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A story of recruitment 8 「バレンタインになるたびに劣等感でお腹痛くなっちゃう」

先輩のおかげで合同説明会のブースは大にぎわい。
こんな状況で気に登らない豚はいない。
イメージの中では、スティーブジョブズが初めてIphoneを発表した時の
ようにプレゼンを行っていた。

「おお、集まってるな!まあ、集まってからが本番だけどな。ここで自社に興味をもってもらえるかどうかだろ。」
「そ、そうですね。」
確かに、聞いてくれている学生たちは興味をもってくれているのだろうか?
「ちょっと俺が聞いておいてやるよ。」
「お、お願いします!!」

「・・・どうですか?」
「ん〜、なんかスティーブジョブズみたいだな。」
この男がのっけから褒めてくるとは!
いったいどんな狙いがあるのだろうか。
「実は自分でもそんなのをイメージしてやっていました。」
「は?何をイメージしてたって??」
「いや、だから・・・スティーブジョブズって・・・。」
それを言った途端、先輩は一人で爆笑し始めた。

「違うよ。プレゼンの内容は10点だな。俺が言ったのは、お前の格好!」
「は?」
気づけば今日は黒のタートルネックを着てきたんだった・・・。
「で、10点って・・・何か言っちゃまずいことでも?」
「ん〜、例えば好きな人に告白するとしたら、どんな言い方で気持ちを伝える?」
「え、好きな人ですか?まあ、“好きです”みたいな?」
「作文か!だからモテないんだよお前は!よく結婚できたな。」
ちょっと握り拳に力が入った。

「いいか、人は直接的に言うよりも、関節的に言った方が心が揺れるんだぞ。」
「直接的?間接的?」
「そう。例えば、俺がお前を誰かに紹介しようとしよう。
“こいつ、めちゃくちゃモテないんだぜ”というのと、“こいつ、バレンタインになるたびに劣等感でお腹痛くなるんだぜ”と言うのと、どちらが伝わる?」
「まあ、完全に例えに悪意が感じられますけど、後者です。」
「そうだな。それに比べ俺はバレンタインの日になると別のカバンを用意しなくちゃいけなくて・・・」
「まあ先輩の話はいいですから、教えてください。」
「・・・。ま、とにかく関節的に伝えるんだわ。さっき“うちの会社は社風がいいです”って言ってたけど、スライドに出てくる写真は、商品とか施設の写真ばっかで社風が良さそうなのが全然伝わってこないわけよ。」
「社風っていう意味での写真なら、集合写真だって出しましたよ!」


「ああ、あの、皆んなで“エイエイオー”ってやってる超絶ダサい写真な。」


「・・・。」
「集合写真ってのはな、皆んなが構えてる写真なんだよ。そうじゃなくて
たとえばお昼休み中の何気ない談笑を、普段の姿を、そんなのを撮ってある写真とかさ。
そんなのが人の心を動かすわけよ。」
「なるほど。」
「小田和正の曲がバックで流れてて、いい感じの写真を使ってる保険のCMあんだろ?あの中の写真の一枚が
その“エイエイオー”だったらって想像してみ。」
そう言って再び先輩は爆笑し始めた。

脱いだばかりのタートルネックを、振りかぶって先輩に投げつけた。

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