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蛙
2020年3月25日 09:28
四人死んで、一人が逃げて、最後の一人が残された。その最後の一人であるアフロの男は、キティに銃を向けられていた。「まだ笑えるか?」キティは言う。「笑えねぇだろ」「笑えるわけがねえ、なんなんだよ。そっちの化け物はよ」男はジャックの方を見て言う。「特殊な体質なんだ」ジャックは言った。「そんなことよりも、ダグラス。返済金の話をしよう」 アフロの男は、目の前にいる二人を交互に見てから口を開いた。
2020年3月24日 18:52
狭い路地を抜けて、また、抜けて。それを繰り返す。涅槃場《ネハンバ》の中は空が見えなかった。無茶な増築で縦横に繋がった建物が、天井のようになっているせいだ。屋外でありながら、建物の中にいるような場所が延々と続いている。このどこまでも閉ざされた世界で、窒息してしまわないように、空気を送る一メートル大のファンが設置されており。それはいたるところで見かけることができた。雪道を歩かなくて済むことだけが、こ
2020年3月24日 18:50
キティは、ジャックと二人でダグラスの縄張りに向かって歩き始めた。自分たちがいた通りを抜けて、大通りに出る。大通りには昨日の雪が残っていて、どう歩いても膝まで埋まってしまう。キティはお気に入りの冬用ブーツを履いていたが、それでも中身が濡れるのを防ぐことはできなかった。「糞ったれ、靴下まで濡れちまった」キティは悪態をついた。「次は革のブーツにしたらどうだ? これなら、どんなに歩いても濡れない」ジ
2020年3月24日 18:49
ジャックは、カレンダーを見ていた。一九六二年の十二月。それほど正確な記憶ではないが、自分が不死になってから。ほぼ、千年に近い時間が経ったことになる。年齢は、聖書にでてくる聖人どもに追いつきつつある、それを考えると笑えた。「何、何? なんか良いことあったわけ?」 声の方を向く。そこにはキティがいた。彼女は今現在、ジャックと同居している。同居と言っても、恋人や家族というわけではない。奇妙な関係。
2020年3月24日 18:15
故郷から離れた、イングランドの戦場で。男は死にかけていた。胸を貫いた矢は、鏃のところで折れて抜けなくなっている。心臓が脈を打つたびに血が流れる。血が流れるたびに、さきほどまでの激痛が、躰の感覚と一緒に消えていく。これが死ぬということか、と男は感じた。 男の周りは静かだった。彼が倒れてすぐに、戦場の音は遠くに移ってしまった。将を打ち取った仲間たちは、皆、砦を落としにかかっているのだ。こんな、つま