見出し画像

心に生き続ける思い出は、たくさんあった方が良いなあ~葬送のフリーレン~

 漫画を気に入ると、何度も読んでしまって、「もうさすがに飽きてきた」と思わないとなかなか次に行けない。
 食事もゲームも音楽もその傾向があるけど、漫画までそういう楽しみ方をするとは自分で思っていなかった。
 なので「漫画読むの好き」と言ったところで、そんなにたくさんは読んでいない。有名どころも多くを読んでいない。
 結婚してからは夫が「面白かったよー」と紹介してくれて、自分で好きそうなものを夫の本棚から選び、読み始める。最近はサブスクなのかな。ネットで読んでいるのかよく知らないけど、本当に面白いと思った物は紙でめくれるように本そのものを買っているはず。

 枕元にはリラックスする大好きな本を置いておく。「星の王子さま」は何度も読んで内容は知っているけど、読みながらその世界が頭に描けるような感覚になる。大好きで、それでいてリラックスするようで読んでいるうちに眠れてしまう。
 退屈な本を読んでいると眠れるとかいうけど、私は退屈な本はイライラしちゃって読んでいられない。大好きと言っても刺激が強い本だと感情がたかぶるのか、それもそれでやはり眠れない。
 「星の王子さま」は、大好きでリラックスして、ほど良いのだ。

 そしてそれと同じくらい、大好きでリラックスする漫画が「葬送のフリーレン」。

 何度も何度も読むのに、「読む度に新しい発見!」もそれほどないのに、繰り返し読んでも大好きだしリラックスしちゃう。

 エルフのフリーレンが魔物を退治しながら冒険する話。トーンが全体的に落ち着いているからだろうか。怖いシーンも静かな雰囲気。あまり激しく叫んだりしないし熱量がそれほど感じられない。アツくなくて、戦闘シーンすらサラッと描かれている。

 勇者一行が10年の冒険の末に魔王を退治し終わったところからストーリーが始まる。
 ゲームで言えば、クリア後の世界。

 魔王を退治しても、魔物や魔族は絶滅したわけではなく、その後も人々の暮らしを脅かす。
 特に魔族は、人間の姿かたちをして、言葉を操るから厄介で。その言葉はわかり合うためのものでなく、あざむくためにある。
 家族の概念がないのに、「お父さん」「お母さん」「子供」などの言葉を出すと人間がその言葉に心を動かされたり、同情したりするのを知って言葉に出し、油断させ、容赦なくおそってくる。

 魔王を倒してからフリーレンは別の目的で、主にフェルンシュタルクと冒険を始める。
 その旅をしながら、フリーレンの中で勇者一行との10年の思い出が生きているのだと、読んでいて伝わってくる。

 人間が長くて100年の寿命としたら、ドワーフは寿命が300年くらいあるようで、エルフは1500年~2000年くらいあるのだろうか。
 だからエルフにとっての10年の冒険て、人間にとっての10年とはちがって、きっとすごく短い。
 
 それだけ長く生きるからなのか、フリーレンは心の変化があまり激しくなく、人の心の変化にも鈍感な方で、空気も察しない。冷たい言葉も淡々と発する。
 それでもその10年の冒険が、フリーレンの人生を大きく変える。

 そんな過去の勇者一行は、僧侶のハイター。戦士でドワーフのアイゼン。剣士で勇者のヒンメル。そして魔法使いでエルフのフリーレン。
 ハイターとヒンメルはいわゆる人間の寿命。フリーレンにとっては「すぐ年とってすぐ死んじゃう」人間だけど、彼らとの体験、数々の思い出がフリーレンの心を動かしていく。
 二人の老いや死で、人を知ろうと強く思う。

 フリーレンが涙を見せるのは、今のところそのたった二回。


 これだけ表情が崩れるのもたった一回。
 「その人を知りたかったはずなのに失ってしまった」思い。
 「人を知りたい」気持ちが、まぎれもなく今回の冒険のきっかけとなっていて、フリーレンのすべてを突き動かしているのだろう。

 フリーレンの長く暮らしている中で、その10年だけでなく、1000年ほど前に魔法を教えてくれた人間フランメの存在も大きい。
 フランメはフリーレンの村が魔物におそわれた時にフリーレンを救った大魔法使い。でも人間の寿命なので、フリーレンに様々に魔法の修業を教え

「いいか、フリーレン。歴史に名を残そうなんて考えるなよ。目立たず生きろ。お前が名を残すのは、魔王をぶっ殺すときだ」

と言い残し、この世を去る。
 回想シーンの中でもフランメは年を取っていき、それほどたくさん出てこないのだけど、私はこの彼女がとっても好き。

 長生きってこういうことなのよなあ。
 短い生命を見送り、その思い出と共に生きる。人間とペットとの関係も少し似ているし、歳を重ねた人にとっての若い人たちってこんな感じなのではないかと想像する。既に50代の私でさえ、若い人たちとの会話にフリーレンの思いを感じる。

 思い出を振り返ってばかりじゃいけないんじゃないかと以前の私は思っていた。noteに思い出ばかり書いているのってどうなのとか。
 
 「葬送のフリーレン」を読みながら、思い出がグルグルしがちな私でも良いのだと思える。それもたくさんあって良いって。
  
 自分の心を動かすような思い出ももちろん良いけど、何かの拍子にふと思い出されるものだから、特に強く心を揺さぶられなくたって良い。何かを感じたら、自分のどこかに影響されている。時々思い出すのならそれは自分を動かしていることの一つなんだ。

 そんな風に思わされる言葉の数々。

 フリーレンは過去の言葉を思い出しながら、今の人間関係を受け入れて生かしていく。そうやって目の前にいる人たちがどんな思いなのか想像をめぐらす。彼女が思い出す、好きなセリフがたくさんあるので、一部を紹介したい。

アイゼン手が震えてる。怖いの?
「ああ」
あっさり認めるんだね。
「怖がることは悪いことではない。この恐怖が俺をここまで連れてきたんだ」

「葬送のフリーレン」アイゼンの言葉より

「アイゼンは辛く苦しい旅がしたいのかい?
僕はね、終わった後にくだらなかったって笑い飛ばせるような楽しい旅がしたいんだ」

「生きているということは誰かに知ってもらって覚えていてもらうことだ」
覚えていてもらうためにはどうすればいいんだろう?
「ほんの少しでいい。誰かの人生を変えてあげればいい。きっとそれだけで十分なんだ」

「葬送のフリーレン」ヒンメルの言葉より

「本当は私の心は子供の頃からほとんど変わっていません。理想の大人を目指して大人の振りをしてそれを積み重ねてきただけです。きっと私は死ぬまで大人の振りを続けるでしょう」

「葬送のフリーレン」ハイターの言葉より


 静かで、穏やかで、残酷で、でも人間への愛を感じるストーリー。

 9月からテレビ放送開始ですって。11巻も出るぞ。
 楽しみ!!!


この記事が参加している募集

#マンガ感想文

20,365件

読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。