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インボイス制度がもたらすもの(その1)

あっという間に8月になりました。7/31(月)には地元横浜で花火大会(みなとみらいスマートフェスティバル 2023)が開催され、首都圏最大級の2万発の花火を堪能しました。しかし、例年花火大会でああ夏が来たと実感するのですが、今年はもう長いこと暑い日が続いており、息も絶え絶えです(笑)。

さて、前回、4月からこの3ヶ月間、ひたすらに全国の会計事務所をまわってきましたとお話ししました。この3ヶ月間で全国の50以上の会計事務所をまわったのではないかと思いますが、先生方との議論を通じ見えてきたことがあります。それはインボイス制度が何をもたらすのかということ。改めて文章にしてみると結構長文になってしまったので、3回に分けてお話ししてみたいと思います。

インボイス制度がもたらすもの

2023年10月から始まるインボイス制度。この正式名称は、「適格請求書等保存方式」という消費税法上の制度です。消費税は、販売時に受け取った消費税から、仕入時に支払った消費税を差し引いて(これを仕入税額控除と言います)納税しますが、この仕入税額控除を受けるための要件が変わります。これまでも課税仕入れなどに関する帳簿および請求書等を保存することが必要でしたが、今年の10月からは「適格請求書等」の保存が必要になります。単純に言えば、保存が必要になる請求書の様式が若干変わるだけなのですが、実はその裏には大きな流れの変化があるのではないかと考えています。

1. 法人税ファーストから消費税ファーストへ

会計業界の常識的には、法人の決算・申告といえば、それはまず法人税。法人税が主で、消費税は従。法人税の決算・申告をちゃんとやっていれば、消費税の申告も普通にできるはず、という感覚です。今の形の法人税ができたのが1940年に対し、消費税が導入されたのは1989年ですから、そもそも歴史が違います。

一方で、先日、2022年度の国の一般会計の税収が約71兆1,373億円と過去最高を記録したことが報道されましたが、この税収のうち、消費税が23兆792億円と最大の税目となっています。次が所得税で22兆5,216億円、そして法人税が14兆9,397億円という順番になります。つまり税収規模で言えば、既に消費税 > 法人税となっています。今後の動向としても、法人の稼ぎが国内よりも海外にシフトする中で伸びが期待しにくい法人税に対し、日本国内での個人の消費が急激に減ることはありませんから、消費税は安定的に推移することが見込めます(もちろん中長期的には人口減少の影響は受けるわけですし、それは日本全体としての大きな課題です)。つまり税収の観点では、既に消費税ファーストになっているわけです。

もう一つこれからは消費税ファーストと考える理由が税務調査です。ここ数ヶ月間、日本全国の多くの会計事務所とお話しして聞こえてきたのが、最近は消費税の税務調査が厳しくなったということ。税務調査というと調査官と事業者の用心棒である税理士が侃侃諤諤の議論を交わし、落とし所を探るといったイメージですが、最近は落とし所ではなく、仕入税額控除が全く認められないというゼロ回答が出るようになっているとのこと(もっともこれには地域差もあるようです)。

もともと法人税における経費というのは金額が合理的に算定できればよいとされており、例えばクレジットカードの利用控や利用明細書などでも金額は確認できますから、経費として認められる余地が大きい、逆に言えば、税務調査の観点では、指摘が難しいという背景があります。その難しさの中で税務調査をするわけですから、調査官には高いスキルが求められます。ただ、民間企業での社員の高年齢化、その結果としてのベテラン社員の退職と同様に、税務署においても、そういった高いスキルを持った調査官がどんどんと退職しており、税務調査におけるスキルの維持が非常に大きな課題となっています。

そんな中で、税務調査におけるスキルがそこまで求められないのが消費税です。消費税の納税額を左右するのは、仕入税額控除ですが、上でお話ししたように、仕入税額控除を受けるためには、帳簿および請求書等を保存することが必要です。この際、金額については、請求書等に明確に記載されている必要があり、(法人税のように)合理的に算定できるレベルでは不十分とされています。クレジットカードの利用控や利用明細書などは、ここでいう請求書等に該当しませんから、法人税上の経費として計上することはできても、消費税上の仕入税額控除は認められません。

認められませんと言っても、これまでは実務上は大目に見られることも多かったのですが、それが変わってきています。つまり認められないことが増えてきています。仕入税額控除は請求書等に金額が明確に記載されているか(正確には税率ごとに対価の額が記載されているか)によって0/1で判断ができる。ですから税務調査におけるスキルはそれほど求められません。税務調査のスキル維持に苦心する税務署にとって、より調査がしやすい消費税に注力するようになることは不思議なことではありません。

そして0/1で判断できる、というのがよりくっきりとはっきりとするのが、インボイス制度です。インボイス制度では、記載すべき事項がはっきりと定められた適格請求書等の保存が必要となります。適格請求書等が保存されていない、イコール、仕入税額控除が認められないという、より単純明快な世界になります。この新たな世界では、従来のように、まず法人税ありき/消費税はついで、ではなく、まず消費税ありき/もちろん法人税も、となる消費税ファーストへと考えを変えるべきなのではないでしょうか。

(続く)

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