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インボイス制度がもたらすもの(その2)

暑い日が続きます。9月末に次のトライアスロン大会(千葉シティトライアスロン大会)を予定しており、それに向けてトレーニングを積まなければならないのですが、この暑さにはかなり苦戦中です。

さて、税理士の先生方との議論を通じ見えてきたこと、インボイス制度が何をもたらすのかについての前回からの続き(2回目/全3回予定)です。

インボイス制度がもたらすもの

前回は、これまでの法人税ファースト、すなわち、まず法人税ありき/消費税はついで、ではなく、まず消費税ありき/もちろん法人税も、となる消費税ファーストへと考えを変えるべきなのではないかとお話ししました。しかし変わるのはそれだけではありません。

2. 帳簿ファーストから証憑ファーストへ

これまでの会計の世界は、帳簿を中心に回っていました。帳簿をいかに正確に、効率的に付けるか。領収書や請求書などの証憑(しょうひょう)は、重要でないとは言いませんが、あくまでも帳簿を付けるための材料に過ぎませんでした。帳簿さえ付けてしまば、後は段ボール箱にガサっと入れておけばいい。税務調査など、必要な時に取り出せればいい、という位置付けでした。実務上は、証憑がなくとも、支出の事実が合理的に認められれば何とかなることが大半でした。実際問題として、クレジットカードの利用控や利用明細書が支出の事実を合理的に示すものとして、法的な証憑である領収書の代わりとして通用してきました。しかしこれはあくまでも法人税の話。消費税の世界ではこれまでも帳簿だけでなく請求書等の保存が求められてきました。もっとも実務上は結構緩やかな運用が認められてきたのも事実ですが、それが変わりつつある、そしてインボイス制度で決定的に変わるというのは前回お話しした通りです。

インボイス制度では、帳簿に記載があったとしても、その基となった適格請求書等が保存されていなければ、その瞬間に仕入税額控除が認められなくなります。それは0/1の判断であり、中間解や落とし所はありません。こうなると、帳簿ファーストという考え方から、証憑ファーストという考え方に変わる必要があります。まずしっかりと領収書や請求書等の証憑を保存・管理する。帳簿付けの必要性がなくなるわけではありませんが、証憑をしっかり管理していれば、帳簿はそれらを基に自動的に付いていく、と変わっていく。

率直に言って、これは会計ソフトにとっても大きな考え方の転換です。私がこの3月まで代表を務めてきた弥生株式会社は過去30年以上にわたって会計ソフトを開発してきましたが、会計ソフトといえば、その中核は仕訳日記帳であり総勘定元帳、要は帳簿です。帳簿をいかに正確に、効率的に付けるか、そのための努力の積み重ねが今の弥生会計(デスクトップもクラウドも)です。つまり弥生こそ帳簿ファーストの世界の申し子と言えます。しかしこれからは、帳簿ファーストの世界から証憑ファーストの世界へ。もうお気付きかもしれませんが、昨年リリースしたスマート証憑管理は弥生会計が証憑ファーストに自己変革するための中核となる存在です。

証憑ファーストは会計ソフトにとってもチャレンジですが、やはり帳簿ファーストの世界に生きてきた会計事務所にとっても大きなチャレンジです。証憑ファーストの世界では、そもそもこれまでほとんど接してきたことのない証憑もしっかり管理しなくてはなりません。例えば、納品書。会計事務所では、請求書は普通に接しますが、納品書は普段ほとんど見ることはありません。請求書さえあれば基本的に帳簿は付けられるからです。しかし、インボイス制度が始まるとそうはいきません。

日本では月締請求書が一般的であり、納品書に加えて、(月締)請求書がやり取りされますが、実はこの納品書&(月締)請求書という組合せにはよく見ると二つのパターンがあります。一つ目のパターンは、納品書上で消費税額の計算を行っており、月締請求書ではそれを足し上げているパターン。二つ目のパターンは、納品書上では納品物を記載しているだけで消費税額は計算しておらず、月締請求書で税率ごとの対象額を足し上げ、そこで初めて消費税額を計算しているというパターン。インボイス制度においては、消費税額の端数処理は税率ごとに1回のみと定められていることから、前者のパターンの場合には、消費税額を計算している納品書こそが適格請求書に該当することになります。この場合は、(月締)請求書と呼ばれるものは、(消費税法上は)単なるメモに過ぎません。これに対し後者のパターンの場合には、(月締)請求書で初めて消費税額の計算をしており、そこで端数処理が1回のみ発生していますから、(月締)請求書こそが適格請求書に該当することになります(念のためですが、納品書と請求書のそれぞれの目的を踏まえると、後者のパターンが本来あるべき姿であることは言うまでもありません)。

仮に前者のパターンであるにも関わらず、(月締)請求書を適格請求書と誤認し、(月締)請求書のみを保存、納品書を廃棄してしまっていた事業者に税務調査が入り、納品書こそが適格請求書であり、保存すべきは納品書であると指摘を受けた場合、それはすなわち廃棄してしまった納品書分の仕入税額控除が否認されることになりますから、大変なことになります。仕入税額控除の否認が事業者(顧問先)の責任なのか、会計事務所の責任なのか、責任の押し付け合いになりかねませんし、結果的に税理士賠償責任を問われかねません(ちなみに現時点においても、税理士賠償責任をカバーするための税理士職業賠償責任保険において保険金支払事故が一番多いのは消費税です)。

このように帳簿ファーストから証憑ファーストへの転換は、会計ソフトにとっても会計事務所にとっても大きなチャレンジになります。一方で、事業者にとっては、この帳簿ファーストから証憑ファーストへの転換は実は良いことなのではないかと考えています。

多くの事業者にとって、帳簿を付けることは結構なチャレンジです。なぜならば、帳簿というのは、事業者にとっての外国語だからです。いわば「簿記語」。事業者が帳簿を付けるためには、簿記語を学ぶ必要があります(弥生会計をはじめとする会計ソフトはその手助けをしてはいますが、基本は事業者にとっての外国語であるという構図を変えるには至っていません)。結果的に簿記語を学ぶ余力のない多くの事業者は、帳簿付け(記帳)を会計事務所に丸投げすることになります。

しかし、証憑だったらどうでしょうか。領収書や請求書といった証憑は、事業者にとっての母国語。日々受け取ったり、発行したり。それこそ請求書を発行することは事業者にとっての大好物です(笑)。外国語で帳簿を付けることは難しい事業者であっても、母国語である証憑を管理することは可能なのではないでしょうか。それこそ、今でもそのレベルは別として(紙でザクっと束ねているだけなのか、きちんと整理整頓されているか)一定程度の管理はしているはずです。

そう考えると、事業者にとって外国語である帳簿を強制するよりも、母国語である証憑を事業者と会計事務所が共通でしっかりと管理することができれば、事業者(顧問先)と会計事務所にとってのより良い関係性が築けるのではないでしょうか。宣伝めいてしまいますが、弥生のスマート証憑管理であれば、事業者は証憑をデジタルで管理しつつ、会計事務所はそれを帳簿として管理することができるという、理想的な関係性を築くことができると考えています。そういった意味で、スマート証憑管理は、これからの弥生会計の「顔」になる機能です。もっともまだまだ新しい機能ですし、押しも押されもせぬ弥生の顔となるためには、今後も継続的な改善が必要です。

(続く)

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