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【カンボジア・アンコールトム編】小さな裏路地の物語③

この物語は、僕が旅をした中で、路地裏や道端で遭遇した人とのエピソードを綴ります。実際に書いた千夜特急では出てこなかった方もいます。もしよろしければ、旅を彩る短いストーリーを小説風味でお楽しみください。

(思い付きで書いているため、時系列はバラバラに紹介していますが、その点はご了承ください。)


あらすじ

 シンガポールからマレーシア、そしてタイを抜け、何とかたどり着いたカンボジア。その国で目的としていたものは、何度も画面越しに見たアンコールワットだった。
 しかしあの有名なアンコールワットはアンコールワット遺跡群として存在しており、広大な土地に点在している一つの遺跡に過ぎないということだった。
 そして念願のアンコールワットを見学し、次のアンコールトムとやらへ向かった時の話です。



 巨大な顔が見下ろす寺院


 宿で予約したトゥクトゥクに再び乗り、アンコールワットからアンコールトムへと車は進む。視界には黒い色をした堀の水面が映り、そこにはピンク色のスイレンの花がまばらに咲いている。

 そしてアンコールワットが見えなくなった頃、トゥクトゥクは再び森の中に入った。

 
 目の前には宿で共に一日ツアーを組んだ凛と麻衣が乗っており、彼らは女子大生らしくあたりの光景をスマホに収めている。

 しかし辺りにこれといった写真スポットはなく、ただ太い木々が一本の道路脇に無造作に並んでいる。しかし朝の起床が早かったからか、麻衣は何度も眠そうに眼をこすっていた。
 


 僕はスマホの地図を見ると、すでにアンコールトムと呼ばれるエリアに近づいている。巨大な正方形の堀が城を囲んでおり、アンコールワットの四倍ほどの敷地面積という話は地図上からも見てわかる。僕はその大きさを確認した後、スマホをすぐにポケットにしまった。


「ほら、ここがアンコールトムの入り口さ」


運転手をしているプロムが前から叫ぶと、僕らは前方を覗き込む。そこには門の上に巨大な顔面象が乗っている。


「うわぁ、すご~い!」


 麻衣が感情をそのまま言葉にする横で、凜はというと静かに口を開けていた。


「こんなもんじゃないよ。この敷地の中央にはバイヨン寺院ってのがあるから、ここで写真を撮ったらその寺院に向おう」


 プロムがそう言うと、僕らはトゥクトゥクを降りていくつかポーズをしながら写真を撮った。そして撮影の時間が終わると、再びトゥクトゥクは目的地であるバイヨン寺院を目指して走った。



 南門からさらに一本道を進んでいくと、森が開けた先に大きな黒岩の盛り上がりが見えた。

砦のようにごつごつした岩の並びは、古さを表面から感じさせる。そしてトゥクトゥクがその寺院に近づくにつれ、その視界にたくさんの顔が映り始めた。


 南門でみたものとそっくりで、タイで見た仏像とは顔が違う。

 しかしそれはどこか柔らかく、穏やかな表情に思えてくる。そんな風に僕らの気分が最高潮まで上がったころ、トゥクトゥクは寺院の側に車を止めた。


僕らは寺院に足を進め、その岩の力を足元から感じる。そしてオレンジ色の袈裟を着た座物を通り過ぎ、その寺院の中に入ろうと、入り口前で空を見上げた。


 そこには澄んだ空と巨大な笑顔が映りこむ。そして僕らはしばし、その場所で足を止めることを余儀なくされた。



 クメールのほほえみ。それは確かにここにあり、時を超えてその表情を守っていた。




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こんな感じに丁寧な文体で旅小説を書いてます。

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もしよかったら色々のぞいてみてね!



これからこの小説絶対来る!

ではでは、しーゆーねくすとたいむ!

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