6/16更新。追記あり。
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最後にこれだけは言わせてください。
結論から先に言えば、「mRNAワクチン接種がプリオン病を引き起こすという明確な科学的根拠はありません」。
日本では、8割近くの人が必要回数のワクチン接種を済ませ、今や街を歩く大多数がワクチン接種者です。その中には、mRNAワクチン接種のリスクとベネフィットを勘案せずに・あるいはできずに、学校や職場での半強制や、周りが接種しているからという理由で接種した人もいるでしょう。
現在、Twitterやnoteには、今回紹介する『プリオン仮説』をはじめとする『怖い話』があふれています。このような話題の中心にいるのは、ワクチンを接種していない人たちですから、その『怖い話』に際限はなく、ワクチンを接種したことを酷く後悔させるようなことを言う人もいます。
しかしながら、その『怖い話』は、正しい科学的根拠に基づいているのでしょうか?
今回は、mRNAワクチンに関する『怖い話』の中で、「数年後に発病するかもしれない」、「治療法がない」といった点から、私が最も怖いと感じた『プリオン仮説』について、まだ下書き状態のものになりますが、まとめたところまでを一つの記事として公開させていただきます。
私はTwitterとnoteにおける活動を止めますが、既にワクチンを接種された方のことだけが本当に気掛かりです。どうか『プリオン仮説』のような言説を見聞きしても、過度に不安にならないようにしてください。不安な心は健康を害します。
※ この記事は個人の見解であり、所属機関を代表するものではありません。
※ この記事に特定の個人や団体を貶める意図はありません。
※ 文責は、全て翡翠個人にあります。
※ こびナビの回答だけでは不安な方は、ぜひ読んでください。
(画像:https://covnavi.jp/wp-content/themes/covnavi/img/data_Mythbusters.pdf)
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以下、『プリオン仮説』の根拠論文として著名な2つの論文を紹介・解説します。
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J.バート・クラッセン(J. Bart Classen)の論文
結果(Results)より引用。
論文で登場する2つのタンパク質に関する説明。↓
論文の結果(Results)の続き。↓
J.バート・クラッセンは、「スパイクタンパク質のmRNAに「GGUA」や「UGリッチ配列」、「UGタンデムリピート」、「G四重鎖配列」と呼ばれる特殊な配列が存在することから、これにTDP-43タンパク質やFUSタンパク質が結合し、神経変性疾患発症の原因になるかもしれない」と主張している。↓(ただし、GGUAは、正確には「GGUAAGU」で、TAF15というFUSタンパク質に似た別のRNA結合タンパク質が結合する配列。)
ファイザー社のmRNAワクチンに含まれるスパイクタンパク質のmRNA(以後、正式名称『Tozinameran』と表記)の配列。↓
Ψは、ウリジン(U)と置き換えられた「シュードウリジン」を示している。
Tozinameranの全長4284塩基の中には、「UGUG(ΨGΨG)」が19個(図中赤文字)、「GGUA(GGΨA)」が4個(図中青文字)存在する。↓
J.バート・クラッセンの解析結果は間違い。↓
精製したTDP-43タンパク質は、3個の「UGリピート(UGUGUG)」に対し、マイクロモーラー(μM)オーダーで弱く結合することが報告されている。(「UG」が4, 6, 8個と増える毎に、結合力は1オーダーずつ増加する。)↓
同様の精製したTDP-43タンパク質(GST-TDP43)を用いた実験で、TDP-43タンパク質が結合するためには、mRNA中に最小6個のUGリピート(UGUGUGUGUGUG)が必要であるとする報告もある。↓
ヒトの脳内で、実際にTDP-43タンパク質が結合することが明らかになっている「UGタンデムリピート」と「UGリッチ配列」の例(図中赤囲み)。(「リッチ」=豊富にあるものの意)↓
(画像:https://www.nature.com/articles/nn.2778/figures/1)
このような配列は、Tozinameranの配列中に存在しない。
TAF15タンパク質(FUSタンパク質と同じFETタンパク質ファミリーに分類されるタンパク質)が結合する「GGUAAGU(GGΨAAGΨ)」は、Tozinameranの配列中に存在しない。
(画像:https://www.nature.com/articles/ncomms12143/figures/1)
FUSタンパク質が結合する「グアニン(G)四重鎖構造」を予測することは困難。
しかしながら、4個の「GGG」とその間に1~7個の塩基を含む配列が、同一平面上に4本の鎖が集まった特殊な構造(=「G四重鎖構造」、G4とも呼ばれる)を形成することが知られている。↓
(画像:https://www.ueharazaidan.or.jp/houkokushu/Vol.32/pdf/report/186_report.pdf)
Tozinameranの中に、G四重鎖構造を形成するために必要な4個の「GGG」とその間に1~7個の塩基を含む配列は存在しない。↓
結論:Tozinameranに、既知のTDP-43タンパク質やFUSタンパク質(TAF15タンパク質)が結合することを示唆する配列は存在しなかった。
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個人的な見解:この論文の最大の問題点は、「UGUG(ΨGΨG)」と「GGUA(GGΨA)」の数え間違いがあること。一般的な学術論文がそうであるように、解析結果を図示すれば、このようなイージーミスを防ぐことができたかもしれない。
Microbiology & Infectious Diseasesに掲載された「査読付き論文」であるということに対して、疑問が残る論文であった。
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George TetzとVictor Tetzの論文
このテッツ(Tetz)らの論文では、目的のタンパク質とプリオンタンパク質との類似性を評価するため、『PLAAC(Prion-Like Amino Acid Composition )』というソフトウェアを使った解析が行われた。
このソフトウェアの詳細。↓
試しに、プリオンタンパク質そのものをPLAACで解析した。
プリオンタンパク質は、253個のアミノ酸からなる小さなタンパク質。↓
(画像:https://www.thermofisher.com/blog/food/prion-disease-and-the-safety-of-our-food-supply/)
プリオンタンパク質が「異常型プリオンタンパク質(PrPSC)」に結合すると、正常型のプリオンタンパク質が連鎖的に異常型に変換され、プリオン病が進行すると考えられている。
(画像:http://virology.biken.osaka-u.ac.jp/old2/public_html/prion.html)
アミノ酸配列を見ると、「GXXXG(グリシン(G)というアミノ酸の間に3つの任意のアミノ酸が含まれた配列)」という、プリオンタンパク質としての性質を特徴付ける配列(=モチーフ)が、前半部分に重なりながら大量に存在する。
PLAACトップページの空欄に、プリオンタンパク質のアミノ酸配列をコピペする。
(画像:http://plaac.wi.mit.edu)
入力したら、右下の青色のボタン「Run Analysis」をクリックする。
解析結果。↓
一番上に表示されたグラフの横軸は、左端を先頭に種類毎に色分けされた253個のアミノ酸が並べられていることを示す。↓
縦軸は、赤色の曲線が「1」に近いほどプリオンタンパク質に類似した特徴を持つことを示す。↓
プリオンタンパク質のアミノ酸配列の中で、大量のGXXXGモチーフのあった部分が、ほぼ「1」になっていることを確認した。
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質(プリオンタンパク質の約5倍の、1273アミノ酸からなる)。↓
スパイクタンパク質の中に、GXXXGモチーフは5個。全体に点在している。↓
PLAACの解析結果。↓
テッツらの論文に掲載された解析結果と一致したことを確認(左上)。↓
(画像:https://www.preprints.org/manuscript/202003.0422/v1)
スパイクタンパク質の先頭から数えて約500個目のアミノ酸周辺に小さなピークが見える。↓
しかしながら、ここにGXXXGモチーフは存在しない。↓
スパイクタンパク質における「プリオンタンパク質との類似性」と「GXXXGモチーフ」は、無関係。
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質(S)は、ウイルス粒子表面の膜に挿さった「膜タンパク質」と呼ばれる種類のタンパク質。
(画像:https://www.cas.org/ja/resource/blog/covid-19-spike-protein)
【疑問】ヒトが本来持つ似たような大きさの膜タンパク質では、どのような解析結果になるか?
『上皮成長因子受容体(EGFR:epidermal growth factor receptor)』は、上皮細胞系、間葉細胞系、神経細胞系などの全身の細胞で発現している、ごくありふれた膜タンパク質。
(画像:https://www.proteinatlas.org/ENSG00000146648-EGFR/tissue)
細胞膜上のEGFRに「上皮成長因子EGF(発見者であるスタンリー・コーエンは、1986年にノーベル生理学・医学賞受賞)」が結合すると、細胞の増殖が促進されることが知られている。(EGFは、アンチエイジング成分として一部の化粧品に含まれる。)
(画像:https://els-jbs-prod-cdn.jbs.elsevierhealth.com/cms/attachment/316b23d2-7568-4871-b050-c9904487bb80/fx1.jpg)
また、EGFR遺伝子に変異が生じると、EGFが結合しなくても恒常的に細胞の増殖が促進され、がんが発生しやすくなると考えられている。(肺がん患者の約半数で、このEGFR遺伝子の変異が確認されている。)
EGFRは1978年に初めて同定され、それ以来、非常によく研究されているタンパク質。
ヒト上皮成長因子受容体EGFR(1210アミノ酸からなる)。↓
EGFRの中に、GXXXGモチーフは4個。↓(スパイクタンパク質は5個。)
PLAACの解析結果。↓
先頭から数えて約1100個目のアミノ酸周辺に、スパイクタンパク質と同程度のピークが見えるが、ここにもGXXXGモチーフは存在しない。↓
プリオン病は、「極めて稀な疾患」。
結論:PLAACを用いた解析で明らかになった『SARS-CoV-2のスパイクタンパク質』と『プリオンタンパク質』との類似性は、『EGFR』という一般的なヒトタンパク質にも見出された。
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個人的な見解:EGFRの解析結果は、スパイクタンパク質のPLAACを用いた解析手法と、その結果の解釈に問題がある可能性を示唆している。
科学実験における「ポジティブ・コントロール(=プリオン)」と「ネガティブ・コントロール(=EGFR)」の重要性について、考えさせられる内容の論文であったと思う。
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6/16追記)昨日、「解剖実習遺体からプリオン」というタイトルの記事を、Yahoo!ニュースなどの複数の大手メディアが一斉に報じました。
これにより、Twitterでは「ワクチン接種が原因では?」ということが話題になっているようです。
こういう科学関連の記事を見たら、必ず原著論文や、英語が苦手な方は、大学のプレスリリースをチェックするようにしてください。(記事中に直リンクのない記事は、私は信用していません。)
長崎大学のプレスリリースはこちら。↓
原著論文はこちら。↓
論文には、異常型プリオンタンパク質(PrPSC)が検出された御遺体についての情報が書かれています。
2021年度の人体解剖実習に用いるためにご提供いただいた御遺体ですが、8年前に亡くなられた方の御遺体です。新型コロナワクチンと無関係であることは明らかです。