見出し画像

別れる前の息子と、別れてからの息子はちょっと違う

 まだ言葉も話せない頃の息子に、夫が出張で10日ほど会えないのだと、何とか伝えたかった。
 日めくりカレンダーみたいな物を作り、寝る前になると「今日は○○をしたね」と、簡単な絵を描いて息子の反応を確かめる。

 息子は言葉が少し遅く、でも理解しているのは伝わっており、数字や文字の理解だけが先走っていた。心配は尽きなかったけど、お父さん大好きな息子に、またしばらくするとお父さんと会えるよ、と伝えたくて。数字が好きなら伝わるんじゃないかと最初から日にちを書き込んでいた。カレンダーとも照らし合わせながら、伝われ~と願った。
 「今日は〇日だよ。今日は~~をして楽しかったね。もうお休みぃってするだけだね。ねんねだね」と話し、紙をめくっていく。そして夫が帰ってくる日に「ほら! 父ちゃんと会えるね~!」と言うと、息子がぱああぁっと目を輝かせてニコニコ笑う。減っていく枚数も数えながら「楽しみだね」と毎晩繰り返した。

 息子が幼少期、夫の長めの出張があると息子と二人きりの時間が大変過ぎたので、私の両親宅で過ごさせてもらった。

 夫が帰宅するころに合わせて両親と別れる時も、それはそれで理解しているようだった。少し寂しそうな表情をするけど、離れた後はサッパリしたもので切り替えが早い。あまりの切り替えの早さに「わかっているのかな」とよく笑わせてもらった。

 幼稚園に行くと、年中さんの半ばで大の仲良しクンの引っ越しが決まった。
 引っ越し当日は何だかモジモジしていたけど、仲良しクンの方がその辺の感性が繊細で、辛そうだった。
 「バイバーイ!!」と少し車を追いかけた後は、またサッパリと切り替えてしまった。
 でもその後、吃音がひどくなり、何か月間もストレスを抱えているようで、対応が大変だった。別れた後の影響を日々、実感していたのだろうと想像している。

 幼稚園の卒園式では、皆ほとんど泣いていない中、息子は顔を歪ませて何度も涙を拭いていた。仲良しの子と別れたことで、別れがどういうものかを少しは知ってしまったのかもしれない。

 その後、夫の短い出張で「見送りに行けば良かった」と泣いたのは小学校4年生の頃。

 夫の後輩の結婚祝いで、夫の知り合い家族たちと集まったら、子供たち同士の気が合ってワイワイ騒いだ後、夜寝る前に「楽しかった。帰りたくない」と泣き出した。でも翌朝起きるといつも通り。

 小学校の卒業式も、楽しい小学校生活じゃなかったのに泣いていた。


 そのうち涙を見せなくなって感情は少しわかりにくくなっていった。
 ただ別れた後に寂しくなったり悲しさがこみ上げてきたりするよりは、その前の方が辛く感じるタイプなのかな。振り返ってそう感じる。

 大学生になって初めての一人暮らしを始める時も、ずいぶん心細い表情をしていたけど、別れの寂しさとは別だったような印象。最初の一週間は適応が大変だったようだけど、そのうち自分の城を楽しめるようになっていった。

 夏休みに戻ってくるのも特別楽しみなようには見えなかったのに、後期が始まる前には「寂しい」と言い始めた。
 「大変だよね、勉強もして、友達も作れない状況で、一人で家事もしなくちゃならなくて面倒だし」「父さんの出張が長い時、行こうか?」と話すと「いや一人になっちゃえば大丈夫。行く前と当日が寂しい」と言う。「そっか。寂しいよね」と背中をさすると「ありがとう」とゴキゲンになって、またアッサリ自分の部屋に戻っていく。

 この前、掃除や片付けなどヘルプに行くと、私が帰る数日前から「寂しい」を連発していた。「寂しいなあ。母さんは寂しくないの?」と眉を八の字にして聞くから困る。
 私は寂しいよりキミが心配だ。と伝えると「心配? でも前回より僕は、ゴミ出しだとか料理だとか家のことをどうすれば良いかわかってるし、対面授業やオンライン授業にも慣れてきたよ」と言う。

 うむ。そうだね。
 いや。違うんだよ。そういうのが心配じゃないのよ。キミが「寂しい」と思う気持ちを抱えて過ごす日々だとか、急に心細くなったり寂しさに心折れそうになったり、孤独を実感したりする日を想像すると辛いし心配なんだよ。
 とは言わない。それは私の感じ方なのだろうから、そこは軽く「そうだね。寂しいよ」と言っておく。すると息子はちょっと安心したような顔して「肩こった」「肩もんでもらえるのは、親がいる時の醍醐味だよね」と背中向けてくる。


 ……。


 良いなあ。親に向かって素直に「寂しい」なんて言えて。私がそういう風に話せる雰囲気を作ってこれたのだ! と思うようにしよう。

 やっぱり息子は別れる前の方が苦手なようだ。何でもそうで、先を考えて面倒くさがったり緊張したりするタイプ。私とちょっと違う。
 で、いったん離れると、「意外と大丈夫なんだよ~」と楽しそうに過ごしていて、全然強がってもなさそうな表情に拍子抜けするのだ。寂しく感じる夜もあるのだろうけど、自分のペースで暮らすのは向いている様子。
 最近もそれなりに楽しそうで何よりなのた。


#エッセイ #別れ際 #別れてから #息子 #寂しがる #思い出 #親子関係

読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。