手ならSCのトレーナーにお願いする、技術面の課題があるのなら技術コーチにお願いする、予定していた時期より組織の回復が遅いのであればドクターに診察をお願いする、、、といった判断をしていくことが大切です。
この判断が早ければ早いほど、選手のためになります。

ただ、この時に単に「あとは任せた!」とお願いすればいい、ということではありません。
他のトレーナーもそれぞれの業務があり、タイムスケジュールも異なります。なので、急に「この後、○○選手のトレーニング見ておいて」と言われてもすぐに対応できないことも多々あります。また、それまでのリハビリの経緯を知らないのに、どこまでの負荷でどのくらいの量やって良いのかもわかりませんよね。

なので、他の人に仕事を依頼する時には、以下のポイントを事前に伝えておく必要があります。

・タイミング:いつ、どこで
・内容:何を(キャッチボールを)、どのくらい(30mで50球)
・目的:今の時期は距離、出力より球数を投げることを目的としている
・注意点:つい離れすぎてしまうから、距離を測って実施してほしい
・これまでの経緯:初めての実施なのか、すでに何回か行なっているのかなど

このくらいは、最低限でも伝えておくと良いかと思います。
「当たり前でしょ」と思うかもしれませんが、意外とできなかったり、
伝えるのが面倒になってしまい「自分でやった方が早い」となり結局、バタバタしてしまったり、、、ということもあります。

また、これはなんとも表現が難しいですが、お願いする相手との普段からの信頼関係も大切です。
もちろん、仕事なので出来るのなら相手にお願いを引き受けてほしいわけですが、、、
例えば、自分が普段、他の人からのお願いを断って自分のやりたいことだけやっていたらどうでしょう??
いざ自分が困った時だけ助けを求めて、相手は快く受け入れてくれるでしょうか。

トレーナーも、選手も、コーチも人間です。
同じお願いをしてもその人との信頼関係の程度によって、相手の対応は変わります。
信頼関係はその場で見繕っても無駄で、日頃からの積み重ねからでしか得られません。
日頃からの挨拶から言葉遣い、姿勢、態度、相手へ貢献する行動ができているかなど、自分自身の行動の積み重ねが「信頼」となり、困った時には力をもらえるようになります。
それが結果的には選手のためになるため、自分自身がチーム内でコミュニケーションが取れないということは、「選手にとっての不利益である」ともいうことができるので、気をつけたいところです。(自分に言い聞かせています)


⑤集団の特性を理解し注意すること(自戒の念を込めて)

少し長くなりましたが、最後に「集団であるからこそ気をつけなければいけないこと」をお話しようと思います。

たった今、「相手に依頼することの重要性」を示し、チームであることのメリットを話したばかりですが、、、
一方で、チーム(集団)で働いていると責任の所在が曖昧になってしまうことがあります。
これはスポーツ現場に限らず、多くの人が関わるような一般の会社等でもあることではないでしょうか。
そんな時に大切なのは、「自責思考を持つこと」だと考えています。

自責思考とは、他責思考の反対で、
「何か問題が起きたときに、他者ではなく自分に非があるとする考え方」

チームでは1人の選手に対して、多くの人が関わることになります。そのため、色んな人の力を合わせることができる利点もあれば、何かエラーが起きた際にどこに問題があったのかが不明確になりやすい、という欠点もあります。
ただその際に、責任は誰にあるのか?と犯人探しをするのではなく、「自分が行ったことは合っていたのか?他の方法はなかったのか?」と自問自答して、エラーに対する解決策を見つけていくことが大切だと考えています。

また、チーム(集団)に限ったことではありませんが、エラーが起きる原因の一つには「ヒューマンエラー」が関わってきます。そして、それは集団においては認知の歪みとともに、大きな力を持って非合理な判断をしてしまうこともあります。

少し聞き慣れない言葉が出てきますが、社会心理学者のアーヴィング・ジャニスによって提唱されたもので、「グループ・シンク(集団浅慮)」というものがあります。

グループ・シンク(集団浅慮)とは、集団で合意形成をすることによって、かえって不合理な結論や行動を引き出してしまうこと。

グループ・シンクの問題と徴候としては、
☑️手持ちの情報から都合のよいものを取り上げる
☑️情報収集が乏しくなる
☑️他の選択肢を十分に検討しない
といったものがあります。

そしてグループ・シンクが起こりやすい集団の特徴としては、
◉集団の実力の過大評価
◉集団独自の道徳の押し付け
◉外部の意見に対する冷淡な反応
◉主流となる異なる意見に対する自己検閲
◉満場一致を求めるプレッシャー
◉疑問を口にすることへの自己検閲
◉反対意見への圧力
◉集団の合意を覆す情報からの自己防衛
などがあるとされています。

つまり、チーム(集団)で働く際に気をつけなければならないのが、「集団の力を発揮することで選手に貢献することができる」というメリット享受しながら、「責任の所在が曖昧だ」「いつの間にかやっていることが固定化してきた」という状態にならないようにしなければいけないということです。

また、そういう状況に気づいた時に、「みんなが言っているから間違いないだろう」とか、「反対意見が言いづらいな、、、」といった状態にならないように注意しなければいけません。

だからこそ、常に自責思考を持ち、自分自身がやっていることに対する批判的な思考を持っておくこと、メタ認知(自分の認知していることを客観的に把握すること)を高めておくことは大切だなと感じます。


⑥まとめ

最後は少し「集団とは」という概念的な話になってしまいましたが、
自分自身が現在のチームで5年間働いてきた中で、「集団として働くことのメリット」を享受するためには、ある意味、集団に順応することも重要であると感じる一方で、「集団だからこそ陥りやすいエラー」があると思う部分もあり、それは従属的すぎると意見が言えなくなってしまう、という状態になりやすいと感じる部分もあったので、今回は5年間の節目としてまとめてみました。

理学療法士という仕事は、スポーツ現場において強みが生かせる部分があると考えています。
ただ、チームで働く中では「理学療法士」である前に「1人のトレーナー」であり、さらにその前に「1人の人である」ということを忘れずに、組織の一員であるという認識を持って、自分の得意なこと、やりたいことだけでなくチームのため、他の人のために動くことが、巡り巡って自分が困った時に助けてもらえることにつながります。
チーム(集団)で働くことで自分以外の人たちの意見を聞き、協力を得ることによって選手のサポートをしていく姿勢を持ちながら、一方で、常にチーム(集団)として正しい方向へ進んでいるか?と俯瞰しながら全体を見て、間違っていると感じた時には意見ができるような関係性を日頃から構築しておくことが大切かなと感じております。
#自分で書きながら自分に言い聞かせています
#反省しまくりです

現在、スポーツ現場で働かれている方、これからスポーツ現場で働きたいと考えている方は、「知識・技術」の研鑽はもちろんのこと、今回のようなチーム(集団)の中での立ち振る舞い、関係性作りという点も普段から意識してみると、よりチーム、選手に貢献できる働き方ができるのではないかなと感じています。
少しでも読んでいただいた方々の参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました!
以上、渡邉でした。

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