【タイ/バンコク編】小さな裏路地物語⑥チャイナタウン
この物語は、僕が旅をした中で、路地裏や道端で遭遇した人とのエピソードの1シーンを綴ります。実際に書いた千夜特急では出てこなかった方もいます。もしよろしければ、旅を彩る短いストーリーを小説風味でお楽しみください。
(思い付きで書いているため、時系列はバラバラに紹介していますが、その点はご了承ください。)
あらすじ
シンガポール、マレーシアを超え、ようやく旅を感じるような国に入った。かつて旅人の聖地とまで呼ばれたカオサンロードに宿をとり、過去の旅人と自分を比較しながら、安宿で少しだけ怠惰な日々を過ごしていた。
カンボジアのビザはすでにネットで申請しており、やるべきことが特にない状況で、僕は宿の男から聞いたチャイナタウンを目指してバイクタクシーに乗っていた。
バイクに乗る彼は外国人を乗せることにも慣れているようで、マップを確認することもない。そして彼は車の間をすり抜けるように走り続け、数分ののち、そのバイクを中華街の入り口で止めた。
バンコクの異才
バイクタクシーを降りて体を伸ばすと、少しだけ体がなまったような気がする。少し沈没気味だったからだろうか。久しぶりに見る明るい太陽は、僕の細い目をさらに細める。
カオサンロード沿いの安宿はあまりにも値段が安く、夜はクラブの爆音が道から鳴り響く。そんな作られた空気とはまた違い、チャイナタウンは住民たちの活気であふれていた。
同じ漢字文化圏だからだろう。やはり読めないタイ文字よりは漢字を見ると少しだけ安心感があふれ出る。
しかし漢字しか存在しない看板を見ていると、それは徐々に異国という意識へと変わっていく。
イメージ通りの赤い看板がいくつも並び、昼間から人々が激しく道を行き交う。僕はそんな太い道路を避けるように、細い裏の路地へと入った。
そこには細道をさらに狭めるように、両側からパラソルをさした出店が迫ってくる。そんなさらに細くなった道を慣れたように、住民らしき人がバイクで走っていく。
右側の屋台からは何かを焼く音と共に煙が上がる。僕は視線をそちらに向けると、店の人は網の上で、大きなエビを焼いている。
中年女性が慣れた手つきでトングをつかみ、網の上に横たわるエビを裏返す。そして焦げ具合を確認した後、彼女はそれを客の皿へと素早く置いた。
僕が見事な腕前だと見とれながら足を進めると、その横の屋台ではジュースが売られている。
とても小さなペットポトルは果実の色が透けており、ザクロやオレンジと言った明るい色が人々の目を奪っていく。そして店のおばさんと目が合うと、僕の足は自動的に屋台の前へと吸い寄せられた。
「おや、何か買うのかい?」
そう言われて値札を見ると、大きく20という数字があった。
僕は彼女に二十バーツを渡すと、彼女はクーラーボックスに入れてある冷たいペットボトルを僕に手渡す。その光景がお祭りのようだと思うと、どこか懐かしい気持ちが込み上げた。
僕は彼女に感謝の言葉を伝えると、そのままさらに路地を奥へと進む。目立たない路地裏にも人々の生活があり、それはより自然な表情へと変わっていく。
そして細い路地が交差する場所まで来ると、路上にマネキンのようなものが見えた。
僕がその店の前に近づくと、そこには伝説のユニコーンが立っていた。
彼は焦点の合わない視線をこちらに向けて、顔をそっとゆがませる。その光景に驚いて店の中を見ると、少し小太りな中年のおじさんと目が合った。
彼は僕の表情を見ながら満足そうな笑みを浮かべる。
変わらない日常の続く路地裏で、僕はユニコーンの写真を撮った。
おじさんはそんな僕を見て、さらに満足そうに目じりの皴の数を増やした。
こんな感じで丁寧な文体で、旅の小説を書いてます。
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