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銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE

2016年から活動しているセルパブSF雑誌『銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE』のnote版です。
明るく楽しく激しい、セルフパブリッシング・エンターテインメント・SFマガジン。気鋭の作家が集まって… もっと詳しく
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2020年7月の記事一覧

【ちょっと上まで…】〈第九部〉『リリクの一番長い日』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ # <<【 第八部】 へ            >【第一部】から読む< ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 〈第九部〉 『リリクの一番長い日』 ――― プロローグ~今・海面 急に暗くなって振り返る。空から見た時に西側に広がっていた大地の大部分は、もうほとんどが水平線に隠れてしまっていた。  高層に浮かぶ薄雲からの反射で、周りの海面が赤紫がかった茜色に彩られている。  世界中が

アンフォールドザワールド 17

17  イチゴは姿勢を正して、私のことを見つめる。 「きずな、よく聞いて」 「おう」 「今からきずなの意識を、元いた世界に送り返す。おそらく、動ける時間は一瞬しかない」 「私はいま、ナニガシの中にいるんだろ?」 「そうだよ。きずなの体に意識が戻ったら、しっかりと目を開いてよく見るんだ。目の前にナニガシの心臓があるはず」 「うん」  私は、イチゴの言葉を少しも聞き漏らさないようしていた。 「目を開いて、ナニガシの心臓を攻撃しろ。あとは俺がなんとかする」 「わかった! 簡単じゃ

アンフォールドザワールド 16

16「イチゴ?」  呼びかけても反応がなかった。イチゴは私の方を向いているけれど、その水色の瞳はどこか遠くを見つめているようだった。  イチゴが黙ってしまったので、私は仕方なく、テントの中を眺める。 「ベッド、一つしかないんだな。フータやミッチと一緒に暮らしてるんじゃないのか」  二十畳くらいの丸いテントの中には、絨毯が敷かれ、木で作られた座卓といくつかの長方形のチェストが置かれている。着替えなどはテントの木枠に、無造作にかけられている。  改めて、イチゴのことを観察する。白

アンフォールドザワールド 15

15 フータに腹を殴られ、悲痛な叫び声を上げる巨大ナニガシが、私の上に覆いかぶさってくる。 「うわ、うわああああっ! いやだ、いやだっ!!」  湿った柔らかい皮膚が、私の体を包み込んでいく。鼻に、口に、ナニガシの体が入ってくる。腐った半熟卵みたいな、どろりとした半固体。 「きずな、手を!」 「イチゴおおおっ! 助けっ、あああっ、がはっがっ……」  濁った水中から見たような景色。ナニガシの体の向こう側で、イチゴが私に手を差し伸べている。右手に持った短剣でナニガシの体を切り裂き、

アンフォールドザワールド 14

14  ミッチの撃った弾が足に当たり、ほのかを抱えたままのナニガシが体勢を崩す。続けてもう一発、肩を撃つ。それとほぼ同時に、フータがほのかを奪い返す。 「ほのかちゃん、だっかーん!」  ほのかを抱きかかえ、フータが私のそばに戻ってくる。リバーサイドモールの建物が、今にも倒壊するのではないかというほどに、揺れ続けている。 「フータ、三人を連れて外に出ろ!」  ミッチが私たちの方を振り返った瞬間、ナニガシがエレベーターのドアから四足歩行で這い出てくる。  ドオン!  ちかこのカメ

アンフォールドザワールド 13

13  リバーサイドモール三階のフロアで、私たちはナニガシと対峙していた。エレベーターのそばに積まれた床材の後ろに潜んでいるが、軽自動車ほどもある黒い体を完全に隠しきれてはいない。 「きずな先輩、背中がガラ空きです」 「お、おう」  私はちかこの真似をして、太い柱に背中を寄せ、ナニガシの様子を窺う。  ノートに貼られたシールは、白くなっていたのがまた赤く戻り、白抜きの模様が現れる。気のせいか、さっきとは違う文字に見える。 「この記号のようなものは、残り弾数を表示しているので

アンフォールドザワールド 12

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アンフォールドザワールド 11

11  私に殴り倒され、オープンカフェのテーブル席に倒れこんだイチゴを、周囲の客は見て見ぬふりをしていた。 「すみません、当店での撮影はご遠慮ください」 「ああ、すみませんでした」  カフェの店内から慌てて出てきた店員に対し、ちかこは素直に謝罪し、カメラをトートバッグにしまう。一人でも目立つ服装のクラウドイーターが三人も揃っているし、ちかこはカメラを構えているしで、なにかのコスプレ撮影とでも思われたのだろう。 「イチゴが動かなくなったな。リブートを待つのもめんどうだし置い

アンフォールドザワールド 10

10  川沿いのオープンカフェに風が吹き込んでくる。海が近いせいか、かすかに磯の香りがする。イチゴは手付かずだったオレンジジュースを一口飲んで、酸っぱかったのか、少しだけ眉をひそめる。 「きずな先輩」 「え?」 「交渉をしてください」  同じテーブルに座るちかこに、軽く脛を蹴飛ばされる。 「あっ、そうか。えーっと、イチゴ!」 「うん」 「あんたとナニガシが映っているこの動画を削除して欲しいんだったら、ほのかを返せ! それからいま、私たちのまわりでなにが起こっているのか、ちゃ

アンフォールドザワールド 9

9 夕方の緑道は、買い物帰りの主婦や、遊びに行く子供がたまに通る程度で、人の姿は少ない。  ほのかは既にナニガシにやられているかも知れない。ミッチ・クラウドイーターはそう言い残して、霧のように姿を消した。 「やられているってなんだよ。どういう……」 「許せません、ミッチ・クラウドイーター」  SDカードを抜き取られたカメラを握りしめ、ちかこは怒りに震えていた。 「そんな、ほのかになにかあったって決まったわけじゃ……」 「撮影したデータを奪われました。ようやく、決定的瞬間が撮れ

アンフォールドザワールド 8

8「え、イチゴじゃないの?」 「うん、イチゴ・クラウドイーターは俺の兄ちゃん。あれ、弟だったかな。まあどっちでもいいけど」  膝にくっついていた米粒を拾って口に入れてから、フータ・クラウドイーターと名乗った男は立ち上がる。私よりも十五センチくらいは背が高い。細身の体型で、さっき十トントラックを持ち上げたとはとても思えない。そもそもどんなに筋肉質でも、普通の人間はトラックを背負ってジャンプしたりはしない。 「さっきからこっちを狙ってるそれ、なんなの? えーっと、ちかこちゃん」

1-05. 絶対に押すなよ?

 土曜の朝。右隣のお布団ではキヨくんが寝ていた。私は布団を抜け出して、隣の洋室に移動した。 (昨夜の寿命シャンプーの件、どうしたらいいんだろう?)  私の勘は「ダメ、ぜったい」と、麻薬の標語のような警告を発していたけど、それを伝えても、キヨくんは反論してくると思う。言い合いするのも疲れるぐらいに、アレコレと変な理屈を言ってくるのが、いつものパターンだから。  紅茶の入ったマグカップを片手に、洋室をうろうろと歩いて行ったり来たりしていたら、視界の端にあの人形が映った。「ス

アンフォールドザワールド 7

7 ほのかが戻ってこないことは心配だった。だけど、だれかに連れ去られたところを見たわけでもないし、ふらりと興味を惹かれる方へ行ってしまっただけで、またすぐに戻ってくるんじゃないか、なんて思っていた。先生たちもどこかしら楽観的というか、最悪の事態を想定することを避けているように見える。 「大人たちからは、思春期女子にありがちな家出や夜遊びの類だと思われていますね。おそらく」 「ほのかもわりと、そういうところがあるからなあ」 「ほのか先輩が家出をするように見えますか?」 「親に反

アンフォールドザワールド 6

6 一時間目の授業中だというのに、私たちは放送室に呼び出されていた。放送部顧問の本城先生は、私とちかこのことを疑いの目で見ている。 「なあ三好、本当のことを教えて欲しいと言っているんだ」 「だからあ、なんどもゆったじゃないすか。ほのかが三階の窓から落ちたんじゃないかと思って、校庭を見に行ったら、水色の髪で銀色の服を着た男子が穴の中に落っこちてたんですよ」 「警察に捜索願が出されたんだぞ。仲谷は昨晩、自宅に戻ってない。三好の言っていることを信じていいのか? 結城」 「そうですね