理系の人が薦めてきた文学本から三冊

 前回、子供が幼い頃に読んだ本について書いた文を載せた。その夜、まだ本のことが頭にあり、お風呂に入っていて何となく思いめぐらせていたら。


 あっ!シマッタ!

 いや、しまってはないけど!!

 夫と結婚する前に薦められた本を何冊か書いておきたかった。時系列を間違った!

 と気が付きました。はっ!とし過ぎて、お風呂の中で、ほんの少しだけガバッとお湯を波打たせて座り直した。んじゃないかな。

 いやあ、ごめんよ夫。良い本薦めてくれていたのにね。

 まだ付き合っていた「彼」の頃に薦められた本がありまして。理系の人がそんな文学的な本に興味があるんだと新鮮な思いがして、自分が読んでいなかったものだから、なおさら興味津々で読んだのを覚えている。


 まずは高橋源一郎の『さようなら、ギャングたち』だ。


 こんなに感性頼りに読んだ本は、初めてだった。SF小説のようにすら思える、どのようにでも読める作品だ。詩のようでもあり、とても現代的。ポップってこういうことをいうのかな。軽くはないけど、軽いタッチで書かれてある。こうかな、ああかなと自分自身の読み方に不安を覚えながら読み進めていたのだが、突然ブワーッと涙がこみあげてきて、止まらなくなった。傷口がヒリヒリするような刺激を感じる本だった。高橋源一郎は近未来を見ていたのかなと、今になって彼の思索の世界にまた思いを巡らせることがある。

 次に印象に残ったのは、谷川俊太郎の『空の青さをみつめていると』。

 空を見ていると恐ろしくなってきて、宇宙のことを考えるのが怖いと思うことがある。ということを夫となる「彼」に話した。さらに18歳頃に観た映画『いまを生きる』で詩の世界が広がり、感傷とか思いをそのままも良いけれど、詩の、生々しく文学的な側面を知って素敵だなと思った。そんな話をしたら貸してくれたのがそれだった。
 その中の「二十億光年の孤独」は有名だろう。もちろん感性を刺激され、胸がいっぱいになる。私はそれ以上に「六十二のソネット」が一番好きで、

「そのあいだに他の星たちは何をしているのだろう  黙つてひろがつていることにどんな仕方で堪えているのか」

という言葉に特にグッとくる。こういったフレーズを読んで、世界には似たような感性を持っている人たちがたくさんいるのだと思えて安心した。それと同時に、谷川俊太郎がそれを言葉にして表現できる凄みを感じた。もっと幼い頃に読んだ絵本や詩しか印象になくて、知らなかった。


 そして、ダニエル・キイスの『アルジャーノンに花束を』。

 これをそれまで知らなかったことを恥じるくらい、素晴らしい小説だった。周りの人々の探求心が残酷で、主人公チャーリイの立場は、今の人工知能に対してのテーマのようでもあり、障害を持って生まれた人、そして障害を負った人たちの心情のようでもあり、そして人間の、みんなの一生でもある。

 すべての人々が、チャーリイの立場を知るのではないだろうか。
 ごくわずかでも、一瞬でもその気持ちを知ることはあるだろう。それに対して向き合わなければいけない現実を、彼は必死で受け止めようとしている。様々な思いに葛藤しなければいけないことを知る。好きな女性のこと。過去の家族関係。それらの意味、トラウマと闘う彼がとても辛い。賢いことだけが幸せなのか。それらを乗り越え始めた頃に始まる退化。退化なのかわからないけど。それが主人公の目線で書かれていることによって、読む側の気持ちの入り方も違う。

 人が驕ること、本当の優しさ、強さを語り、過去の影にもがき苦しみ、自分が衰えていくことやコントロールできない感情を恐れる。人間の本質をよく見つめよと訴えるこの本に、私はまだ未熟者だと思い知った。

 読み終わった瞬間に、自分の知っている人すべてに知らせたくなった本である。

 この三冊を読んだことで、夫をより知ることができた。理系の人も文学本読むのねと自分の偏見にも気が付いた。
 私たちを結び付けたものは、音楽だけでなく、本でもあった。
 この大事な過程をうっかり忘れて、前回は一気に子育てまで飛んじゃってました。


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