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週末は柳美里のトークショーへ。日本では20年前に出版された「八月の果て」が、今年"The End of August" として英語翻訳出版された。そのプロモーションとして、この1ヶ月くらいアメリカ、イギリスのツアーをしていた柳美里さん。最終日程がロンドンでのトーク。


日本語の文庫版で上下巻あわせて1100ページを超える大作。とりあえず上巻だけ読んでトークショーの予習をして行った。

トークショーは、日本語、英語、日本語、英語と交互交互にバイリンガルの朗読から始まる。日本語は柳美里本人、英語は翻訳者のモーガンによる語り。

柳美里本人の大叔父が、墓穴に生き埋めにされ殺されるというシーンを、はじめ淡々と、だんだん熱がこもって語る。

柳美里さん本人の朗読が聞けただけでもすごくよかった。


柳美里さん(右)と通訳さん(左)

壇上には、柳美里さん、"The End of August" の翻訳者モーガンさん、解説のスーザンさん、柳美里さんの日本語の通訳さんの4人。

「8月の果て」は、柳美里さんの家族の歴史でもあり、日韓の歴史でもある。戦前から朝鮮戦争への厳しい時代を生きてきた、美里さんのご両親、祖父母が日本に難民として移住する。そのストーリー。

18歳で小説家として生きていくと決めて、まず一番に書きたかった話だという。過去に受けた心の傷を封じ込め、決して韓国のことを話さなかった、両親、祖父母からは何も聞けない。家族が封じ込めていた過去に対面する勇気が出たのが彼女が30過ぎてから。韓国へ行って、当時のことを知るひとたち100人ほどにインタビューして情報を得てこの小説を書く。この話はフィクションだけど嘘は一つもない。嘘を書かないということは、他の小説でも大事にしてきたこと。と、強い思いを語る。

辿々しいと感じられるほどの朴訥な話し方。トークのなかで思いがこもってきて熱がこもってくる。

8月の果てのなかに度々出てくる、伝統的なスピリチュアルな儀式と時間の流れのこと、韓国語の「恨(ハン)」という概念のこと。日本語の小説のなかに、たくさんの韓国語が入っていることで表したかった日韓のアイデンティティのこと・・・

「この小説を誰に向けて書いたのですか?」という問いに対しての答えが心に響いた。8月の果てだけではなく、他の小説でも、自分は、「居場所のない人」に向けて書いている、と。柳美里さん本人も、居場所がなかった。小説の中だけが居場所だった。そんな居場所がない人のために、本を書いている、と。

それに対して聴衆から「美里さんは居場所を見つけましたか?」との問い。

美里さんは福島県南相馬市の、福島第一原発から16kmの場所で本屋を開いている。地震のあと、半径20kmは人が住めなくなった。そこに住んでいた人は居場所をなくした。本屋は、魂の避難場所。居場所をなくしたひとたちに居場所をつくることが、今は私にとっての居場所になっています・・・という静かだけれど強さを感じさせる言葉が印象的だった。

美里さんの飾り気のない服装、朴訥な話し方、静かなたたずまい・・・その中から、そこはかとない強さが感じられる。弱い自分や他者を敏感に感じ取っている繊細さがあるからこその強さなんだろうなあ。


もともと柳美里さんの本の大ファンというわけではない。たまたまこのイベントを見つけて行っただけの私。美里さんのお話を聞いて、尊敬の気持ちがいっぱい。尊敬だけでなく、美里さんのことが大好きになった。

小説を読んだだけではわからない、美里さんの姿が見れて、本当に良かった。胸がいっぱい。このイベントに行けて良かった。



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