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コント 「最初の一歩」

https://www.youtube.com/watch?v=p9Ai2L3_50U

先日公開したこちらの曲↑↑↑のコント(会話劇)を書きました!
とある日の、フンコロガシ親子の会話です。
もし読んでいただけたら、とっっっても大変この上なく嬉しいです!!


最初の一歩



「父ちゃんただいま」

「お前また空飛んでたのか」

「うん。お空な、すごく気持ちいいんだ」

「それはいいことだな」

「いまね、お空そうじしてきたんだ」

「そうじ...?うん....?あ、それはクイックルワイパー....」

「ほら、さっきまで汚れてたけど、今は綺麗だろ?」

「あ、これは曇ってたのが晴れただけ...あ、なんでもない、そうか綺麗になったな」

「こんだけ飛べたら、いちフンコロガシ前だろ。パタパタ」

「一人前みたいに言うな 今日は小学校どうだったんだ?」

「あー、その件につきましてはとりわけ特筆すべき点はないですねぇ」

「急にサラリーマンみたいな口調やめなさい、あまり楽しくなかったのか?」

「...あのね、先生が『空に逃げてちゃダメ』って。早くみんなみたいに地上で転がせるようになりなさいって」

「そうか」

「ええ、お父様分かりますよはい!我が子は少々道を踏み外しているのではないかと!!」

「いきなりどうした」

「生まれてこの方 転がすことなく飛んでばかり、これは若干小学生にして既にフンコロガシの遺伝子という強固なレールを踏み外しているのではないかと!この子の将来はいかがなものかと憂いておられるのですね?!」

「お前本当に小学生か?そんな言い回しいつ覚えたんだ」

「僕がおかしいんじゃない。みんながおかしいんだ。地上で転がすなんてばかげてるよ。フン」

「そうか?」

「だってお空の方が景色いいもん。飛んだ方が楽しいし、転がすなんて、あほぅだよ」

「まあ、お空もいいもんなのかもな。でもな、地上で転がすのもそんな悪くないんだぞ」

「...そうなの?」

「ああ、だって、他のいろんな虫にだって会えるしな」

「お空でだって会えるよ」

「あ、そうか...でも地上でしか会えない虫もいるだろ?あと木や花、それにいろんな動物がいるんだよ地上には」

「うーん、そぅかぁー、じゃー、やってみるよー、あしたー」

「それは絶対やらんやつやん、やらんやつのハイフンの量やん」

「...あのさ、本当は僕だってわかってるよ。フンコロガシなんだから、転がさなきゃいけないことくらい。でも...」

「でも?」

「...でも、僕だけうまく転がせなかったらどうしよう」

「え?」

「僕のだけ明後日の方向に空高く飛んでっちゃって窓から人間の総菜屋に突入して最後の工程の梅干しポジションに着地して出来上がった幕の内弁当が爆売れしたら僕のせいで食物連鎖の形がいびつになってしまうよ!」

「いやどういう心配だよ あのな、俺らはフンコロガシだぞ。転がすように神様に創られてんだ。うまく転がせるとか転がせないとか、そういうことじゃないんだよ」

「でもね、隣の席の子は昨日3メートル転がしたって。後ろの子はもう一人でどこまでも転がせるから学校に来なくなった」

「そうか、立派だな」

「僕だけ1ミリしか転がせなかったらどうしよう」

「そしたら次の日1.0001ミリ、その次の日1.0002ミリ転がせばいいんだよ、毎日が最高記録だ」

「…そんな刻まなきゃだめ?」

「ほら、最初の一歩はしょぼい方がお得感あるだろ。はっはっはっ」

「いや別におもしろくはないけど」

「ああそうか、すまん とにかく、一度試しに転がしてみればいいんだよ、教室で一生懸命トレーニングしてるって、先生言ってたぞ」

「練習と本番は違うじゃないか、お外はこわいしうまくいかないよ」

「大丈夫だって、もっと自信持ちなよ」

「ううん、自信がないとかじゃないの。自分に課してる期待値が高すぎるの。見積もりよりできない自分を目の当たりにしたくの。だからこうやって答え合わせを先延ばししてるんだ」

「...その歳にしてすごい俯瞰力だな」

「お空飛んでるからね。パタパタ」

「そうか、まあ焦る必要はないさ、いつか『その時』が来るよ」

「え? その時って?」

「地上を知りたくなる時だよ。見たい、知りたい、そして会いたいって気持ちがいつか色んな『こわい』を追い越すんだよ、なんせ俺たちは誇り高きフンコロガシだからな」

「フーン」

「その時がくればきっとわかる。誰が何センチ転がしただなんて、関係ないよ」

「うん」

「そうだ、父さんに空の飛び方教えてくれよ」

「え、父ちゃん飛んだことないの?」

「若い時少しだけ飛ぼうとしてみたことはあるけどな。全然遠くまで飛べなかった。おっかなかったな」

「おっかないのは本当に最初だけだよ、僕もそうだった」

「そうか、最初はそんなもんか。1メートルくらい飛ぼうとしたんだけどな、3センチも飛べなかったよ」

「いいかい父ちゃん、遠くに飛ぼうと思うと飛べないんだよ。そんなことよりお空が見たくてたまらなくて、気づいたら飛んでるんだ」

「そういうものなのか」

「うん、僕が教えたげる」

「明日教えてな、日が暮れたしそろそろ寝なさい」

「うん、おやすみ父ちゃん」

END


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