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脳からmRNAワクチンが検出された件について

「○○からmRNAワクチンが検出された!」をシリーズ化していこうと思います。
今回は第3回。母乳、肝臓と続き、今度は『脳』です。

根拠となった論文は、10月1日にVaccinesという雑誌に掲載された、Michael Mörzというドイツの医師による症例報告です。
前回と同様、私が「ホンマかこれ?!」と思った部分について解説していきます。大事なことなので繰り返しますが、私は、「論文の著者が嘘を吐いている」などと言うつもりはありません。ただ、論文の結果に疑問があり、これを正しいものとして議論を進めることに違和感を感じるということです。

A Case Report: Multifocal Necrotizing Encephalitis and Myocarditis after BNT162b2 mRNA Vaccination against Covid-19
訳)COVID-19に対するmRNAワクチン(BNT162b2)接種後の多巣性壊死性脳炎と心筋炎の症例報告
by Michael Mörz
Published: 1 October 2022

https://www.mdpi.com/2076-393X/10/10/1651

こちらは、3回目の新型コロナワクチン接種の3週間後に亡くなられた、重度の運動障害を伴うパーキンソン病77歳男性の症例です。1回目は、アストラゼネカ社のアデノウイルスベクターワクチン(ChAdOx1 nCoV-19)、2回目と3回目は、ファイザー社のmRNAワクチン(BNT162b2)でした。不幸なことに、1回目のワクチン接種で心疾患を発症してしまいました。2回目のワクチン接種後には行動と心理的な変化が見られ、パーキンソン病の症状が著しく進行しました。そして、3回目のワクチン接種後に誤嚥性肺炎で救急搬送されました。亡くなる前に、基礎疾患(パーキンソン病)と矛盾(ambivalent)する臨床症状が見られたため、おそらくこれに疑問を持った御遺族から剖検を依頼されたそうです。

今回の記事のキーワードは、『免疫組織化学染色』『連続切片』です。

『免疫組織化学染色(Immunohistochemistry, IHC)』は、スライスした組織などのサンプル中のタンパク質(抗原)を、そのタンパク質に特異的に結合する抗体を用いて検出する手法です(リンク先動画参照)。

免疫組織科学染色では、検出したいタンパク質のある部分が褐色に染まります。

ヒト肺がんで、ALKと呼ばれるタンパク質を高レベルに発現するサンプル(左)と、低レベルに発現するサンプル(右)。

ただし、同じサンプル中の異なる2つのタンパク質を同時に検出することはできません。両方とも同じ褐色に染まってしまうからです。
その場合には、『免疫蛍光染色(Immunofluorescence, IF)』という別の手法で、蛍光色素の付いた抗体を用います。下の図は免疫蛍光染色の一例ですが、緑色の蛍光シグナルがスパイクタンパク質を、赤色の蛍光シグナルがヌクレオカプシドタンパク質を示しています。これはSARS-CoV-2感染細胞なので、緑色と赤色の両方が光って見えます。これに対し、mRNAワクチンが取り込まれた細胞であれば、スパイクタンパク質の緑色の蛍光シグナルだけが見えることになります。

免疫蛍光染色によるスパイクタンパク質とヌクレオカプシドタンパク質の検出(画像:https://insight.jci.org/articles/view/139042/figure/1)

一般に、同じサンプル中で複数のタンパク質を同時に検出したい場合には、免疫蛍光染色が適しています。しかしながら、蛍光シグナルを観察するために必要な蛍光顕微鏡が、必ずしも手元にあるとは限りません。Michael Mörz医師の所属する市立病院(Municipal hospital)のようなところであれば、なおさらでしょう。

免疫組織化学染色で同じサンプル中の異なる2つのタンパク質を検出したい場合には、スライスしたサンプルの連続した2枚のサンプルを用います。これを『連続切片』と呼びます。(下の動画は、連続切片を作製する様子です。)

これにより、免疫組織化学染色でも、同じ場所で異なる種類のタンパク質を検出することができます。

剖検を依頼されたMichael Mörz医師は、御遺体の脳のサンプルをスライスし、市販のスパイクタンパク質に特異的に結合する抗体を用いて、スパイクタンパク質を検出しました。

脳の前頭葉におけるスパイクタンパク質は陽性(Figure 9より)

そして、連続切片で、ヌクレオカプシドタンパク質が検出されないことを確認しました。これにより、スパイクタンパク質が検出されたのは、SARS-CoV-2感染細胞ではなく、mRNAワクチンが取り込まれた細胞であることが分かります。

脳の前頭葉におけるヌクレオカプシドタンパク質は陰性(Figure 11より)

Figure 11. Frontal brain. Negative immunohistochemical reaction for SARS-CoV-2 nucleocapsid protein. Cross section through a capillary vessel (same vessel as shown in Figure 9, serial sections of 5 to 20 µm). Magnification: 200×.
訳)図11. 脳の前頭部。SARS-CoV-2のヌクレオカプシドタンパク質の免疫組織化学反応は陰性。毛細血管の断面(図9と同じ血管、5〜20µmの連続切片)。倍率:200倍。

ここまでが、一般的なこの論文の解説記事になるかと思います。「mRNAワクチンのスパイクタンパク質で脳炎が!」と主張するに足る十分な根拠となりました。

さて。ここで終わらないのが私の記事。
免疫組織化学染色の結果の見方も分かったところで、Michael Mörz医師の他の症例報告も見てみます。

A Case Report: Acute Myocardial Infarction, Coronal Arteritis and Myocarditis after BNT162b2 mRNA Vaccination against Covid-19
訳)COVID-19に対するmRNAワクチン(BNT162b2)接種後の急性心筋梗塞、冠状動脈炎および心筋炎の症例報告
Online: 5 September 2022

https://www.preprints.org/manuscript/202209.0051/v1

こちらはプレプリントで報告された、2021年5月にアストラゼネカ社のアデノウイルスベクターワクチン、2021年7月にファイザー社のmRNAワクチンを接種し、その4ヶ月後、2021年11月に急性心筋梗塞で亡くなられた55歳男性の症例です。
Michael Mörz医師の2つの症例報告で、両者とも1回目のワクチン接種がウイルスベクターワクチン(=スパイクタンパク質をコードする『DNA』を導入するタイプのワクチン)であったことは、少し興味深いです。

(画像:https://tus-alumni.risoukai.tus.ac.jp/alumni-news/新型コロナウイルスのワクチン情報とコロナ禍で/)

Vaccinesに掲載された論文と同様、御遺体の心筋をスライスし、その毛細血管内皮細胞で、スパイクタンパク質が発現していることを確認しました。

心筋におけるスパイクタンパク質は陽性(Figure 13より)

一方、連続切片のヌクレオカプシドタンパク質を検出した結果、褐色は全く見えません。したがって、スパイクタンパク質が検出されたのは、mRNAワクチンが取り込まれた細胞であることが分かります。(もしかすると、ウイルスベクターワクチンが取り込まれた細胞かもしれません。)

心筋におけるヌクレオカプシドタンパク質は陰性(Figure 14より)

この2枚の画像の血管の位置などを見れば、これらが連続切片であることに疑いはないと思います。

プレプリントのFigure 13とFigure 14の比較

しかしながら、脳の方はどうでしょうか?
当然、Michael Mörz医師は、連続切片でスパイクタンパク質とヌクレオカプシドタンパク質を検出することの重要性を理解しているはずです。

Vaccinesに掲載された論文のFigure 9とFigure 11の比較

あなたには、どう見えていますか?
Vaccinesに掲載された論文のFigure 9とFigure 11の2枚の画像が連続切片に見えるのであれば、この論文を根拠に「mRNAワクチンのスパイクタンパク質で脳炎が!」と主張すれば良いと思います。
しかしながら、連続切片に見えないのであれば、この2枚の画像は別の場所を見ている可能性があり、これを根拠にすべきでないことは明らかです。

何度も繰り返しますが、私は、論文の著者が嘘を吐いているなどと言うつもりはありません。
誰もが納得できる結果を元に、議論が深まることを期待しています

以上。

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※ この記事は個人の見解であり、所属機関を代表するものではありません。
※ この記事に特定の個人や団体を貶める意図はありません。
※ 文責は、全て翡翠個人にあります。
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