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【日記】そのとき感じるべき痛みの総量は決まっている

このあいだ、編集者さんとスペースをやった。

スペース:「面白い文章」ってなんだろう?【『元カレごはん埋葬委員会』著者・川代紗生&編集者・池田るり子】

「面白い文章」とはなんぞや、がテーマだったのだけれど、個人的にすごく面白かった! あらためて自分が書きたいものを見つめ直すいい機会にもなりました。まだアーカイブが聴けるので、気になる方はぜひ。

 さて、このnoteでは、その中でもとくに印象的だった箇所を文字起こししてみました。個人的にも、忘れないようにずっと残しておきたいなと。

 以下は、配信開始50分後くらいの会話です。
 書いてるとどんどん、何が面白いのかわからなくなってきて、つい人に意見をもらいたくなっちゃうよね。そこで批判的なコメントをもらったりすると、ますます自分の「面白い」に自信が持てなくなって、みんなの「面白い」に寄せた書き方になっていったりするよね。そういう恐怖心と、書き手は、どう闘ったらいいんだろうか? みたいな流れのあとに、次のやりとりがありました(一部、読みやすいように整えた箇所があります)。


池田:今、聴いてくださっている方が、どういう文章を書きたいのかはわからないんですけど。私はいつも、商業出版の編集者として、「あなたが一番書きたいことを私は読みたいんです」という気持ちでいます。

川代:ああ……。あなたが一番書きたいことを。

池田:「なんとなく、みんなこうなんじゃない?」みたいな内容ではなくて。それは、商業出版でもブログでも小説でも、なんでもそうだと思うんですけど、「あなたが書きたいことはなんですか?」「あなたは、何を言いたくて書いているんですか?」っていうのを、私は一番知りたいんです。

川代:えっ、ちょっとすごい気になるんですけど、「あなた、一番書きたいこと書いてないでしょ?」っていうのって、編集者さんは、読んでてわかるものなんですか?

池田:いや、わかんないですよ(笑)。

川代:あ、そうなんだ(笑)。

池田:わかんないけど、でも、「いつも話してるときのほうが面白いかも?」とか「いつも言ってることとちょっと違うかも?」って思うことはあるかもしれません。
 それに、もし私が、編集者がそれを見抜けなかったとしても、その後出版されて、その作品が読者の目に触れたら、「本当は書きたくないこと」が「作家さんが本当に書きたいこと」だと思われちゃうんですよね。

川代:あああ……!! うわ、そうだ、そうだ。そうじゃん!

池田:少し弱めたものが、その人の精いっぱいになっちゃう。精いっぱいだと思われちゃう。

川代:あー……。(悶絶)

池田:「人生で、あと何回ごはんを食べられるんだろう?」みたいな問いって、あるじゃないですか。限られたごはんのチャンス、せっかくだから好きなものを食べよう、みたいな。文章も、人生で、いくつもいくつも書けるわけじゃないと思うんです。だったら、自分がわーっとなるものを書いてほしいなっていうのを、ずっと思ってます。

川代:あー、たしかに。すごい刺さってます、今。それに、なんだかんだ、自分が一番わかってるんですよね。日和ったものを書いたら。

池田:あ、そうなんですか? 川代さん、ライターさんだから、とくに書く機会は多いと思いますけど、なんとなくわかるもの?

川代:うん。自分が一番、「これ置きにいったな」とか「勇気出せなかったな」ってわかります。読者に言われるよりも先に。なんか、ぼやっとした罪悪感みたいなものがあるんですよね。というか、埋葬委員会のとある話にもこういうエピソードがありましたね、そういえば。

池田:はっ。そうだ。そうだそうだ!!

川代:「取り繕った自分で勝負して否定される」のと、「体当たりして否定される」のとでは、わけが違う、みたいな。

池田:たしかに。「繕った自分」で勝負したからこそ、否定されたとき「本当だったら違ったかもしれない」っていうもやもやがずっと残るわけですもんね。『元カレごはん埋葬委員会』って、1冊通して、そのもやもやをテーマにしているところはあるかもしれない。

川代:うん。「痛み」の度合いでいえば、素っ裸な自分で体当たりしてダメだったときのほうが、そのときの痛みはめちゃくちゃでかいと思うんです。「自分以外の誰かのふり」をしてダメだった方が、「でも、本当の私とは違うし」「取り繕ってたから、正当な評価を受けられなかっただけ」って言い訳できるから、その瞬間は、痛みはそこまでデカくない。でも、長期的に痛みが続くのは、取り繕ってダメだった方じゃないかなあ。

池田:うーん、たしかに。結局、「受け取らなきゃいけない痛みの量」って決まってるんですよね。

川代:そうそうそう!!

池田:うすーくして長引かせるか、一気に受け取るか。どっちかですよね……。

川代:本当そうだと思います。だから、次に飛躍するためには、その瞬間は死ぬほど凹んだとしても、一気にどかーんと傷ついちゃったほうが。

池田:まだ受け入れられるかもしれませんね。本当の私で体当たりしていれば「これでだめだったらしょうがない」って思えるけど、取り繕っててダメだったときに……たとえば、元カレが、自分をふったあとに付き合った女の子が、ちょっと「本当の私」に近いタイプだったら立ち直れないですよね(笑)。

川代:本当そうだ! 自分はいい女系で取り繕ってたのに、次に付き合った人がめっちゃ素直に「大好きー!」とか言っちゃうタイプとかだったら、マジで立ち直れない(笑)。
「あのときああすれば」っていう「ifの世界」の呪いにかからないようにするためには、「あのときできることはあれが精いっぱいだった」って思えるくらいの自分で向き合わないといけないのかもしれませんね……。


『元カレごはん埋葬委員会』で書きたかったこと・考えたことをあらためて棚卸しできた感覚があって、すごく充実した時間でした。池田さん、ありがとうございました!
スペース、またちょくちょくやると思いますので、タイミングがあいましたらぜひ聴いてみてください。

それと、12/9(土)19:00から、池田さんと一緒に、渋谷でイベントをやります!「小説執筆のはじめ方講座<興味はあるけど、書き上げたことはない人向け!>」がテーマです。リアルも通信もあります。チケットページもそろそろオープンになると思うので、よかったらぜひ。



【お知らせ】元カレごはん埋葬委員会は、12月9日ごろより全国の書店で並びはじめます!Amazonでは12月7日から発売です。予約受付も開始していますので、どうぞよろしくお願いいたします!


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