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80まわりの両親がまだまだ元気に引っ越し

 生家からニュージャージーへ。そこからまた生家へ、そして間もなくマンションへ、さらにその家へと、4度目の引っ越しとなった。
 38年ほど前。
 中学一年生の11月だったかな。私は電車通学だったし、兄も高校生だったから転校する必要はなく、宝塚市内の新築一戸建てに引っ越した。
 それまでのマンション四人暮らしから、母方の祖父母と六人暮らしへ。

 間取りは祖母が「これで良いでしょ」と、両親の希望も聞かず、8DKの古めかしい家の造りのものを見せられたと言う。

 仕方のないいきさつはあったようだけど、長女の母には「両親と暮らさなければならない」と強迫観念みたいなものもあったようだ。

 私にとっては両親と兄と四人で暮らす方が良かったのだけど、自分の部屋が今までのより少し広くなるのは嬉しかった。
 壁紙も自分で選べたので、その頃の私なりのこだわりで選んで決めた。最終候補の二つから一つに絞る時に悩み過ぎて、いまだに選ばなかったもう片方のデザインや色が頭に焼き付いている。


 引っ越してしばらくは、庭を見るのも楽しみだった。すごく詳しいわけではないけど、今ほんの少し花の名前がわかるのは、そこで祖母や母がたくさんの花を育てていたからだ。
 中でも色とりどりのマツバボタンと、ほわほわした夢のようなねむの木が大好きで、よく庭で花といっしょに写真を撮ってもらった。

 とは言っても大都市に近い住宅街だから、そんなに広い土地が買えるわけでもなくて、少し花や草を植えると庭はぎゅうぎゅう混みあうのだった。
 ねむの木は大きく根が張ってしまうからわりと早い段階で切ってしまい、祖父母と母の花の好みの差で、母は不満に思うことも多かった様子。日当たりもあまり良くなくて、手入れも祖母は指図するだけのことが多く。
 そのうち父が庭仕事に加わって雑草抜きをしたり、「剪定」とも言いかねるなかなかの短さに枝を切ったりと手伝うようになった。

 阪神大震災の時には瓦が落ちた部分が何ヶ所かあったため、スレートに変え、土台が悪くなったけどそれは認めてもらえなかった。廊下にビー玉置くと転がるのに。当時は地震保険なんかなかったし、市も対応に追われていたようで。

 
 祖父が亡くなり、祖母が亡くなり。
 母が引っ越しをしたがった。

 私も余計な心配をしてしまった。二人で8DKは、ちょっと持て余して不用心なんじゃないかとか、スーパーが遠くて運転が必要なのもどうなのよとか。なので引っ越しを考えているとわかると、おおいに勧めた。

 ちょっと前までは、兄が住んでいる東京の近くが良いんじゃないかと話していた。いざとなれば、私も駆けつけられる。
 だいぶ現実的な話となっていたけど、両親二人ともが関西で良いと思っているとわかり。いや「関西で良い」というより「近所が良い」。
 80歳くらいで、知らない土地に行くのって不安なんじゃないかと、多少それもそれで心配だった。道に迷ったりしたら、自信を失くしてしまうんじゃないだろうか。

 「だからね、〇〇建設(家を建てた会社)に話したら、この家建てた時の〇△さんが物件を紹介してくれてねー」と言う。その方、38年前は新人若手だった。まだいらしたんだ!
 ベテランになって、もうすぐ退職のようだけど、「懐かしい!」と互いに喜び合い、親切に熱心に紹介、案内してくれたそうだ。母も納得がいくまで数年かかるかもーなんて、心おきなく探すつもりでいた。

 そのうち母がちょっと前から「素敵だな」と思っていたマンションがタイミング良く空くとわかり、とんとん拍子に話が進んだ。

 引っ越しは1年くらい先と勝手に思っていたのが急に「数か月先」になった。
 急な展開にビックリだ。あわてて「私の部屋の壁紙、ずーっと好きだったから写真を送って」と頼んだ。
 とにかく二人とものエネルギーがすごいぞ。
 更年期じゃなきゃ少しは手伝いに行っただろうに、今の時点では私の方が疲れやすいみたいだ。多分私は行ったところで足を引っ張るだろうから、引っ越し屋さんにくれぐれもお世話になるよう言い聞かせた。

 先日は前の家をこっそり見に行ってみたそうだ。
 中に残していた家具が出され、窓のガラスが全部取られ。いよいよ解体の段階だったらしくて、母もさすがにこみ上げてくるものがあったらしい。


 でもその後の両親は新しいマンションで、それぞれに自分の居場所を作ったり、物のある場所に少しずつ慣れようとしたり。
 好奇心と戸惑いで日々新鮮な様子。
 何より良かったのは、母が祖父母の目などなく、慌てて片づけなくてはと体にムチ打ってがんばるわけでもなく、ソファで昼寝をしているとか。自分たちの巣で好きなように過ごしているのが伝わる。
 以前から昼寝くらいはさすがにしていたけど、でも前の家だとなんとなくずっと誰かの監視があるような感じだったのよねえ。いろんな場所にいろんな思いがあるような。
 今は解放感かな。近所の長年のしがらみからもね。

 マンションでは好きな花でも植えてみるのかな。
 草抜きに追われないで良いからきっと少しラクだよ。
 物の置き場所もゆっくり慣れていけば良いからね。

 秋には応援に行けると良いなあ。



読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。