(読書感想文)原田ひ香 『DRY』
・あらすじ
北沢藍は職場の上司と不倫して、二人の子供を置いて家を出た。十年ぶりに実家に戻ると、男にだらしない母と、お金にがめつい祖母がうら寂しく暮らしていた。隣に住む幼馴染の馬場美代子は家族を見送り、今は祖父をひとりで看ている。介護に尽くす彼女は、孝行娘とあがめられているが、介護が終わったその先はどうやって生きていくのだろうか。実は彼女の暮らす家には、世間を震撼させるおぞましい秘密が隠されていた。注目の作家初のクライムノベル。
・感想
女性の貧困問題がテーマとあるから社会提議するような真面目な内容かと思ったらなんじゃこりゃ…予想していた内容とはだいぶ違ったが、めちゃくちゃおもしろかった。
何を書いてもネタバレになってしまいそうだが、まず、なにより藍ちゃん一家が総じて下品すぎておもしろい。貧乏とかもうどうでもよくなるくらい人として品性下劣で最高におもしろい。まぁここまで品性下劣なのは貧乏だからだと考えると確かに貧困問題の深刻さを読む側に訴えてきてはいるのだろうか。お金がないってこういうことなのでせうか。怖い怖い。
藍ちゃんの不倫相手の言っていた言葉がまさに言い得て妙で、わたしがそれまで藍ちゃんに感じていた違和感を分かりやすく言葉にしてくれていたな。
途中からめちゃくちゃふざけた流れになるが、ふざけた中にも介護問題の難しさや切実さをヒシヒシと感じられて、むしろふざけたテンションだからこそ、その切実さが痛いほど伝わってきてしまった。人は必ず老いてゆくものだし、老いた家族の面倒を見るというのは必然といえば必然なのかもしれないが、介護に狂わされる人生というのが確かにあって、難しいねえ。
そしてめちゃくちゃふざけてて笑いながら読んでいたのに最後はしっかり泣かせてくるのね。40歳の美代ちゃんはどんな気持ちであの言葉を言ったのだろう、と思うとやるせない気持ちになってしまう。ああやって思い至るまでにどんな苦悩があったのだろう。
原田ひ香さんは『ランチ酒』しか読んだことがなかったため、こういうお話も書くのだな〜とびっくりした。『ランチ酒』もすごく好きだったが、こっちの路線とても好きだ。貧困問題とか真面目なクライムノベルとして読むと肩透かしくらうかもしれないが、本当の貧困ってたぶんこういうことなのだろうね、という視点で読むととても面白かった。ある意味一番リアル。