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[ライブレポート]11/19 A Night of Brazilian Music & Jazz@ミューザ川崎シンフォニーホール (ロビーコンサート~第一部)

かわさきジャズ2023のイベントの最後を飾ったのは、ミューザ川崎シンフォニーホールでの「A Night of Brazilian Music & Jazz」。第一部はイリアーヌ・イリアスの予定だったが、怪我で来日できなくなり、急遽、山中千尋トリオ+スペシャルゲストMARIANAに変更になった。山中千尋はイリアーヌの代理を務めるとあって気合十分、いつにも増してホットな演奏を繰り広げた。第二部はエリック・ミヤシロ率いるブルーノート東京オールスターズ・ジャズ・オーケストラ。「オールスター」という用語は良く使われるが、これこそはそれぞれが第一線でリーダーとして活躍中の本当のオール“スター”による編成。日本のトップレベルの演奏を堪能することができた。

【ロビーコンサート】

小沢咲希(p) 安田幸司(b) 安藤正則(ds)

開演前、2Fではロビーコンサートとして小沢咲希トリオが演奏している。普段はがらんとした感じの広いロビーも、演奏が始まる前から黒山の人だかり。

タッド・ダメロンのTadd's Delight、小沢咲希オリジナルのPoppin'、同じくバラードでMy Old Granddad。

小沢咲希は12月にここミューザ川崎シンフォニーホールで行われるジルベスターコンサートに出演するので、MCでその宣伝も忘れない。

そして、ブラジル音楽特集なので、シダー・ウォルトンがアントニオ・カルロス・ジョビンに捧げた「Theme for Jobim」をサンバで、20分の予定をオーバーしかけてテーマとピアノソロだけ演奏して、ステージを取り巻く沢山の聴衆の拍手を浴びていた。

【第一部】<山中千尋トリオ with special guest MARIANA>

山中千尋(p) シンサカイノ(b) ダニエル・バエデール(ds) MARIANA(vo) 

筆者の座った2階席からはステージの配置が良く見える。2ndのビッグバンド用の椅子とドラムセットがすでに配置されていて、第一部は中央にもう一つダニエル用のドラムセットが置かれている。暗転して、山中千尋が臙脂色の肩が大きく開いたドレスで登場。最初のMCで「イリアーヌ・イリアスが好きでこのコンサートのチケットを予約していたら、急遽出演の依頼が来てステージに立つことになった」と話して、メンバーを紹介する。

イリアーヌの代わりに出演することを意識して、最初の曲はイリアーヌの曲、「Impulsive!」。超アップテンポで、指が鍵盤を駆け巡る。シンサカイノのベースが躍動し、ダニエルのドラムスが強烈なドライブ感で迫る。早速会場が大きな歓声と拍手に包まれる。

ここでヴォーカルのMARIANAが登場。ジョビンの「イパネマの娘」。ポルトガル語で歌うので曲名は「Garota de Ipanema」。澄んだ、良く透る声がホールの高い天井いっぱいに響く。バックのトリオも張り切って、ピアノソロで一転サンバ調になったり、リズムに変化を付ける。ヴォーカルが入っているが、ピアノトリオとしての演奏にも十分な尺があって聴きごたえ十分。3曲目もジョビンで「How Insensitive」。スローボッサ。MARIANAの伸びやかな声に、会場がしんと聴き入る。ジョビンが続いて、次は「Desafinado」。これもポルトガル語で歌う。ボサノヴァだが、ピアノソロでは後半アップテンポのスウィングにして聴かせどころを作る。

MARIANAがはけて、ここからまたピアノトリオで、山中千尋が急遽イリアーヌに捧げて作った新曲「Elias」。ミディアムテンポのボサノヴァで、美しいテーマ。シンサカイノのベースソロはシンプルに音を積み重ねていく。ピアノソロはキラキラした感じから次第に盛り上げて、また静かなテーマに戻る。とても短時間で作曲したとは思えない、彼女の作曲のセンスが光る一曲。

次はドラムスのダニエルをフィーチャーして、ベートーヴェンのピアノソナタ「悲愴」の第3楽章をファンクビートに乗せて演奏。パラパラパラとよく指が動いて、畳みかけるようなピアノソロは山中千尋の面目躍如。そしてダニエルがパワフルそのもののドラムソロ。目にも止まらぬスティック捌きが見る者の目を釘付けにする。これには満場が大喝采。

山中千尋は、「イリアーヌのことを本当に好きで、いつもライブを最前列の席で聴いていた。同じように毎回かぶりつきで聴いている大ファンの女性が2人いてお友達になった。一人はスペイン、一人は中西部から来る人で、3人いつも一緒だったので、先に来た人が後の人の席をこっそり確保して上げていた」とNYでのイリアーヌとの思い出を語る。

ラストは山中千尋の十八番、「八木節」。やはりこれを聴かないと彼女のライブは終われない。何度も聴いているが、超速で、髪を振り乱しての大熱演。最後は拳で鍵盤を叩く。ますますスケールアップした八木節が聴けて満足、満足。

割れんばかりの拍手に、アンコールはMARIANAが加わって「Tristeza」。イリアーヌの怪我が早く良くなるようにこのアンコールの演奏をビデオに撮って彼女に贈る、と言って、バンドが演奏を止めてラララーラ、ラヤラヤーララーラ、と会場が唱和するのを山中千尋自身がスマホで撮影している。ミュージシャンと会場の一体となった興奮がイリアーヌに届いて、早く回復するように祈りたい。

 TEXT:Ikeda Nori(かわさきジャズ公認レポーター)
PHOTO:Tak. Tokiwa

セットリスト

  1. Impulsive!

  2. Garota de Ipanema (MARIANA vo)

  3. How Insensitive (MARIANA vo)

  4. Desafinado (MARIANA vo)

  5. Elias

  6. Beethoven Piano Sonata "Pathétique" 3rd mv.

  7. Yagibushi

Enc1. Tristeza

●公演情報

かわさきジャズ2023 A Night of Brazilian Music & Jazz
日時:2023年11月19日(日)開演18:00(開場17:00)
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール

<第二部>につづく