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【書評】壊れかけた家族とホームスパンの物語〜『雲を紡ぐ』(伊吹有喜)

こちらも直木賞の候補にノミネートされた作品。伊吹有喜さんの『雲を紡ぐ』という、ホームスパンを題材とした家族小説です。いい小説でした。

※書評一覧の目次はこちら

1、内容・あらすじ

主人公は高校2年生の山崎美緒。

いじめが原因で、不登校状態が続いていました。母や祖母も美緒のことを理解してくれず、父は仕事が忙しくてほとんど家にはいません。両親の間も不仲でうまくいっておらず……。

そんな美緒の唯一の心のよりどころは、岩手の祖父母がくれた赤いホームスパンのショールでした。

生後一ヶ月の初宮参りにもらったもので、とても柔らかい手触り。何年経っても色あせることがなく、このショールに包まれている時だけは、時間が止まったような気になるのでした。

しかし、母がこのショールを取り上げてしまい、美緒はショックを受けます。そして半ば衝動的に家を出て、岩手県盛岡市の祖父の元へと向かいます。

美緒は、ホームスパンの職人である祖父の元で、見習いとして働くことになります。羊毛を染めて、紡いで、織るホームスパンに美緒は次第に魅せられていきます。

一方、美緒の不在の間、父と母の不仲が決定的なものになり、離婚話が持ち上がってしまいます──。

2、私の感想

まず、美緒の一家が徹底的にうまくいかず、壊れてしまう様子に胸が痛みます。美緒も父親も母親も祖母も、それぞれの立場から考えて気持ちを表現しているだけなのですが、これがことごとくかみ合わず、裏目に出ます。

「これだけ分かり合えない家族がこの後修復できるのか?」と心配しながらページをめくっていきました。

個人的には、美緒の母と祖母の対応に私は腹が立って仕方ありませんでした。仕事柄、「これは不登校の対応としてよろしくない典型的なパターンだな」と思いました。

救いは、ホームスパンの職人である祖父をはじめとする岩手盛岡の人々と自然。彼らに助けられながら、少しずつ美緒は自分自身や家族と向き合っていきます。

岩手やホームスパンがとても魅力的に描かれており、作品の本筋とは別に、ぜひ岩手に行ってみたくなりますし、ホームスパンも欲しくなります。

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南部出身の侍、吉村貫一郎が活躍する浅田次郎さんの『壬生義士伝』を思い出しました。吉村貫一郎が、作中で岩手の魅力を語っていました。

岩手やホームスパンの魅力がふんだんに詰め込まれた、素敵な家族小説でした。

3、こんな人にオススメ

・家族の問題を抱えている人
「合わない身内にどう向き合ったらいいか」ということへのヒントがつかめるかもしれません。

・岩手に興味がある人
さながら、岩手名所案内のような感じです。地元の方も喜ぶのではないでしょうか。

・職人やものづくりに興味がある人
ホームスパンの作業工程など、興味津々で読めると思います。


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