心筋からmRNAワクチンが検出された件について
今回は第4回。『心筋』です。
実は、前回、急性心筋梗塞で亡くなられた方の心筋の毛細血管内皮細胞で、スパイクタンパク質が発現していたとするMichael Mörz医師の症例報告を、既に紹介していました。ただ、社会的なインパクトとしては「脳で検出された!」ということの方が大きいため、まずは脳の結果をメインに解説しました。
先日、Twitterで、宮坂昌之先生のFacebookの投稿が話題になっているのを見かけました。これは、宮澤大輔医師のツイートに対するレスポンスでした。
宮澤大輔医師のツイートはこちら。↓
宮坂先生のFacebookの投稿はこちら。↓
この機会に、前回の記事で端折った『心筋』に関して、記事としてまとめておきたいと思います。
宮澤大輔医師が引用したのは、ドイツのMichael Mörz医師の論文ではなく、長崎大学の論文(症例報告)でした。↓
こちらは、2回目のファイザー社のmRNAワクチン(BNT162b2)接種の24日後に劇症型心筋炎を発症した60歳女性の症例です。長崎大学病院を受診する3日前から高熱があったそうですが、SARS-CoV-2の抗原検査とPCR検査の結果は『陰性』でしたので、SARS-CoV-2感染とは無関係であると考えられます。
結論から先に言いますと、宮坂先生のおっしゃっていることは正しいです。
今回の記事のキーワードは、前回の『免疫組織化学染色』と『連続切片』に加え、『バックグラウンドシグナル』です。
もう一度おさらいですが、『免疫組織化学染色(Immunohistochemistry, IHC)』は、スライスした組織などのサンプル中のタンパク質(抗原)を、そのタンパク質に特異的に結合する抗体を用いて検出する手法です。
まず、スライドグラス上のサンプルに、スパイクタンパク質などの検出したいタンパク質に結合する『一次抗体』を添加します。十分に反応させた後、これを洗浄し、目的のタンパク質に結合していない一次抗体を洗い流します。
次に、一次抗体に結合する『二次抗体』を添加します。二次抗体には『西洋ワサビ由来のペルオキシダーゼ(Horseradish peroxidase, HRP)』が、化学的に付加されたものを用います。これも一次抗体と十分に反応させた後、洗浄し、一次抗体に結合していない二次抗体を洗い流します。
最後に、サンプルに『ジアミノベンジジン(Diaminobenzidine, DAB)』を添加すると、二次抗体に結合したHRPの存在する部分が、ペルオキシダーゼの働きにより褐色(暗褐色)に染まります。
ただし、いつも上手く目的のタンパク質だけを検出できるとは限りません。
目的のタンパク質が存在しないにもかかわらず、サンプル上に現れてしまった褐色のシグナルのことを、『バックグラウンドシグナル』と呼びます。
以下、バックグラウンドシグナルが生じる主な理由を挙げます。
まず一つ目は、一次抗体が、サンプル中のスパイクタンパク質ではない他のタンパク質に結合してしまった場合です(これを『非特異的結合』と言います)。二次抗体は目的のタンパク質の有無にかかわらず、一次抗体に結合しますので、その部分が褐色に染まってしまいます。↓
二つ目は、二次抗体が一次抗体ではなく、サンプル中の他のタンパク質に結合してしまった場合です。二次抗体に付加されたHRPの存在により、その部分が褐色に染まってしまいます。↓
三つ目は、洗浄が不十分で、スライドグラス上に二次抗体が残ってしまった場合です。これも、二次抗体に付加されたHRPの存在により、その部分が褐色に染まってしまいます。↓
四つ目は、スライドガラス上にヒト由来のペルオキシダーゼが存在する場合です。二次抗体に付加されたペルオキシダーゼは西洋ワサビ由来ですが、ヒトも同じ働きをするペルオキシダーゼを持っています。したがって、免疫組織化学染色を行う前に、ヒト由来のペルオキシダーゼを働かなくさせる処理(=不活化)をしなければいけません。これが不十分だと、二次抗体(HRP)が存在しないにもかかわらず、その部分が褐色に染まってしまいます。↓
五つ目は、サンプル中に抗体が多量に存在する場合です。特に、炎症が起きている組織をサンプルとして用いる場合には注意が必要で、一次抗体ではない抗体に、二次抗体が結合してしまうことで、その部分が褐色に染まってしまいます。↓
以上、宮坂先生の投稿の内容を、図を加えて解説してみました。
これら、様々な理由により、免疫組織化学染色で『バックグラウンドシグナル』が生じてしまう可能性があります。
ここで、Michael Mörz医師が「脳のヌクレオカプシドタンパク質は『陰性』である」と主張するに至った結果を改めてよく見てみましょう。↓
ヌクレオカプシドタンパク質が存在しない(あるいは、存在しないと主張する)場合でも、この程度には、褐色のシグナルが見えることが分かります。
では、これと長崎大学の結果と比較してみます。
いかがでしょうか?
長崎大の結果は、著者に「この結果は『陰性』である」と言われたら、「そう言うんだったらそうなんだろう」と納得できてしまうレベルです。
実際、スパイクタンパク質が『陽性』の結果とは、大きな差があります。↓
だからこそ、第3回の記事で解説したように、連続切片で、「スパイクタンパク質は『陽性』であるが、ヌクレオカプシドは『陰性』である」という結果を見せる必要がある訳です。論文の著者が、どの程度の褐色のシグナルを『陰性』、すなわち『バックグラウンドシグナル』と見做しているかの基準にもなります。
それが、長崎大学の論文では示されていません。
長崎大学の論文は、『Internal Medicine』という日本内科学会の英文雑誌に査読を受け、掲載されました。しかしながら、Michael Mörz医師の論文より、ずっと質の低い論文であると言わざるを得ません。足りない情報が多過ぎます。
「心筋にスパイクタンパク質が存在することは絶対ない」とは言いません。
Michael Mörz医師が剖検した、mRNAワクチン接種の4ヶ月後に急性心筋梗塞で亡くなられた55歳男性は、身長180 cm、体重105 kgでした。健康状態の詳細は分かりませんが、BMI(体格指数, Body Mass Index)を算出すると「32.41」となり、これはWHOの判定基準で『肥満(1度)』に相当します(30.00〜34.99)。
もし、この亡くなられた方の心臓の血管にコレステロールなどの脂質が溜まっていて、そこに脂質膜で囲まれたmRNAワクチンが到達すれば、脂質(=『油』)同士の親和性により、局所的にmRNAワクチンが心筋の血管内皮細胞に取り込まれやすくなることがあるかもしれません。(あくまで私の想像です。)
今回の、長崎大学の「心筋でmRNAワクチンが検出された件」について、私だったら、これを根拠として、宮坂先生の過去の発言に対して謝罪を迫るなどということは絶対にしません。
議論で他人を殴りに行くならば、藁ではなくバットを持っていくべきです。(藁がバットのように見えているならば仕方ありませんが…。笑)
以上。
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※ この記事は個人の見解であり、所属機関を代表するものではありません。
※ この記事に特定の個人や団体を貶める意図はありません。
※ 文責は、全て翡翠個人にあります。
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追記)今回、Michael Mörz医師の論文が「正しいもの」として記事を書きました。しかしながら、前回の記事で解説したように、脳の結果は明らかに連続切片のようには見えません。
もし仮に、Michael Mörz医師が、意図的にそういうことをしてしまう人であるならば、心筋の結果も疑わしい可能性があるという意識を持って、私の記事を読んで欲しいと思います。
私が、心筋の結果にも疑問を感じた部分を一つ挙げます。
査読前の論文(プレプリント)と査読後の論文を比較すると、その著者の『主観的な部分』が、はっきりと分かります。
2つの論文を比較すると、プレプリントでは、『リンパ球性心筋炎(Lymphocytic myocarditis)』と記述されていた箇所が、査読後には、先頭に「Mild」が付き『軽度のリンパ球性心筋炎(Mild lymphocytic myocarditis)』という表現に全て変更されています。↓
査読者(レビュアー)は、心筋の結果を『客観的に』見て、「そうは言えないのではないか?(言い過ぎなのではないか?)」と、コメントしています。↓
そして、著者自身も「確かにその通りだ。」と納得して、論文の記述を修正しました。↓
最初、Michael Mörz医師は、誇張した表現を使って、論文を書いてしまっていた訳です。それが、査読前の論文(プレプリント)と査読後の論文を比較することで明らかになりました。
さて。ワクチン接種後に現れた兆候に疑問を持った御遺族から剖検を依頼されたMichael Mörz医師は、結果をフェアな立場から見ることができていたのでしょうか?
私はこれまで、ワクチンの危険性を訴える人たちの醜悪さを、いくつも目にしてきました。
私は今回、Michael Mörz医師の症例報告を「正しいもの」として紹介する構成で記事を書きました。しかしながら、研究者の『性善説』に、過度な期待を抱かないようにしてください。特に、ワクチン接種者を怖がらせる類の情報には注意が必要だと思っています。
以上。
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