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キャラクターの「静的」矛盾と「動的」矛盾

 キャラクターには矛盾がある。全てのキャラクターは、その身に矛盾を抱えている。キャラクターとは、創作上の人格のある存在のことだ。矛盾とは、本来ある状態であるはずのものが、それを覆すような状態になることを言う。

 つまり、創作上の人格のある存在は、おしなべてそれぞれ固有の状態でありながら、常にそれを覆しうるのだ、ということになる。もう少し単純に言えば、どのような人格も時として自分自身を破壊したくなるのである。
 甘いものが好きなのに辛い物を食べてみたり。水の中にいなければ生きられないのに外に出たり、聖人君主が残忍な殺戮鬼であったり、そういった、本来であれば別々のキャラクターがやってのけるべきことを、1つのキャラクターがしてしまう。

 こういった矛盾には、種類がある。1つは静的なもの。もう1つは動的なもの。

 まず静的な矛盾とは、それがそのままであっても起こりえる矛盾のことだ。つまりキャラクターが、それ自身で存在するだけで表れかねないものである。2重人格はまさにそうだ。そこまでいかずとも、優しいキャラクターが怒ると言うこと、陽気なキャラクターが落ち込むということ。そういった感情の振れ幅は、静的な矛盾だ。
 この他にも、いずれそうなることが運命づけられているのならば、静的な矛盾と言える。無邪気な男の子がダークヒーローとなること。恵まれず苦労続きの貧乏人がやがて大金持ちになること。要するに、前の状態ではまだそのキャラクターは完成しない。矛盾を経てからがそのキャラクターの始まりなのだ、という時には、まさにそこに静的な矛盾がある。

 次に動的な矛盾とは、それに動きがあって/動かされて初めて、起こりえる矛盾のことだ。つまりキャラクターが、それ自身だけではなく、何か別のもの(特に他のキャラクター)の持つエネルギーによって、矛盾へと進み始めるのである。志を持った政治家が汚職にまみれる、生娘が売女になる、勇敢に闘っていた男が自殺をする。そういった行動や状態の振れ幅は、動的な矛盾だ。
 これは、すでに完成した、あるいは1つの到達点、出発点に立つキャラクター特有のものである。既にそれは、何をなすかを運命づけられているにもかかわらず、何かの影響や行動やそれらを目撃したことによって、心を揺さぶられて到達点や出発点をガラリと変えてしまうのである。それがたとえ、当初の全く反対であっても。まさにそこに、動的な矛盾がある。

 キャラクターとは矛盾を抱えるものである、しかしそれはただの矛盾ではないし、あらゆる矛盾が、1つのキャラクターに当てはまるものではない。キャラクターとは創作上の存在である。そして固有の存在だ。だからこそ、その抱える矛盾は絶対にあいまいではない。それは矛盾としてその中にある。なればこそ、それは私達の目にきちんとした成り立ちをもって、表れるのである。

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