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「めでたしめでたし」の後の世界

 夫が度々漫画を買うので、つい手に取って読んでみる。夫も「これが面白かった」「〇巻になると、グッと面白くなるよ」とか売り込んでくるから、分かち合いたくなってしまう。

 そうやって読むうちに、気に入る物が次々と出てくる。
 最近話題になった「葬送のフリーレン」も面白かった。

 描かれるのは冒険を終えた勇者たちの、その後の世界。

 ゲームってラスボスを倒すまでに、冒険をする。仲間を得て、クリアするまでにそれぞれプレイヤーの旅がある。クリアしたらめでたしめでたしでストーリーを終わる。

 「葬送のフリーレン」の主人公フリーレンはエルフで、人間よりうんと長生き。

 だから冒険に出ていた期間は、人間にとって10年の歳月でも、1000年は生きるらしいエルフにとってはほんの少しの期間での出来事。人間がその期間を大きく捉えて、思いを乗せて語るのが、エルフにはイマイチ理解できない。でも確かに彼らと冒険に出た。

 魔物たちを倒して、いわゆる「クリア」した後、人間は年老いていく。死を迎える。でもフリーレンはいつまで経ってもなかなか歳を取らないから、彼らを見送る。そんな様子を見ながら、人間の思いを理解したい。彼らが何を思い、彼らとどのような旅をしたのか。
 その旅を振り返りながら、又、果たしきれなかったこと、託されたものをやり遂げるために彼らとの軌跡をたどる。結局新しい仲間たちと。少しだけ成長したフリーレンは、以前より仲間に対しても自分に対しても客観的で、周りの心を知ろうと努力してみる。
 その分、以前の仲間に対する思いが切ない。もうそこにはいない人たちだから。

 さて。
 「その後」が描かれている作品が他にもある。

 私の大好きなMCU(マーベルシネマティックユニバース)の世界でもそう。
 「アベンジャーズ / エンドゲーム」で、10年程続いたMCUの世界は一段落した。

 「アイアンマン」から始まり、ハルクやソー、キャプテンアメリカ、そのほかのヒーローたちの物語(映画)がそれぞれにあり、時に集結しては、敵と戦ってきた。

※ネタバレになります

 インフィニティストーンという不思議な力を持つ石を6つ集めると、指パッチンしただけで、自分の望みがかなえられる。
 それがすんごく手短に言えば「悪の手に渡り、全宇宙の人口を半分にさせられた」。無作為に半分。それがそっち側の正義だったので。
 パッチンした瞬間、ヒーローたちやその家族が塵となっていく。
 映画「アベンジャーズ / インフィニティウォー」を観て、絶望した。

 えっ。ここで終わり?

 なんですって……!


 呆然自失で映画館を出たものだった。

 これが「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」しか観ていなかった私が、MCUにハマるきっかけ。

 そして一年経って公開された「エンドゲーム」では、その消えた者たちを取り戻す戦いとなった。
 映画の世界では5年経ち、最終的に消えた者たちは戻ってくる。でも人々を取り戻すその戦いのために犠牲になったヒーローたちがいる。もう号泣。5年間消えていて戻った人たちの笑顔や言葉に号泣。一段落したフェーズ1~3までの約10年間の作品、ヒーローたちを思い、号泣。
 とにかく戻った。

 めでたしめでたし。

 ……で終わらなかった。

 何故なら、その5年間には一人ひとりの思いがあったから。
 突然、愛する家族を失った人たちがいた。苦しい5年間。
 突然、憎む相手や苦しみの対象がいなくなった人たちもいた。ようやく訪れた安息の5年間。
 それぞれの5年間があったのだ。失った側は永遠だと思っていたその新たな世界に対応するべく、それぞれが戸惑い、一言で表せない葛藤や受け入れる努力、新しい秩序や世界を何とか作ってきたのだ。
 
 そして一度、塵となったけど戻ってきた人々は、一瞬に感じるものだそうで、5年間苦しんできた人や、いなくて静かな生活を送ってきた人たちの気持ちを知らない。
 だけど気が付けば、5歳年下の人たちが同じ歳になっていたり、その5年の間に塵にはならずとも現実世界で亡くなっている人もいたり。時代が動いている。

 つまり、塵となった人たちが戻ってきてからの世界も混とんとし、それはそれで大変なのだ!

 っていうのが、今、MCUのドラマで次々と明かされている。

 ドラマ「ワンダヴィジョン」、「ファルコン&ウィンターソルジャー」をそれぞれ終えたところ。
 どちらも映画のような大作だった。まだMCUのドラマは次々控えていて、それらもまた次の映画作品につながってもいくらしい。

 「ワンダヴィジョン」は、魔法の世界だけど、主人公ワンダの深すぎる苦しみや悲しみが相応の大きさとして描かれている。魔女として世界をゆがめてしまうにしても、愛する者たちを失い続けた人の苦しみや悲しみって可視化すると、このくらい強いものではないだろうか。
 ドラマのつくりも最初はコメディの中の怖さがあり、次第に謎が増えていき、恐怖心は苦しみや葛藤や悲しみを感じるようになっていく。ツイッターをほぼMCUで埋めているもので、それはそれは皆さん考察三昧だった。観終わって息子と「あれが謎だね!」「あの場面はどういう意味なんだろう!」と盛り上がり、深読みし(深読みし過ぎるのもまた醍醐味)、原作の何を引っ張ってきたかを調べて比べるのも面白かった。MCUは、原作とのからめ方が、観客に、より好奇心をかきたてるように描く術に長けているのだ。

 ドラマでも充分に、映画規模の面白さとアクションがあった。

 これまでに両親を失い、兄を失い、愛する彼を自分の手で失わなければならなかったワンダ。悲しみの深さは底が知れず、涙を流さずに観られようか。
 最終的に彼女は自分の力を解放し、向けられた現実を受け入れる。ようやく真に自我が目覚める。それは彼女にとって強い魔術を手に入れていくことにもなる。彼女は自己コントロールしていけるのか。どうなっていくのか。
 今後の彼女の映画に乞うご期待!!!

 -となっているところだ。

 「ファルコン&ウィンターソルジャー」では、移民問題もあったけど、特に真摯にアメリカにおける黒人問題と向き合っていた。黒人の立場であるファルコンがキャプテンアメリカを引き継ぐ意味を考えさせられた。彼らが、常にどのような思いを抱えて行動しているのかを知る。幼少期からどのようにしつけられ、外を歩く時にはどのように意識し、公的な機関でどのような扱いを受けているのか。
 黒人が「象徴」を担う意味は、映画の世界だけでなく、ファルコンを演じているアンソニー・マッキーが「僕がキャプテンアメリカの役を背負って良いのか」とこちらに問いかけているようでもあった。
 私たちは差別感情を持たないように心掛けたくても、それは公平にものを見ようとしているだけではなくて、無知な場合も多々ある。黒人の思いを知らずに、彼らを「ただ受け入れようとする」のは違うんだと思い知らされる。

 MCUは、あらゆるテーマを家族と仲間、心の問題、社会問題、正義とは何か、人々の良心、とを、アクションやファンタジーなどとつなげて、その映画によっては軽~いコメディを交えながら考えさせる。

 アクションやファンタジーなどで「あり得へんやん」「いやいやいや」ってところを、「カッコ良い!」と思わせてくれちゃう。
 何度か同じ映画を繰り返していると、最初は息を詰めて観ていた映画も、段々声も出しながら観れる。「くーたまらんわここ!」「フーウ! カッコいい」ってアラフィフの夫婦が、語彙力をたいへん貧しくしながら楽しむ。

 何故何度も繰り返しているのか。
 流して観ていても何となく理解できるところが多いからだ。
 流しても何となく理解できるのに、何となく理解できたところを確認したくなる。
 もう一度観たらわかりそうな程度の複雑さ。そしてもう一度観ると、さらに他の場面でそうやって確認したくなる場面が出てくる。
 「エンドゲーム」まで22本、フェーズ3が終わるまで23本もあるMCUの映画は絡み合っていて、一本一本でも楽しめるのに、絡み合いも面白いから絡んだ映画をまた観たくなる。ここでは、あの映画のあの場面とつながる。このセリフはつまり、あの映画のあの場面と……てな具合で。

 メジャーどころだと、2019年「エンドゲーム」でのファルコンの「on your left」はもう名言となっている。もう私たちは「on your left」で泣ける身体にされてしまった。
 彼らの出会い2014年「キャプテンアメリカ / ウィンターソルジャー」で「on your left」が最初の軽いやり取りだから。この映画は、最初はスパイ映画の要素もあって、又、悲しい出来事が「キャプテンアメリカ / ファーストアベンジャー」から続いている。あらゆる方面に猜疑心を強く持ち、ハラハラが多くて少し怖く、悲しく感じて最初はそれほど好きじゃなかった。なのに他の作品を観ると、結果的に伏線となったものが多くて、何度も観返してしまう。
 「エンドゲーム」後の世界を物語った最近のドラマ「ファルコン&ウィンターソルジャー」を観てから「キャプテンアメリカ / ウィンターソルジャー」を観ると、ますますしびれる。この後は「シビルウォー」を観る予定。これもつながっているので。

 一本の映画の中だけでなく、映画同士で結果的に伏線。これがたっぷりあってじわじわ楽しめるのもMCUの面白さなのだ。

 こうやって、私たちファンは完全にうまくマーベルの世界にしてやられている。手のひらの上で転がされ、転がされ過ぎてあちこちぶつかって打ち身だらけだね。なんて、MCU仲間と嬉しい悲鳴をあげている。

 ああいけない。MCUのことで長くなり過ぎる。

 かすんでしまったけど「葬送のフリーレン」もちょっと切なくて、可愛くてファンタジーで、面白いのよ! 


 それぞれのストーリーの「その後」。悲しみの後にも喜びの後にも、人生は続くもので。描くのが野暮とかそんなものも吹き飛ばすくらいの巧みさが、最近は面白い。


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読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。