【書評】婚活+ミステリー+恋愛小説『傲慢と善良』辻村深月
これは、基本恋愛小説ですが、謎解きの要素もあり、さらに婚活のリアル事情もよくわかって読み甲斐のある小説でした。面白かった。
『傲慢と善良』。作者は『かがみの弧城』で有名な辻村深月さん。
1、あらすじ・ストーリー
主人公は2人の男女。西澤架(にしざわかける)39歳と坂庭真実(さかにわまみ)35歳。
物語は、この2人の目線からそれぞれ語られます。最初は架目線で物語がスタート。
2人は婚活アプリで知り合って交際しており、結婚も決まって一緒に住んでいました。
ある日の夜、架が家に帰ると真実の姿がなく、架は不審に思います。翌日になっても連絡がつかず、どうやら失踪したらしいことがわかります。
真実は過去にストーカー被害にあっていました。架は、彼女の失踪にこのストーカーが絡んでいるに違いないと思い、警察にも調べてもらいますが、一向に手がかりがつかめません。
警察が手を引いたあと、架は自力で真実を探し始めますが、やはり行方はわからず……。
真実が消えてから3ヶ月後、架は女友達から意外な事実を聞かされ、愕然。その事実を聞いて架も「あること」を疑い、確かめます。
ここで物語は真実目線の第2部に移り、失踪の理由が明らかに……。
……というストーリーです。
2、私の感想
はっきりと「婚活」がテーマの作品なので、婚活をめぐる事情がかなり細かく書き込まれています。
まず、婚活がこんなに大変なものだとは思わなかった、というのが第一の感想です。
なんだか就活みたいだな、と思っていたら、そんな記述も出てきました。
恋愛の先にあるべきものが結婚だと思ってきたはずなのに、出会う女性出会う女性に、これまでの恋愛のような楽しさが感じられない。軽やかな遊びの部分が排除され、社会的な存在としての価値のみが試されるこれは、むしろ、恋の楽しさの対極に感じられた。何かに似ている──と考えて、ああ、これって就活と似ているんだ、と気づいた。あの時の、試され、選ばれるように努力しながら、選ばれ、落とされ──というしんどさと、どこか似ている。
作中で、架が、真実がかつて登録していた結婚相談所を運営している女性に会いに行く場面があります。この女性がすごいのです。
見た目は上品な老婦人なのですが、婚活、そして婚活をしている男女について、穏やかにズバズバ言います。そしてそれがいちいち的を射ているのです。
この人のセリフを見るだけでも、この本を読む価値があります。
「傲慢と善良」というタイトルもここに由来します。
「現代の日本は、目に見える身分差別はもうないですけれど、一人一人が自分の価値観に重きを置きすぎていて、皆さん傲慢です。その一方で、善良に生きている人ほど、親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて、〝自分がない〟ということになってしまう。傲慢さと善良さが、矛盾なく同じ人の中に存在してしまう、不思議な時代なのだと思います」
うーむなるほど、とうなずくしかありません。この「傲慢と善良」というキーワードはいたるところで何度も出てきます。
そして読者として気になるのは架と真実の行く末でした。
真実の目線から書かれた第2部を読んで、「これはもう別れるしかないんじゃないか?」と思いましたが……。
結末に納得できたので、読後感はとてもよかったです。
3、こんな人にオススメ
・現在婚活中の人
グサグサ刺さるかもしれませんが、いい結果につながる気がします。少なくともマイナスにはならないはず。
・これから婚活を始める人
婚活に向けて、心の準備ができていいのではないかと思います。
・20歳以上の人
この小説は多少、年齢を選ぶかもしれません。高校生が読んでも勉強になるでしょうが、よりリアルに読めるのは20歳以上の人かと。
名作、『かがみの孤城』も貼っておきます。これもいつか書評を書きたい本です。
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