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「ゴジラVSコング」怪獣プロレスは良かったが…

戦闘描写は素晴らしかったが・・・

ゴジラVSコングを見終わったあとの感情は複雑だった。

ゴジラとコングのアツい戦いは本当に素晴らしかったし、観客が見たかったであろう純粋なる怪獣プロレスの体現という意味では、これ以上無いほどに期待に応えた形になったであろうことは明白だった。

しかし一方でこれで良かったのだろうか?という疑念も完全には拭えないのである。

それはハリウッド版ゴジラを初めて見て、キングオブモンスターズを見て、ずっと抱えてきた感覚だ。

もちろん今更CGより着ぐるみが良いなんてことをいうつもりは無いし、もう実写とCGの境目が無くなりつつある現代のブロックバスター映画に置いて、着ぐるみがCGに勝る点を主張することは困難だ。

しかし問題はもっと根本的なところにある気がする。

「ゴジラ」観のずれに「沈黙-サイレンス-」を思い出す

マーティン・スコセッシ監督の「沈黙-サイレンス-」を覚えているだろうか。
この映画では、日本と欧米の宗教観の違いを挙げ、布教の過程で本来の教えからはかけ離れていくということが語られていた。

日本人はキリストと太陽信仰を同一視し、本当の意味で神を理解することはできないという一場面が印象的だった。

果たして今作において「ゴジラ」は正しく描かれていただろうか?

「ゴジラ」の解釈は人それぞれだが・・・


ここで難しいのは「ゴジラ」というキャラクターが間口の広いキャラクターであるという点だ。

それこそ描くクリエイターによってこれほど違った解釈がみられるキャラクターもそうそう無く、その解釈の多様性こそが魅力なのだ、という意見もあるだろう。
だからこそ、これが「今回の」ゴジラという表現が成立するし、ハリウッドのゴジラも解釈の1つとして受け入れられるべきであると思う。

つまるところ建前の意見としては多種多様なゴジラがあって良いと思うしいろんなゴジラが見られるのは素晴らしいことだと思う。

これが大人の意見だ。

では建前を抜きにした「本心」の意見はどうか。

モンスターバースにおける「ゴジラ」に対する本音


言うまでもないが、モンスターバースにおけるゴジラは「自分の中のゴジラ像」とは大きくかけ離れている。

まず言いたいのは怪獣プロレスには理由が必要である、ということである。
もちろんここでいう理由というのは怪獣という大嘘を容認した上で、全く異なる2体の怪獣を戦わせるには映画内で納得の理由づけが必要になる、という意味であって必ずしも現実路線である必要はない。

平成ゴジラシリーズはそこらへんの匙加減がうまく、ときには未来からの刺客、ときには大昔の遺跡、ときには宇宙と大嘘を交えながら戦いの必然性をもたせていた。

今作においてゴジラとコングが戦う理由は、昔からのライバルという一言で片付けられてしまっている。

そもそも、ゴジラシリーズにおいてゴジラとキングコングが戦ったことは一度しかない。お金儲けのため見世物興行として戦わせようとした身も蓋も無い理由である。
モンスターバースにおいては前作でモスラやキングギドラとの死闘があっただけに、余計脈絡の無さが際立つストーリーになってしまっている。

ゴジラが地球の守護神というのもかなり違和感のある設定だが、その設定も今回地下空洞が実際行き来できるようになったことでさらに神秘性が失われてしまった。
そういえば、この次元の裂け目のような描写は「パシフィック・リム」とかなり近い。最終ラウンドのステージが香港だったことも相まって今作は全体的にかなり「パシフィック・リム」感があった。狙ってやっているとしか思えない。

ゴジラの感情表出は是か否か

また、これは許せないと思ったことが1つある。
今作のゴジラは感情を露わにするのである。
大前提としてゴジラを構成する要素として最も大きいのは「怒り」である。
それはゴジラ自身が何かに対して怒りを抱えているというわけでは無く、ゴジラというものが怒りの象徴のような存在だからだ。よって、ゴジラがある特定の対象に対して感情をあらわにすることは基本的には無い。なぜなら、ゴジラは常に何かに対して怒っているからだ
ゴジラは決まって海からやってきて、特に理由もなく街を破壊し、他の怪獣や人間がちょっかいをかければそれを倒し、そして最後には何事もなかったかのように海に帰っていく、そんな存在である。
決して自分から喧嘩をふっかけにいったり、相手に情けをかけてトドメを刺さなかったり、良い勝負だったと言わんばかりの笑みを浮かべたりなんてしないのである。

これはあくまで僕個人の意見で、所謂「解釈違い」というやつだ。
なのでキングコングかわいい、ゴジラかっこいい、楽しかった!という意見もあってしかるべきだし、それはそれとして娯楽映画としてはどれだけストーリーが荒唐無稽であったとしても楽しめたのは事実なので、「ゴジラVSコング」が駄作などというつもりは全くない。

ただ、この無茶苦茶な世界観でこれ以上話を広げるのは無理であろうことから、次は全く世界観やデザインを一新した新しいゴジラが見れることを期待している。

マグロを食べるゴジラは勘弁だが。


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