見出し画像

『お歯黒どぶ』は、ほんとうに遊女たちのお歯黒で濁っていたのか?

■『お歯黒どぶ』は、江戸時代の『水道』である 

江戸時代、すくなくとも新吉原遊郭では、すでに下水道*注1が使われていました。

下水道とはなんなのか。文章で説明すると長くなります。細かく知りたいかたは江戸時代の下水道についての著書*注2もある下水道史研究家 栗田彰氏のインタビュー記事*注1をおすすめします。 

現在との違いを比較図*図1にしてみました。

画像1

 *図1 ※水売りについて*注3で別表記 

図①から簡単に説明しますと『お歯黒どぶ』は、新吉原全部の雨水排水(雨落下水)と生活排水をまとめて流しこまれていた「大下水」*注4です。雨水排水(雨落下水)と、各戸の台所や井戸からでる生活排水は「小下水」*注5にまとめられて、その「小下水」*注5は「町割下水」*注6に集合させています。
最終的に、新吉原遊郭許可地の四方を囲んでいた黒塀ごしに、『お歯黒どぶ』と呼ばれていた「大下水」*注4に流しこんで排水していました。

 

画像2

参考図*注1より

 現在ではほとんどが暗渠化されている下水道ですが、当時は明渠でした。
当時の雨落下水路は、いまだと道路脇にある排水溝のふたが空いている状態だと思われます。
 余談ですが、ふたが空いていると何が起きるか?物や犬猫や人が落ちます。 そのためか排水口近くには自身番・門番小屋が置かれました。どざえもんがあがったときは彼らに通報していたようです。 
また、幕府は空き地や下水にゴミを捨てるのを禁じています。*注7 排水路が詰らないよう、頻繁にゴミ浚いもされていたそうです。現代の我々が「どぶ」と聞いて想像するよりは小川に近いものだったようです。

画像3

*図2

 生活排水も流れていた『お歯黒どぶ』には、台所に捨てられたお歯黒が流されていた可能性があることが推測されます。

 ■ では、ほんとうに『お歯黒どぶ』は黒かったのか? 

小柳美樹氏による『吉原遊廓地業についての基礎的研究』2021年3月*注8 では、新吉原のある土地の歴史と、どのようにして新吉原という造設地(明暦年間)が造られたのかを研究されています。

 ”遊女がお歯黒を捨てたため、その成分が黒色を呈したためといわれるが、元々の地勢が湿地帯のグライ土壌(排水不良な土壌)なので、それを反映した黒色土、暗褐色土が溝の壁に表出していたと考えられる。” 『5.吉原遊廓地業の規模』から引用

つまり、もともとの土地の土壌が黒かったからでは?という説です。 

■まとめ

 当記事では『お歯黒どぶ』には生活排水として①お歯黒が流れこんでいた可能性と、②小松美樹氏論文によるそもそもの土壌の色である可能性の二点が確認できましたが、結論には至りませんでした。
 今後についてですが、②の小松氏の研究がつづくことを祈る、もしくは江戸に行ってみてきたほうがはやいという考えしか思い浮かばないのですが、つづけて新吉原関連の書物や絵を探していきたいと考えています。
どう考えても江戸に行ってきたほうがはやいですけどねぇ。

 ■参考文献

*注1ミツカン水の文化センター 機関誌『水の文化』18号 排水は廃水か https://www.mizu.gr.jp/kikanshi/no18/02.html 2021年12月21日
*注2『江戸の下水道』新装版 栗田彰著 青蛙房 平成24年1月30日
*注3 行商スタイルの水売り屋は飲料水を商っていました。井戸が造れない湿地帯や深川などの埋立地で生活するひとびとに売りに行っていたそうです。 新吉原はもともとは『千束池』と呼ばれる湿地帯です。
左明治頃の湿地帯図と右現在千束四丁目を重ねた(国土地理院地図より)

画像4

*注4 *注5*注6 
・大坂城豊臣石垣公開プロジェクト 豊臣石垣コラムVol.33 「太閤(背割)下水」考 2021年12月21日 https://www.toyotomi-ishigaki.com/hideyoshi/1608.html
・建設業しんこうWeb 歴史資料 絵で見る江戸のくらし 13.江戸時代の上下水道 2021年12月21日 http://bn.shinko-web.jp/recall/000871.html
*注7 『正宝事録‐慶安元年(1648)二月二一日「下水并表之みぞ滞なき様に所々に而こみをさらへ上け可レ申候」』 *注8 https://shukutoku.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=1955&item_no=1&attribute_id=21&file_no=1      

この記事が参加している募集

日本史がすき

つくってみた

いただいたお金は本の購入代金に替えさせて頂きます。